ザ・グレート・展開予測ショー

さあ、どっち?(黒・1)


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 3/ 1)


 変わったのは、きみと彼女だけか?
 ここは、きみたちだけの世界じゃない。
 (角野文章著『塩辛と熱気球』) 




 二、三日は、何事もなくすんだ。
 最初は警戒していた横島も、すこしホッとしていた。
 なんだ、あの野郎、ウソつきやがったか。まあ考えてみれば、錠剤を飲んだ俺自身が変わるならともかく、他人の態度が変わるなんて、普通ありえないよな。

 今朝もいつも通り、シロとの散歩である。近頃は、シロも横島の体力を気遣い、二十五キロで勘弁してくれるようになった(それでも一般人にはキツいだろうが)。

 「先生、お願いがあるんでござるが・・・」
 「お願い?なんだよ?」
 「拙者と一緒に、人狼の里に来て欲しいのでござる」
 横島は、いよいよ来たかな、と思った。
 「なんでだよ?」
 「拙者が、人間たちとうまく暮らせているということを、拙者と一緒に、長老に説明して欲しいのでござる」
 
 もっともらしい説明だ、と横島は思った。ホイホイついていったら、そのまま結納なんてことになりかねないぞ。
 あの錠剤を飲んでなかったら、別段気にしなかっただろうが。ここは心を鬼にして断るか。
 
 「悪いけどさ。今、事務所を空けるわけにはいかないだろ」
 「そんな!美神どのも、事情を話せば、わかってくれるでござろう!?」
 「いや、そうじゃなくて。俺も時給制だからさ、出勤しないと今月はヤバいんだ」
 横島は、さりげなく防御線を張った。
 「・・・その、拙者は決してミョーなたくらみをしているわけではないでござるよ?ドサクサまぎれに先生と結納に持ち込もうなどとは・・・あ。いや・・・」
 「シロ。まだまだ修行が足りないようだな」
 横島はニヤニヤしながら、シロの顔を覗き込んだ。
 「・・・うわあぁ〜ん!先生のバカ〜!」
 シロは突然泣き出し、到底追いつけないスピードで走っていってしまった。
 「しかしなぁ・・・。最近、みんな、おかしくなってきたなぁ・・・」

 その様子を、ほくそ笑みながら見守る者がいた。
 (ふふふ。もうちょっと考えてから実行しなさいよ・・・)

 一仕事終えて、昼食を終えたときである。
 「あのさ、横島」
 「ん?なんだ、タマモ」
 「先週のポーカーの負け、まだ払ってもらってないよね?」
 
 こういう遊びは、シロのほうが熱心だが、彼女はあまり強くない。一方タマモは、普段はあまり興味なさげだが、いざやりだすと無類に強い。あの美神でさえ一目おくほどだ。
 「先週のことなんざ、どうだっていいだろ・・・」
 「そうはいかないわよ。キッチリ払ってもらいますからね」
 「へーへー。いくらだっけ?」
 「駅前の饗香堂のきつねうどん、そうねえ・・・二杯でいいわ」
 「さっき食ったばかりだろ・・・」
 「あそこのは別腹よ!」
 「しょうがねえな。いいよ」

 「先生、行ってはいけないでござるよ」
 シロが、薄笑いを浮かべながら横島を制した。
 「・・・なによ。あんたは引っ込んでなさい」
 「ふふん。ネタは上がっているでござる」
 シロは懐から一枚の紙切れを出すと、大きな声で朗読しはじめた。
 
 「1・横島を、ポーカーの負けを口実に連れ出す。
  2・腹減らしと称して、駅前広場を二時間ほどつれまわす。
  3・自分もきつねうどんを食べつつ、うまく言いくるめて、横島にもたくさんの    メニューを食べさせる。
  4・横島の頭が回らなくなったところで、『最近、おもしろい術を覚えたんだ』    『へえ、それってどんなの?』横島の意識を引きつけておいて、魅了の術     を・・・」
 
