ザ・グレート・展開予測ショー

横島 IF 第五話 (A)


投稿者名:777
投稿日時:(03/ 3/ 1)

灰色の都会(まち)に、暗い雨が降りしきる。

冷たい雨にうたれながら、都会(まち)では明日を夢見る人々が帰り路を急ぐ。

けれどここは地獄の最前線。今日のみを見つめて生きる、裏世界の住人が住むところ。

俺以外には女がふたり。暗いがどこか澄んだ目で、ぼんやりと明日を夢見る人々を見つめている。まるで失った何かを羨むように。

女の一人が電話を取り上げた。憂鬱そうにダイヤルを回す。

そして………









「っていうかぁ、今日は霊的にチョベリバだしぃ、予定変更お願いみたいな〜?――おっけぃ?あんがと。ジャネバイー」








俺がハードボイルドを極めようとしている頃、おキヌちゃんはコギャル言葉を極めようとしていた(しかも客相手に)

おキヌちゃんも実はお年頃。

ま、それはともかく。

「雨が降ったから仕事は休みですか。大名商売やなー」

そう、今日は別に霊的によくない日でも何でもなく、ただ美神さんが雨の中外に居たくないと言う理由で仕事を断ったのだ(コギャル口調で)

俺の言葉に、気怠げにソファーに寝そべっていた美神さんが身を起こす。

「………違うわよ。今日は一日中家にいなさいって、私の神様が囁くのよ」


あんた神様なんか欠片も信じてないだろ。角姉さんマヌケ呼ばわりしてたし。


俺のジト目にも負けず、美神さんは再びソファーに寝そべる。

「それに、今夜は私の霊感が騒ぐのよ。何かとても大きな事件が舞い込んできそうな予感がするの。………大きくて、とても厄介な事件がね」

そう言って、極上の微笑みをこちらに向ける美神さん。

物凄くとってつけたような理由だったが、霊感だというのならもしかしたら本当かも知れない。俺はおとなしく引っ込むことにする。



ピンポーン

「あ、誰か来ましたね」



すると、美神さんの言葉を実証するかのようにチャイムが鳴った。

思わず美神さんを尊敬のまなざしで見てしまう。

だが、美神さんはガバリと身を起こすと、呆然とした顔で呟いた。




「嘘…ホントに来た…」

………おいこら霊能者。






「美神さん美神さん美神さーーーん!!」

俺が美神さんをジト目で見ていると、応対に出たおキヌちゃんが物凄い勢いで飛び込んできた。

何か恐ろしい物でも見たのか、目にはほんの少し涙まで浮かんでいる。

「どうしたの!?おキヌちゃん!誰が来たのっ!?」

「けっ、けっ、けっ…」

美神さんの言葉に、おキヌちゃんは玄関を指さしながら回らない舌で必死に言葉を紡ごうとする。

「け?………おキヌちゃん、深呼吸しなさい。落ちついて、ね?」

美神さんの言葉に、おキヌちゃんはコクコクと頷いて数度深呼吸する。

そして、玄関を指さして大声で叫んだ。












「毛唐が攻めてきましたっ!!」








おキヌちゃん約300歳。

戦争経験者の彼女が指さす先に、困ったような笑いを浮かべた外国人が立っていた。








――リポート5 極楽愚連隊、西へ!!――






「美神令子さん………ですね? 唐巣先生の使いで来ました」

「唐巣先生の?」


唐巣先生とは、美神さんのGSの師匠で、凄腕のエクソシストだ。

俺も何度か会ったことがあるが、優しくて愉快な(頭の薄い)神父様だった。

ただ、神父と言ってもキリスト教ではないらしい。ご神体は丸い球体だった。(まるでトマトのような…)

極度の菜食主義者のため、肉メイツの俺とはしばしば衝突したが…それを差し引いてもいい人だ。



唐巣先生の使いと名乗ったその男(外国人だからきっと肉食!きっと仲間♪)は、勧められたソファーに腰掛けると、おもむろに懐からガラスの器具を取り出した。




「僕の名は『ピエトロ』。ぽっぴんを吹く男、です」



ぽっぴんぽっぴんぽっぴん………


「………」

「………」

「………(怒)」(←右の人)


ぽっぴんぽっぴんぽっぴん………


「………?」

「………?」

「………?(怒)」(←右の人)


ぽっぴんぽっぴんぽっぴん………






ひとしきりぽっぴんを吹き鳴らしたあと、不審なぽっぴん男は不思議そうな顔でこちらに向けて問いかけてきた。

「・・・あの、面白くありませんでしたか?」

「持ちネタかよっ!!」(←つっこみ)

俺の鋭いツッコミをどこか賞賛するような瞳で眺めたぽっぴん男は、言い訳するようにしどろもどろになって解説をはじめる。

「いえ、その…ピエトロを『ビ』エ『ド』ロにして、それがびいどろになって、最後にぽっぴんを吹く男になる訳なんですが…」

「ならねぇよっ! っていうか何でビエドロにするんだよっ! せめて『冷(ぴ)えトロロ』にして『冷えたトロロを持ち歩く男』にしろよっ!」

「…何が『せめて』なのよ………話、はじめてくれない?」

俺とぽっぴん男のやりとりに砂を噛んだような表情になった美神さんが、ひらひらと手を振って先を促した。

「す、すみません………改めまして、ピエトロと言います。ピートと呼んでください。先生からあなたあてのメッセージを預かってます」

ピートはそう言って、懐から手紙を取り出した。






………ん?







