ザ・グレート・展開予測ショー

黒い猫 −前編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 3)


 眠れる夜にあなたと出会う。
 知らないあなた。知っている私。
 夜空に浮かぶ、幾億の星を眺めながら―――あなたは笑う。
 私は少し苦笑い。
 私は知っている。この次にあなたが何をするのか。
 だから、ゆっくりと、拳を握る。
 予備動作も為しに―――あなたは飛び掛ってくる。
 信じられない程のスピード。でも―――甘い。
 そんなものじゃ、私は捕らえきれないわっ!!
 何故なら私は『物の怪』だもの。
 ただの獣には負けないわ。

 「ねえちゃ―――ばきぃっ―――ぐはっ・・・」

 左足を前に出し、右側の腰を伸ばすように回す。

 体重を乗せるように、脇を占め、手の平を上にするように握りこんだ拳を突き出す。
 インパクトの瞬間に回転させながら。
 えぐりこむように―――打つべし。

 そして、真正面から飛び込んできた彼の顔に、めり込む私の右拳。

 何か、鼻とかから赤やら白やらいろんな汁がこびり付く。

 でも、いいの。私は物の怪だから。


 ―――ゆっくりと、沈み込む彼。
 ふふふ、でも、一応、とどめは差しておかないとね。
 足を上げ、気付く。
 私の今の格好は―――スカート。
 足を上げると―――乙女の秘密(謎)が。

 「・・・悔いなし」

 「死ね」

 頭の辺りを思い切り踏み潰す。

 ゴンっ、というアスファルトと頭がぶつかる鈍い音が聞こえるけれど気にしない。
 何故なら私は物の怪だし。
 人間を襲うことなんてしょっちゅうだし。
 今回の標的はたまたま運悪く彼であったと言うだけ。



 ・・・起き上がる気配がない。
 やりすぎたかしら?いや、でも、彼の雇用主はあれよりももっと酷いことを彼にやっているからそれはないと思うのだけれど。
 まぁ、起き上がらない方が好都合よね。
 背中に背負って、夜道を歩く。
 完璧に、酔っ払いを運ぶ美人のお姉さんにしか見えないわ。
 ―――いや、私の視点からじゃ私がどうなっているのか分からないんだけどね。

 ・・・歩き始めてから一分。
 胸の辺りに違和感を感じる。
 くすぐったい・・・。
 視線をそこに向ける。
 成る程、納得。
 どうして、某雇用主が彼が倒れてしまった時引きずってゆくのか分かってしまった。
 こういうことなのね。
 ふふふ。
 ぶっ殺す。

 がすっ、べきっ、どごっ、ばごっ・・・べちゃっ。

 あ、また、右拳に何か嫌な汁がついてしまったわ・・・。
 気持ち悪い、でも、気にしないわ。
 私は(以下略)。

 今度は引きずって夜道を歩く。
 完璧に、死体を運ぶ殺人犯―――美人の―――にしか見えないわね。
 ―――いや、私の視点からでは見えないのだけれど。

 ―――これって、やばいかもしれない。
 結構。



 第一発見者の証言―――犯人の特徴ですか?
 う〜ん・・・猫耳?

 ・・・捕まるわね。
 いや、でも、ひょっとすれば犬耳と間違ったりするのでは・・・?

 第ニ発見者の証言―――犯人の特徴だべか・・・(何故か田舎の人)

 う〜ん、ほんとにめんこい御嬢さんだで、声をかけようとしたんだぁ。でも、すぐに逃げて言ってしまったんだぁ・・・うん。

 ―――もっと、具体的なもの?

 うーん、目は細目、黒目がち、顔は小さく、痩せているけれども・・・出るとこは出てて・・・何と言っても犬耳だでな。犬耳。


 ―――犬耳。ふふふ、この一言で私ではなくなるわね。
 何故なら私は(以下略)。

 でも、危険なことに変わりはないわ。幾ら犬耳と間違われる可能性が無きにしも非ずとはいえ、そう、急がなくてはならないでしょうね。

 私は走り出す。
 人間の全速力なんて比じゃないわ。
 私と比べればモーリス=グリーンも、カール=ルイスも目じゃないわよ。
 百メートルを三秒台で駆け抜けるのだもの。
 後ろに重りをぶら下げていても同じこと。
 がん・ごん・ぐちゃと響く音と共に、乗ってくる私のスピード。
 何故かしら―――凄く心地がいい。
 そう、彼がいるからなのかしら。
 甘美な時間、まさか、彼との散歩がこんなに気持ちが良いものだなんて。
 ふふふ・・・そうなのね、愛子さんも言ってたけど、そういうことなのね。
 彼は人外のものに好かれやすい。
 つまりは、電波が良いのよ。私と彼は。



 ああ、どこまでも駆けて行きたい―――そうどこまでも。

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