ザ・グレート・展開予測ショー

優しく包み込むように−後編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 1)


 雨宿りしようにも、近くに屋根のある建物はなかった。するつもりもなかったが。
 湿り気を帯びたTシャツが気持ち悪かったから、脱いで、放る。
 冷たい雨が、熱を帯びた身体に心地良い。
 そして、心にも。
 いつもこの時間に見ている方向を見据える。
 夕焼けは見えなかった。
 そのせいかもしれない。
 何故か、今日は、いつもよりも寂しかった―――。





 「ねえ・・・女の子の前で裸にならないでよ」



 聞き覚えのある声、振り返る。傘を差した少女が立っていた。

 「何で、来たんだ?」

 俺はどんな顔をしていたんだろう、彼女は吹きだした。途端、自分でもはっきりと分かるくらいに憮然とした顔になる。

 「何だよ?」

 「・・・何でもないよ」

 「何でもないってことはないだろが」

 「・・・いや、いつもブスっとしてたからさ・・・、あんな顔もあるんだなって・・・」

 「は・・・?」

 「気付いてなかった?あんた・・・さっき、笑ってたんだよ?物凄く・・・人好きのする顔。いつもはとっつきにくそうな顔をしてたのに・・・プププッ・・・」

 「・・・」

 「誤魔化そうとしたって・・・駄目だよ。私、もう見ちゃったし」

 「誤魔化すって、何を?」

 「・・・さあね」



 彼女は濡れた芝生の上に腰を下ろした。俺にくっつくかのように。傘をパラソルのように二人の間に置いて。
 彼女の肩が濡れる。俺は少し横に身体をずらした。けれど、彼女はそこから動こうとはしなかった。仕方なく、肩を抱いて、こちらに引き寄せる。

 「ケツ・・・濡れるぞ?」

 「・・・別に、いいじゃない」

 「何も、見えないぞ」

 「何も、見る気はないから」

 「・・・何しに来たんだ?」

 「・・・さぁ?何しに来たんだろ・・・あんたは?」

 「・・・」

 理由。考えなければ出ない程、ちっぽけなものだったのか?
 何故、俺はここに来たんだ?
 彼女との思い出も何もないこの場所に―――。

 ただ―――夕焼けが綺麗と言う理由だけで―――!?


 「俺は―――夕焼けを見に来たんだ」

 「そう・・・」

 「ああ」

 「じゃあ、私もそうだね」

 「?」

 訝しげな顔をする、俺に彼女は笑いかける。また―――あの時と同じ『儚げな』笑みで。

 「あんたの見る夕焼けを見に来たんだよ、きっと」

 「・・・そっか」

 「そうだよ。多分」

 「何で、多分なんだ?」

 「・・・さあね」









 いい加減だった。何もかもが。
 馬鹿げていた。この時間が。
 濡れたGパンと、裸の胸が酷く寒い。
 夏だと言うのに、寒い。
 思わず自分の身体を抱きしめ、身震いする。


 「・・・そんなに寒いなら・・・私の着替え、貸そうか?」

 「サイズ、合わねえだろ?」

 「お兄ちゃんの持ってきたから・・・」

 「・・・何で?」

 「何となく、こんなことになってそうだな、と思って」

 「普通、こんなことになるなんて思わねえだろ」

 「・・・そだね。でも・・・あんた、私がここに来ると思ってたでしょ?」

 「・・・いや」

 思ってなかった。来るとなんて。

 「私はあんたが来ると思ってた。そんで、私の事を待ってると勝手に思ってた」

 「勝手だな」

 「うん・・・そうだね。でも」

 「でも・・・?」

 「そうであって欲しいとは、思ったから」




 「・・・俺は―――







 言葉は―――紡げなかった。


 「いいよ、無理しなくても・・・でも、この場所に居させて欲しい」



 言いたいことがあった。―――俺には好きな人が居るのだと。
 その人の事をずっと思っていたいのだと。
 僅かな時間しか一緒に居られなかったけれど。
 その人の事を愛していたんだと。
 その人は自分を助ける為に死んだのだと。
 そして、俺は彼女が生き返るチャンスを潰したのだと。
 そして、今、俺はいもしない彼女に縋ろうとしているのだと。
 勝手に、彼女の事を考えて―――
 彼女のことを卑しめているのだと。



 「私は・・・あんたと居たいんだ。この場所に」

 「俺は―――俺は・・・」

 「答えなくていいっ・・・私は・・・勝手にここに来るから―――だから・・・あんたもここに来て欲しい」





 ここに来ることで―――何かが変わるとでも言うのだろうか?




 彼女の幻影に縋り、いまだ、立ち上がることの出来ないこの俺を、彼女はどうしようと言うのだ?





 駄目だ、と言えない弱さ。
 誰かに縋らないと生きていけない自分の醜さ。
 嫌われることを恐れる脆さ。

 その全てが―――雨に溶ける。



 「何で・・・泣いてるの?」

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