なんか………宛名に『トマト』って文字があったような…?

見間違いか…?

不思議に思った俺は、美神さんの後ろから手紙の文章をのぞき込んだ。

そこにあったのは…













『トマトキュウリセロリレンコンハクサイメロンミカントマトトマトトマト!!トマト!

 ネギ!ネギ!トマト!!イチジクキュウリダイコントウモロコシトマト!トマト!ネギ!!ナスビーーーー!!!

 カボチャカボチャトマト!!トウモロコシナスビラッキョレンコンゴボウハコベラホトケノザ!
 
 トマトトマトトマトキュウリミズナラ………』










野菜の名前が執拗に書かれたえげつない文章。金に汚い弟子に対する嫌がらせだろうか。

正直、怖い。


「…な、何なんです、これ?」

震える俺の言葉に、美神さんは困ったように肩をすくめて答えた。





「ベジタブル教の暗号よ。ベジ教信者はこれでしか手紙は書いちゃダメなの」



何を信仰してやがりますか唐巣神父。



「最初の一文は暗号の解読法でね。トマトがここにあってメロンがここにあるでしょ。つまりね………」











「………で、こういう文章が出てくる訳なの」



『美神君へ

 少し厄介なことになった。

 人手が必要なので、ぜひ来て欲しい。

 くわしいことはこちらで話します。
        
                   唐巣』






すげぇ!これがベジ教の暗号かっ!!(目からウロコ)

ちょっと尊敬した。


「でも、これだけ? どこで何するかわからないじゃない」

手紙には場所も仕事の内容も書かれていない。まぁ、ベジ教の暗号だから唐巣先生の手紙には間違いないそうだが…

ピートはその疑問に、一つ頷いて答える。

「場所は地中海の小さな島です。ブラドー島と言います」

だが、その言葉に美神さんよりも先に反応した者がいた。











「私たちに鬼○米英の島へ行けと言うんですかっ!!」









戦争経験者にして現在やたらハイテンションなおキヌちゃんだ。

どこから持ってきたのか、両手に竹槍を構えてピートに向けている。(更に防災頭巾着用)

でもあんた戦争当時すでに死んでたんじゃ…



おキヌちゃんのあまりの剣幕に、ピートは少しのけぞって慌てて言い訳する。

「いえ、地中海はイ○リアです」

「腰抜けイ○公の国っ!!ますます行けませんっ!!」

腰抜けイ○公っておキヌちゃん………。

「ま、まぁまぁ。イ○リアは一応味方だったんだし、良いじゃないおキヌちゃん」

美神さんが宥めようとするが、おキヌちゃんは涙を流しながらイヤイヤする。

「だって、だって!イ○リアのせいで日本は負けたんですよっ!日本とド○ツは強かったのにっ!!」

「おキヌちゃん…辛かったのね。今は、泣いても良いのよ。誰もあなたを笑ったりしないわ」

「み、美神さん…みがみざ〜〜ん! う、うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

おキヌちゃんは美神さんの胸の中へ飛び込み、大声を上げて泣き始めた。美神さんは優しくその背中を撫でる。








………俺の分からないところで話が進んでいきますだれか助けてください。







しばらくして、泣きやんだおキヌちゃんはピートに頭を下げた。

「ごめんなさい、ピートさん。昔のことを言っちゃったりして…」

それを聞いたピートは、穏やかな笑みを浮かべて首を振る。

「いえ、良いんです。あなたの気持ちは、分かりますから」






ちゃららら〜ん(効果音)

おキヌちゃんとピートは和解した!!







………もうどうにでもしてください。(←なげやり)







その後、報酬の話などをして(なんか見てはいけない物を見た気がする。幻の彫像みたいな。気のせいだよな?)仕事を正式に受けることが決まった。

「――それじゃ、僕はこれで。他にもスイーパーにあたらなければならないので」

帰り支度をはじめたピートの一言に、美神さんが少し眉をしかめた。

「私と先生の二人でもまだ足りないわけ? そんなに大変な仕事?」

美神さんの言葉に、ピートは真剣な顔をして応えた。

「ええ、とても手強い相手です。あなたも十分気をつけてください。………それと」

「…それと?」

美神さんもまた、真剣な顔になる。ピートの最後の言葉、それにどれほどの意味が込められるのか。

















「トロロって、どこで売ってますか?」

「………スーパーよ」












さらばピエトロロ。冷えたトロロを買いに行く男よ。

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