ザ・グレート・展開予測ショー

さあ、どっち?(白・1)


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 2/27)


 君には、欲しいものはあるかい?
 手に入れてみて、ガッカリしたことはないかい?
 俺の欲しいものは、こんなものじゃないと。
 しかし、それは君が悪い。
 むこうにしてみりゃお笑いさ。
 (角野文章著『空飛ぶ賢者』)
 


 「ねえ、起きて。起きてったら雪之丞」
 頭がグラグラする。視界が薄ボンヤリしているが、・・・朝か?
 「もう・・・しょうがないなぁ・・・」
 いきなり頬にキスされ、雪之丞は飛び上がった。辺りを見回す。
 (あれ・・・ここ、どこだ・・・)
 雪之丞は、大きなダブルベッドの上にいた。部屋の中は薄暗い。
 おかしいな、俺は横島の部屋で白い錠剤を飲んで。・・・それから、どうしたっけ?
 
 横を見たとたん、雪之丞はギョッとした。
 弓かおりが、いた。バスローブを一枚着ているだけである。そして、不思議そうな顔で雪之丞を見つめていた。
 「なんだこれ!?ここ、どこだよ!?」
 「どこって、・・・それは・・・」
 かおりは、顔を赤らめ、口ごもった。
 ようやく、雪之丞の頭がハッキリしてきた。改めて周囲を見回してみる。どうやら、ホテルの一室らしい。そこに、雪之丞とかおりが二人っきり・・・なのである。
 「・・・夢でも見てたの?私がシャワーを浴びて出てきたら、あなたが寝こんじゃってたから、揺り起こしたんだけど」
 寝ていた?横島の家で錠剤を飲んだ後、意識を失って、ここに移動したってのか?
 
 これは夢・・・なのか?
 
 雪之丞は頬をつねった。痛みとともに、雪之丞は、これが現実だということを知る。

 かおりは鼻歌を歌いながら、鏡台に座って髪をとかしている。
 「ねえ、あなたも早くシャワーを浴びてらっしゃいよ」
 雪之丞はそう言われ、自分の格好に気付き、愕然とした。
 
 おい・・・なんで俺、・・・服着てないんだ・・・!?

 かおりはシャワーを浴びて、すでに身支度をはじめている。自分は全裸で寝ている。
 これは、何を意味するのか。
 (まさか・・・御休憩で・・・っちゃったのか!?)
 雪之丞の全身から、血の気が引いた。

 二人が付き合いだしてから、結構時間が経っている。しかし、その付き合い方はきわめてプラトニック(死語?)なものだった。実は、いまだに手すら握ったことがない。
 映画やコンサートライブを見に行ったり(趣味が合わないのか、口ゲンカが絶えない)、軽く食事をしたり、といった付き合いでしかない。

 「考えられないな。小学生じゃあるまいし」
 二人の付き合いを評した横島の言葉である。
 
 一度、唐巣神父の教会に悪友どもが集まり、不敬虔にも『彼女との付き合い暴露しちゃおうぜ大会』を開いたことがある。その席でのことである。
 大体みんな、付き合いは順調なようだった。
 「おかげさまで、ワッシと一文字さんは上手くいっとりますノー」
 「ピートは・・・まあ、どうでもいいや」
 「あはは。ひどいですよ横島さん」
 「しっかし、俺にとっちゃ意外だったよ。エミさん、本気だったんだなー・・・」
 「いや、まあ、いろいろね。・・・でも皆さん、概ね順調なようですね」
 「・・・んで、雪之丞。お前はどうなんだよ」
 「俺か?・・・まあ、いい感じ、だと思う」
 「やけに歯切れ悪いな。具体的に言ってみ?」
 雪之丞のボソボソとした説明に、全員が驚きの声をあげた。タイガーまでもが。
 「な、なんだよ!いいだろ別に!」
 「つーか、逆に心配だぜ。付き合いだして、どれぐらいだっけ?」
 「いやその、どっちかっていうと、あいつは、そういうタイプじゃないというか・・・」
 
 「ねえ、雪之丞」
 「は、はい!?」
 かおりに声をかけられ、物思いにふけっていた雪之丞は飛び上がった。
 「早く身支度してしまいなさい。もう、あまり時間がないのよ」
 時間がない?・・・ってことは、やっぱり・・・。
 「な、なあ、弓・・・」
 呼ばれたかおりは、かるい調子で雪之丞をにらんだ。
 「やあね。かおりって呼んでよ」
 「え?あ、ああ。・・・」
 「なあに?どうしたの?」
 「いや、なんでもない・・・」
 雪之丞は腰にバスタオルを巻くと、バスルームに向かった。

 いったい、あの錠剤はなんなんだろう。いま起きていることは、まぎれもない現実だ。それに、弓のあの態度、妙に慣れてるって感じだ。
 死にたくなるほどの純愛体験(正直、口に出すのもバカバカしい)とは、これのことをいうのか。たしかに驚いたけど、これで死にたいとは思わない。
 それとも、まだ何か起きるってのか・・・?

 果たして、起きた。
 「なにしてるの。早く行きましょうよ」
 「いや、マズいよ、人が・・・」
 「こんなところで知り合いに出くわすはずないでしょ!」
 渋る雪之丞を、かおりは強引に引っ張りだした、そのとき。
 「かおり・・・!?」
 「え?・・・お、お父様!!」
 「・・・・・・お、お父様?」
 雪之丞は、あわててかおりの視線を追った。その先には、2メートル近い中年男がいた。
 こいつ、強いな。雪之丞がそう思った瞬間、男の右腕がうなりをあげた。
 身構える暇もなく、弓の父親の拳が雪之丞の左頬を張り飛ばした。
 「貴様!よくもウチの娘を!!」
 「待って!お願い!お父様!!」
 雪之丞はフイをつかれ、抵抗できないまま殴られ続けた。

 「さて、事情を聞かせてもらおうか」
 ここは、かおりの実家である。屋敷の大きさと荘厳さが、弓式除霊術の歴史と実力を物語っている。
 雪之丞は、テーブルを挟み、弓の父親と向かい合って座っている。雪之丞の隣にかおりが、弓の父親の隣には弓の母親が座っている。
 「おい・・・まず名乗りたまえ」
 弓の父親の次々出される質問に、雪之丞は素直に答えていった。職業を聞かれ、GSであると答えたとき、父親は鼻で哂った。免許を見せても、その態度は変わらなかった。
 「恥ずかしいと思わんのかね。ウチの娘はまだ高校生だよ」
 「は、すみません、すみません・・・」
 雪之丞にしてみれば、キツネにつままれた気分だった。実感がない。
 そのとき、弓の母親が口を挟んだ。
 「伊達さんは、かおりのことを、どう思ってらっしゃるのかしら?」
 雪之丞は一瞬考え、やがて決心した。
 「ええ、俺、いや僕は、ゆ・・・いや、かおりさんが好きです」
 「今なら、このことは忘れてやる。そして、かおりのことも忘れろ」
 「・・・・・・・・・」

 「かおりの結婚相手は、すでに決まっている。きみのような男にウロウロされても迷惑なだけだ」
 「・・・イヤよ!」
 雪之丞が顔をあげるのと、かおりが叫んだのは、ほぼ同時だった。


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