ザ・グレート・展開予測ショー

黒い猫 −中編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 3)


 で、翌朝。

 何故か学校の昇降口前で横島は転がっていた。

 とても生きているようには見えなかったが、誰しもが、その彼の姿―――肉片を見ても何を思うこともなく通り過ぎてゆく。
 日常風景の一部―――限りなく非日常な一面であると思うのだが、吸血鬼やら、机娘やら、変なピアノ弾きやら、ドッペルゲンガー美術教師やら、早弁セクハラ虎やらいろいろいるので、日常なんぞとっくの昔に狂っているわけである。
 ・・・卒業した後、いろいろ平穏な日常に退屈しそうな気もするが。それはそれである。

 唯一、通りがかりの学校の訪問客が、異常に気付き、救急車を呼んでくれたのが、彼に掛けられた唯一の優しさであったと言うこと。

 白く塗られた壁、通されたのは個室。白いカーテンがゆらゆらと揺れている。窓は開け放たれていた。早春と言うにも、まだ早すぎる時期、それでも、狭い部屋の中にいる人数を考えれば、その風も涼しく感じる。

 優しく頬を撫でる風と、弟子の指。むず痒さを感じながらも、悪い気はしない。寧ろ、心地良い。離された指に、少し恨めしげな顔をしてしまったのは内緒だ。

 そして、弟子が、叫ぶように、言う。

 「・・・先生っ!!どうなされたのでござるかっ、その傷は・・・」

 入ってきてから、言葉もなく、ただ、俺に触れていたシロ。言葉も出せないほど、驚いたと言うことなのだろうか、そんな彼女を好ましく思う。
 心配してくれたのだろう、本気で。

 「名誉の・・・負傷という奴だ。・・・しかし、悔いはない。俺は女に命を賭ける男じゃきに」

 「先生・・・意味が分からないでござるよ!?」

 「・・・シロ・・・お前は女だから分からないかもしれないが・・・男とは何時いかなる時でも・・・狙っていかなくてはならないんだ・・・。人それを侍と呼ぶ」

 「侍・・・先生は・・・侍なんでござるか?」

 「・・・いや、まだ、未熟者だ。そうでなければ・・・こんな醜態を晒すこともなかったろう」

 「・・・何て・・・奥ゆかしい言葉・・・先生っ!!」

 この会話は何なのだろう?
 シロの後ろで、座り、二人の会話を聞いていた美神、おキヌ、タマモは、彼の話す一見すれば意味不明な言葉に込められた真意を読み取ろうとし―――きっちり十秒後。


 「つまり・・・あんたは女を狙って返り討ちにあったと」

 美神が動いた。

 「・・・ものは言いようですね」

 「こっちの・・・台詞じゃぁぁぁぁぁ!!!」

 言いつつ、立ち上がり、腰掛けていたパイプ椅子を持ち上げるっ!!

 「ああっ、美神殿、やめるでござるよっ!!パイプ椅子で殴りつけたら先生がぁぁ!!」

 「やかましいっ!!このくらいのことで死ぬような奴じゃないわよっ!!」



 「・・・まぁね。この程度で死ぬような奴なら、幾ら命があっても足りないじゃない」

 はむはむと、お見舞いの品のお揚げを咀嚼しながら、タマモは呟く。

 「あははは・・・そうね。―――結構、辛辣ね、タマモちゃん・・・」

 苦笑いを浮かべながら、どうフォローすべきか迷う、が、彼女の言っていることが正論なので、何も言えない。

 「そりゃあね・・・」

 これで、何度目なのよ・・・呆れつつ、タマモはいつもの光景を見つめていた。



 「死ねっ!!横島っ!!」

 「あ〜!!やっぱり先生を殺す気でござるなっ!!」

 何と言うか、良い意味でも悪い意味でも天然純粋培養(謎)のシロであるからして、この場の状況をあまり理解していないようである。
 そして、人間の壁よろしく、先生をかばうように割り込む。

 「うわぁぁぁぁっ!!美神さんっ!!タンマッ!!」

 「シロっ、そこをどきなさいっ!!でないと、あんたごと横島をぶっ殺すわよッ!!」

 「どきませぬっ!!先生は・・・拙者が守るでござるっ!!」
 
 「シロ・・・何て・・・可愛い奴・・・」

 「先生・・・」

 見詰め合う二人。場の空気をまるで理解しない、お前ら、ここを何処だと思ってやがんだ?と、突っ込みたくなること間違いなしの映画のワンシーンのようだった。


 「あ〜・・・ありゃあ、拙いわね」

 特に面白くもなさそうに、お揚げ大全を読み流しているタマモ。その実、内容はしっかりと把握している辺り、お揚げニスト(謎)らしさはまるで消えていない。

 「横島さん・・・(ぷくぅ)」

 頬を膨らませるおキヌちゃん、破壊力抜群の怒りっぷりではあったが、残念ながら誰も見るものはいなかった。

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