ザ・グレート・展開予測ショー

こんなおキヌちゃんは好きですか?2 −後編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 1)


 「・・・誰も・・・いないようね」

 事務所の中を外から眺め、灯りが灯っているかどうか確認する―――が、人の様子はない。

 「美神殿も・・・実家の方に移ったのではござらんか?」

 尻尾を振りながら嬉しそうに言うシロ。早く入ろうと言わんばかりにタマモの腕を掴み、振っている、がタマモの表情は暗かった。

 「・・・でも・・・拙いのよね・・・人口幽霊一号がいるから・・・ばれちゃうのよ、私たちが入ったこと・・・」

 「黙ってもらうわけには・・・」

 「無理よ。オーナー権限とかで、逐一報告することになってんだから・・・」


 「じゃあ、どうするのでござるか!?」

 「押して駄目なら・・・引いてみろ」

 「具体的には?」

 「美神に直談判」

 「タマモ・・・大丈夫でござるか?」

 頭が。正直、シロはタマモの正気を疑っていた。タマモもそれに感づいてか、溜め息をつき、言う。確かに、そう思われても仕方ない。

 「・・・いい?駆け引きよ。おキヌちゃん対美神の今の構図の中に私たちは入ってないわ。まぁ、おキヌちゃんよりではあるけど中立を保っているといっても良い。で、私たちがどこに動くか、なのよ。問題は」

 「・・・成る程・・・それで?」

 「美神の側に行けば―――多少なりとも支援を受けられる。その代わりに横島を戻さなければならなくなるだろうけど・・・」

 「そんなの・・・無理でござるよ・・・。昔よりもはるかに幸せそうな顔をしてるし・・・先生が可哀相でござる・・・」

 「まぁ、正直、あれに引き渡すのは良心が咎めるわね・・・それに・・・おキヌちゃんを敵にまわすのも・・・恐いし」

 「下手をすると・・・先生まで・・・」

 「でも、このままでは・・・餓死よ」

 凍え死ぬ可能性も否めない。

 「・・・手段を選んでいる時ではないと」

 「そうよ。それに、約束をしても破っちゃえば・・・」

 まぁ、それは冗談にしても・・・そう繋げようとしたものの、自分の言っていることが冗談にならないことに言った後、すぐに気付く。

 「・・・タマモ・・・相手は・・・」



 「きつねうどんに・・・されるかしら?」

 「・・・少なくとも・・・狼鍋は美味しくないでござるよ・・・(泣)」

 自分たちに残されている選択肢の先は―――あまりにも・・・惨めだった。






 とぼとぼと街を歩く。悲壮感を溢れさせているその姿は、華やかな街の雰囲気を翳らせる。白い溜め息がネオンの空に消える。
 唐突に―――二人同時に足を止める。
 お互いがお互いの顔を見詰め合う。そして、同時に頷く。

 それは気のせいだったかもしれない。いや―――二人同時なら―――そうじゃない。
 彼女らは振り向いた。そこに、彼が居るのを信じて。

 「・・・何してんだ?犬祭りはどうしたんだ?シロ、タマモ?」

 「先生っ」

 「横島っ」

 突然抱きついてきたシロに驚きつつも、冷えた頬を優しく撫でる。霊気で真っ赤になってしまった頬が、彼女を外見よりもずっと幼く見せる。

 「おっ、おいおい・・・いきなり何をすんだよ」

 「先生・・・シロ、良い子にするでござるぅ・・・だからおいて欲しいでござるよぉ!!」

 ぐしゅぐしゅと泣き始めるシロの頭を戸惑いつつ撫でながら、尋ねる。

 「・・・何言ってんだ?シロ、お前犬祭りに行ってたんじゃあ・・・」

 「へ?犬祭り?」

 「ああ、おキヌちゃんが・・・」

 「な・・・何それ?犬祭りって・・・」

 「違うのか?」

 「せ・・・拙者は狼でござるぅ!!」

 「・・・私も犬じゃないわよ・・・」

 「・・・んじゃ、何なんだ?犬祭りって・・・?」

 「こっちが聞きたいわよ」

 「・・・先生、帰るでござるっ♪」

 彼が一緒にいてくれれば、おキヌちゃんも何も言わないだろう、というのは後からついてきた幸運である。打算があったわけではない。というより、彼女がそんなことを考えらるほど器用ではなかった。

