ザ・グレート・展開予測ショー

優しく包み込むように−前編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 1)


 ダークでは・・・ないのではないかと。多分。





 優しい嘘、そんなもの聞きたくなかった。

 お前の最期、見届けたかった。

 消え去ってしまった意識の中で、こんなことをいっても無駄だって事は分かっているけど―――情けないほど、沈んでる、俺の気持ち、分かって欲しい。




 夜はゆっくりと沈みゆく時の中で溶かしてゆく、僅かな瞬間の情景を。
 終わってしまうことが、怖い。
 また、失ってしまうかのようで。
 手の平を、まっすぐ伸ばしてみる。でも、触れる気配は感じ取れずに。
 ただ、通り過ぎる風が撫でるだけ。


 ゆらゆらと、さざめく川の色。
 きらきらと、反射するブランデー色ののほろ苦い情景。
 煌々と、煌き始める空の色。
 ふらふらと、立ち上がり、歩き出す俺の足。

 全てが同じだった。

 きっと。







 「ねえ」

 背中に掛けられた声に、振り返る。
 俺とそう年は変わらないだろう女の子が立ってた。右手に靴を、左手に鞄を持って。黒髪で、ショートカット。髪型だけ彼女に似てた。顔は―――まるで違うけど。

 俺の足元に座り込み、素足を川面に浸して、笑う。穏やかな笑み。でも、どこか儚げな笑み。笑顔を浮かべられるのは嫌だった。愛想笑いでも何でも―――笑われている気がして。俺を、あいつを。
 でも、この娘の笑みは違った。きっと、儚げだから。哀憐とかとは、まるで違うものだから。

 「あなた、どうして、いつもここにいるの?」

 いつも―――ああ、そう言えば。
 彼女がいなくなってからは、ずっとここに通いっぱなしだったかもしれない。
夕焼けが一番綺麗に見える場所―――この河川敷に。

 「別に・・・理由はねえよ」

 口から出てきた声は小さかった。

 「そっか・・・てっきり、フラれたんだと思ってた」

 がっかりしたように言う少女。
 苦笑いを浮かべる俺、不思議と腹は立たなかった。何も知らない彼女に、怒って見せるなんて馬鹿みたいだと、そんなこと考えたわけじゃない。考える余裕があるわけでもない。

 飾り気も何もない、単純な言葉。

 「そんなにフラれてて欲しかったのかよ?」

 「うん」

 「はっきりと言うんだな」

 「まっ、これも個性よ」

 「そうだな。聞いてて清々しい」

 「本当に?」

 「嘘だ」

 「・・・意地悪」


 踵を返す。

 「帰るの?」

 「ああ」

 「明日、又来る?」

 「さあな」

 「待ってる」

 「やめてくれ」

 「何で?」

 「多分、来ないから」


 それに、一人でいたいから―――何故か、これは、言えなかった。

 「でも―――待ってる」

 後ろから聞こえた呟き声を聞かないフリをした。



 次の日の夕暮れ、俺はまたあの河川敷に居た。
 あの女の子も、来ていた。靴を脱いで、素足を水に浸しながら。

 「来たね」

 「ああ」

 それきり、会話はなかった。ただ、沈んでゆく夕日を見つめていた。沈み行くまで・・・ずっと―――。

 「ねえ」

 「何だ?」

 「夕焼けって、好き?」

 返答に困った。でも―――

 「好きだ」

 俺は、好きだった。

 「私は、嫌い」

 彼女は嫌いだった。
 
 別に、不思議なことはない。好き嫌いなんて人それぞれで、押し付けるなんてお門違いで―――。
 だから、何も言わないし、聞かない。
 また、会話がなくなる。

 静寂が―――続く。
 星の瞬く空を眺めながら、現れた月の輪郭をなぞる。
 川は、暗闇の中に沈みこみ、風も溶けていく。

 彼女が、立ち上がり、傍に置いていた鞄の中からタオルを取り出して、足を拭き、靴下を履き、靴を履いた。
 言葉はない、顔が見えない。何もない。

 背中を眺めていた。華奢な身体。あいつと比べても、それでも細い。

 「私―――夕焼けが嫌い」

 不意に聞こえた声に、戸惑う。まるで、心が見透かされたかのようで。

 「すぐ―――終わってしまうもの」

 『夕焼けは一瞬だから美しく見えるのかな?横島―――』


 たった一瞬―――だった。

 気が付けば―――走り出してた。息を切らせて―――足がガクガクいっていた。多分、疲れているせいではなくて。
 高鳴る動悸を感じる。―――もう少しで、何かが消えてしまうような気がした。
 被って見えた―――まるで違う言葉なのに。
 被って見えた―――あいつはもういないのに。

 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 全てが―――彼女への裏切りである気がした。





 そして、俺は何もない部屋に戻り、不味い飯を食って寝る。疲れた身体を惰性に任せて横たわらせる―――全てを忘れて、眠る。

 夢の中でさえ、出てきてくれないのかと―――慟哭する自分を客観視しながら。



 いつものように事務所へと足を運び。
 いつものように淡々と作業をこなして。
 いつものように、いつものように―――。



 そして、俺はまた、あの河川敷へと向かう。


 彼女はいなかった。

 別に、何を思うわけでもない。

 ゆっくりと、昨日、二人が座っていた辺りまで歩き、腰を下ろす。


 濁った水面。反射した太陽の光のせいで底を見ることは出来なかったけれど、きっと、汚くて見れたもんじゃないだろう。小さな魚達にはすみごこちも悪そうだ。―――そんなことを考えていた。

 風が吹き、湖面が揺れる。静寂は不器用な風の音に破られた。湖面に映る空が―――濁ってゆく。静かに、しかし、急激に。

 しばらくして―――湖面に波紋が広がった。一つ、二つ、三つ・・・

 ざぁぁぁぁぁ・・・

 空を見上げた、降り注ぐ幾億の光の粒子。大地に降り注ぎ、芝生を濡らす。
 もちろん、通過点に立っている俺も。


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