 「こ、このバカ犬!!」
 タマモは真っ赤になって、シロから紙切れをひったくった。
 「これ、私のベッドのマットレスに挟んでおいたのに!他人のベッドさぐらないでよ!」
 「残念だな、エロ狐。これを見つけたのはおキヌどのでござるよ」
 「え・・・・・・」
 タマモの顔から、血の気が引いた。
 「あんまりお前が掃除しないから、見かねたおキヌどのが掃除して、これを見つけた・・・というわけでござる。あのときのおキヌどのの顔といったら・・・」
 「う、ぐぐぐ・・・」
 「策士、策におぼれる・・・といったところでござるな。あっははは」
 「な、な、なによ!あんただって、今朝、横島を人狼の里に連れ込んで、有無をいわさず結納式を挙げようとしてたじゃないの!」
 「な!?お前、見てたのでござるか!?」
 「人のことをどーこー言える立場じゃないでしょうが!このモーソー犬!!」
 「覗きまでするヘンタイ狐が!表に出ろ、成敗してくれる!!」
 「ちょうどいい機会だわ!ケリつけてやる!!」
 「その前に、お姉さんに事情を聞かせてもらえるかしら?」

 「え、あ、美神どの・・・」
 「あれ、いつ帰ってきたの・・・?」
 「ついさっき。おかげでお腹ペコペコよ。さあ、二人とも、あっちの部屋へ行きましょう。カツ丼ぐらいは食べさせてあげるわよ?」

 (危ないところだった。タマモもか・・・)
 泣きながら連行される二人を見て、横島は身震いする思いだった。
 (こりゃ、しばらく身を隠したほうがいいかもな・・・)

 「そうですか。シロちゃんまで・・・」
 午後十一時を過ぎたころ。おキヌは、美神から事情を聞かされていた。
 「ったく、ガキのくせにねえ」
 「あ、あの、美神さん。・・・このまま放っておいていいんでしょうか?」
 「・・・前にも言ったけど、妬けるんなら、横島クンにモーションかければ?でなきゃ、あきらめるのね。まあ、あんたが動けば、あのコたちもあきらめるでしょうし」
 言い終わっても、おキヌの返事が返ってこない。美神は、おや、と思った。
 おキヌは、真剣な顔で考え込んでいる。
 「あ、いやでもね!?あくまで一般常識を踏まえなきゃダメよ!?それと、横島クンの気持ちも考えてあげないと・・・あの、聞いてる?」
 美神は、なにかイヤな予感を感じて、あわてて言ったが、すでに手遅れだった。
 「わかりました!横島さんの家に行ってきます!」
 「え?あの、今から!?」
 「はい!善は急げ、です!!」
 おキヌは大きなバッグにすさまじい勢いで“お泊りセット”を詰め込み、弾丸のように事務所を飛び出して行ってしまった。

 ああ、朝だな・・・。
 横島は目を覚ました。しかし、すぐに部屋の異変に気付いた。
 (あれ・・・なんだ、この感触・・・?)
 自分の目の前で安らかな寝息をたてている人間に気付き、横島はギョッとした。
 「う〜ん、よこしま、さん・・・」
 ピンクのパジャマを着たおキヌが、気持ちよさそうな顔で眠っていたのだ。
 (おキヌちゃん!?なんで俺と一緒に寝てるんだ!?)
 そのとき、おキヌのほっそりした腕が伸びてきて、横島の頭を抱えた。
 横島の頭は、おキヌの胸に抱きしめられる形になってしまった。
 「ちょ、ちょっとおキヌちゃん、離して・・・」
 おキヌの力は案外強く、横島は、ただもがいているだけといった様子である。
 「あん・・・やだ、よこしまさん・・・えっちぃ・・・」
 おキヌは甘く鼻を鳴らして、ますます強く横島を抱きしめた。

 おキヌの胸は、規則ただしく動いている。まだ目覚めていないようだ。
 横島は、おキヌちゃんのムネ、すこし大きくなったような気がする・・・などと考えながら、一つの結論をはじき出した。


 そうだ、京都に行こう。


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