 「ああ、そうだな。・・・でも・・・何か、寒そうだな」

 着の身着のまま追い出されたシロタマの格好はとても冬の夜に外に出て良い格好ではなかった。羽織っていたコートを脱ぎ、シロに渡してやる。それでも、まだ充分に厚着をしているので、気にはならない。

 「あ、先生・・・良いんでござるか?先生が・・・」

 「気にすんなって」

 タマモの方は、まだ、シロよりは厚着ではあるが、それでも寒そうに見える。もっと着込んでくれば良かったかな、とか思いつつ、着ているセーターに手を掛ける。

 「あ、良いよ、横島・・・私、寒くないから」

 がたがた震えながら言っても全く説得力はない、横島は苦笑しつつ、彼女の頭を撫でながら言う。気持ち良さそうに目を細めながらも、子ども扱いされるのが嫌なのか、むっつりとした表情を浮かべている。

 「別に無理するようなことねーよ。それに、俺やシロが暖かくしてんのに、タマモだけががたがた寒さで震えるようになんのは嫌なんだよ」

 「でも、それ脱いだら、今度は横島が寒くなっちゃうじゃない・・・それこそ嫌だもん」

 「・・・いや、そうだけどさ・・・別に・・・」

 「・・・それじゃあ、私は横島の中に入ろっ!それなら二人とも暖かくて済むもんね♪」

 「な、中・・・って、狐の姿になれるんだよな、お前って」

 「そ、シロは少し大きいから駄目だけど私くらいなら懐に入れても大丈夫でしょ?」

 「ああ、でも、落ちんなよ。苦しかったら言うんだぞ」

 「うんっ」

 狐の姿になり、横島の服の中に入り込んで、襟から首だけを出すタマモ。傍目から見ると―――

 「うらやましいでござるよ・・・タマモ・・・」

 苦笑しつつ(外見上では判断しがたいが)、タマモは人差し指を加えうらやましげに見るシロに言う。

 「そんなもの欲しそうな顔をしない・・・あんた、横島の腕を借りればいいじゃない」

 「へ?」

 「そうで・・・ござるなっ!!先生、腕組もっ!!」

 「あのなぁ・・・ま、いっか」

 「ふふん♪」
















 それを遠めで見ていたおキヌちゃん。

 「・・・やってくれるじゃないですか・・・。愛人の分際で・・・」

 握り締めた缶は、確かにまだ開けていないはずなのに、潰れていた。プルドルの部分が破裂し、中身が吹きだす。―――彼女はその缶をくずかごに放ると、苦々しい表情を浮かべながら彼らを見つめながら、後についてゆく。

 ―――その缶を良く見ると、リサイクルマークの部分にしっかりとスチールと書かれている事が分かっただろう。しかし、誰が見ることもない。ただ、回収する業者の人も、中身が入っているのに捨てていかれた缶としか認識されないだろう。
 ―――湯気を立てながらこぼれてゆく赤がかった黒色の液体―――『あんま〜いおしるこ』。それは彼女の好きな飲み物だった。毒々しいまでの色合いと、破滅的なまでな甘さのせいか、需要は恐ろしく少なかったが、しかし、この会社は作り続けている。
 作り続けなければ―――ならないのだ。例え、需要が彼女一人であっても。






 「・・・虫は・・・虫でなければならないのよ?ふふふ・・・」


 あはははははははははっ!!!



 同時刻に、今まで感じたことのない程の悪寒が背を通り抜けるのを二人の獣娘が感じたのは偶然なのか必然か、答えは誰にも分からないのである。

 続かない。多分。

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