ザ・グレート・展開予測ショー

酔えども、見えず


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 3)


 自虐思考があるわけではない、とは思う。吐くまで飲んで行き着いた先に見える幻覚を求めようとするのも、それなりの理由がある。他人には分からないだろうが、計算され、生み出された結論だ。

 憧れは、恋となりうるか?
 敬愛は、愛となりうるか?
 僕の中に、自分に憤る二つの心がある。

 未練がましく淡い思いを引きづる愚かさと。
 それをほかの誰かに投影する浅ましさ。

 眩暈の中で感じる、現実の重みに―――その言葉は甘美だった。

 あなたは―――そこにいたんですね。

 苦笑いが、歪む。






 「誰も知らない、そう思ってきました」

 天井を見上げる。誰もいない部屋、独白。

 「でも、きっと、知っている。あなたは」

 おかしくなっている、分かっているのだけれど。

 「・・・幼心に覚えた、ちっぽけな憧れです」

 酒の力を借りて、紡ぎだす。拙い言葉で。

 誰もいない部屋。聞くものなど―――居ようはずもない。

 「だから―――忘れたかった」

 永久の別れと、知った時に、絶望感と喪失感と深い悲しみの中で覚えた違和感―――安堵。

 同情と、哀憐の眼差しの中で、決してあなたのことを思わなかったことはない。

 それでも―――安堵していた。

 それ以上に、胸を指す刺が痛かったけれど。

 「僕は―――あなたが好きだった」





 静かだった。

 ソファーに沈めた体。

 ぼやけた意識。

 潤んだ瞳。

 飾り気のない部屋―――質素とさえ言ってもいい。

 人はどう思うか知らないけれど、これが自分にはふさわしいと思う。



 少なくとも、鮮やかに彩られた街の風景は―――合わない。



 「・・・幻だと言うことは、分かっています」

 「報われない恋心・・・そうだということも分かっている」

 「だから、あなたに伝えることはない」

 「・・・意気地なしと笑われても構わない」

 「いや、あなたは笑わないでしょう。きっと―――困ったようにはにかむだけ」

 「私は―――言えない。あなたを困らせるわけには・・・いけないから」

 「私は―――言えない。こんな中途半端な気持ちで彼女を好きになるわけにはいかないでしょうし」

 「・・・憧れから恋愛感情になった場合―――報われないことが殆どらしいです―――そう、初恋もこれにきっと当て嵌まるのでしょうね―――私も、初恋です・・・」

 「・・・だからでしょうね、僕の中で、鮮明に―――残りつづける」



 「・・・夫も、子供もいる―――あなたを愛した」

 「馬鹿な男です・・・僕は」


 咽喉を焼く熱い衝動―――

 足取りは重く、ゆっくりと、トイレへと向かう。

 白い便座を上げ、思いを吐き出す。

 何もかもを忘れるように。

 痛い―――咽喉が―――心が。













 「先生・・・先生っ!!」

 何故、生きていたんですか!?

 諦めることが出来たっ!!

 そう、あなたがいなくなったのだと思えばっ!!

 淡い憧憬、過去の人と思うことも出来たのにっ・・・

 でも、あなたは生きていたっ!!

 まだ、心幼い僕を、優しく包み込んでくれたあなたがっ・・・

 僕は―――僕はっ!!



 眠れない夜。

 夢に出てこないで欲しいと祈る。

 それでも―――今日という日になると見てしまうのだ。

 僕が初めてあの人と出会った日。

 何も知らず、ただ、不器用に自分の思いをどうして伝えようか悩んだ日の事を。

 もどかしさに、切なさに、心を狂わせた日々の事を。

 思い出してしまう。

 呆れるほどに。

 ―――今日も、夢の中にあなたは出てくるのだろう。


 けれど―――私もあなたを望んでいるのだと思う。





























 やっぱり―――私は・・・あなたが好きです。

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