そんな春の日の事
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 2/27)
「何て言うかさ、小猫みたいだな」
「あんたねぇ」
子供達に乳を含ませながら、ちょっとだけタマモは横島を睨んだ。
「自分の子供達に何て言い種よ?」
「そう言われてもよぉ」
一生懸命お乳を吸っている子供達は、皆、薄黄色の毛皮に覆われた仔狐なのだ。
赤い袱紗の上で横たわり、彼らに乳をやっているタマモも、当然の様に九尾の狐の姿をしていた。
「ま、もう少し経てば、ちゃんと人の姿をとれる様になるわよ」
実際の所、彼らの尻尾は2〜4本。 多少の差は有るものの、産まれて間もない子供達にしては、一様に高い霊力を宿している。
横島が4人(4匹?)の子供らにパパと呼ばれるまで、そんなに間は無さそうだ。
「ったってなぁ…」
横島としては、苦笑い混じりで口を濁すしかない。
それでもタマモ達を見遣る瞳は穏やかで優しくて、口にするより遥かに彼がこの状態を受け入れている事を窺わせている。
タマモの妊娠が発覚した当初は、物理的にも心理的にもどたばたしていたのだ。
色々な種類の攻撃が飛び交い、男共には揶揄われ、身重の彼女だけが味方と言う、かなりキツい時期だった。 加えて、卒業の為に補習も受けねばならなかったし。
過ぎた今となっては、あまり思い返したくない事だが。
そんな彼を含む周囲にも、こう言う形でこんなに早く産まれて来るなんて予想外で、肩すかしを食らった様に済し崩し的に落ち着いていた。
子供達の可愛らしさもあるが、母子共に人の姿をとっていない分、どう現状を噛み砕けばいいのか、悩まずには居られなかった事もあっただろう。
やがて子供達は、一人々々、口を放して丸まりだした。
「ん? もういっぱいなのか、おまえら?」
鼻を鳴らして、4本の尻尾を持つ一人が、そうだと答える。
まだ話せないが、簡単な言葉なら認識出来てる辺り、如何にも妖狐の仔と言えた。
ちなみに、この子は長女でホタルと言う名を付けられている。 尻尾の先が他の子と違って、青白くてキラキラと光ってる様にも見えるからだ。 霊気の質的にも高さも、『彼女』を思わせた事も有るのだが。
ホタルに続けて、タダト、タマキ、ミナモ。 長男、次女、三女である。
2本尻尾のタダトは、霊力は低いが体力的には一番のやんちゃ坊主。 タマキとミナモの尻尾は3本。 大人しく二人で丸まってる事が多い。
「ヨコシマ」
「あぁ」
それぞれ丸まって眠り出した子供達を、一人ずつ、寝床へと大事そうに移す。
4人が柔かな布団に包まれると、横島はタマモの下へと戻った。
「で、おまえはどうする?」
「お稲荷は?」
「ちゃんと買ってあるって」
耳を期待にぴくぴくさせている彼女に、思わず苦笑が浮かぶ。
「福聚堂のよね?」
美味しいと評判の和菓子屋の名を挙げて、タマモは聞き返した。
「何だって稲荷寿司の為に、朝イチで並ばにゃならんのか…」
ボヤキは、それでも彼女の期待に沿っていればこそ。
タマモは目を細めて、首を伸ばした。
「ありがと。 ん〜」
「ん。
…なんか慣れねぇよなぁ」
口づけを交わすと、タマモの姿が人のソレに変わる。
「しょうがないでしょ。
あの子達の為に、霊力ほとんど持ってかれちゃってるんだから」
お乳や、自分達を包む領域の維持に霊力を費やしている為、横島から霊力を分けて貰ったのだ。
その為のキスではあるのだが、狐状態のタマモにしている訳で、納得しては居るものの横島としては気分的な違和感は拭えない。
尤も、別にキスである必要は無いのだ。 その事を、教えられていなかっただけの事。
愛情確認の一環でもあるので、知っていたとしてもさせられていただろうけれど。
「さて、とっとと食べたら、今度はあんたの方よね」
それほど豊満ではない胸を精一杯強調して、蠱惑的な笑みを浮かべる。
「…おいおい」
口でそう言いつつも、嬉しそうなのは、らしいと言えばらしいのか。
「但し、起さない様に静かにね」
「声が大きいのは、タマモの方だろ?」
にやにや笑いの横島に、赤らめた頬をぷくっと膨らすと、手近に有ったお盆で彼をぽこぽこと叩き始める。
「イタっ… 痛いってぇの」
「お稲荷、全部、私んだからね」
手でお盆を避けながら、揶揄い混じりの笑顔で、横島は大人しく頷いた。
元々そのつもりで、自分の分はコンビニでおにぎりを買い出してあったのだし。
「ほら、早くぅ」
「へいへい」
横島は、キッチンへと稲荷ずしを取りに向かった。
紆余曲折の難問はてんこ盛りだが、二人はそれなりに幸せそうだ。
そんな彼らが、今、一番頭を悩ませているのは、ナルニアの両親にどう報告するか、らしい。
僅か2ヶ月ほどで、あっと言う間にこうなってしまった為に、未だに連絡出来ていないのだ。
ま、卒業して正式にGSとして就職した事だし、何とかなっていく事だろう。
これは、有り得るかも知れない、ほんの少しだけ未来の話。
【おわる】
────────────────────
……ぽすとすくりぷつ……
あ、コレがシロりべんぢって訳じゃないですよ。 念の為(笑)
元はと言えば、某所の三題話モノだったりするのだけど、そこのカラーにイマイチ合わないっポイ物にしかならなかったので(^^; …ちなみに、出たのは『落ち着く、赤い、猫』だった。
2ヶ月ってのは、実際の狐の妊娠期間、50〜60日を元にしてます。 ついでに言うと、交尾期は12〜2月。
って事で、クリスマスに色々有って、卒業式をどうにか無事に終えた、3月頭あたりの話ですね、たぶん(^^;
なんつぅかスランプってて、連載二つとも滞ってる… ってな訳で、詰まってるから、単発ネタしか出せないのじゃな(爆)
…杉花粉なんか、嫌いです(泣)
今までの
コメント:
- お題に「猫」の文字があるにも関わらず、これだけの作品が「妄想」できるところがすごいですね(平伏)。狐状態で子供たちに母乳を与えるタマモ...新説登場に賛成票1票です♪ 母性的な表情を見せるタマモ、同じくパパらしい落ち着きを多少は見に付けた横島クンの様子に二人の成長が若干ながら窺えます。横島クンの方は相変わらず「らしい」面をさらけ出しているみたいですが(笑)。ラストで幸せそうにバカップルやってる二人が良かったです(爆)。投稿お疲れ様でした♪(大樹と百合子は絶対に二人の関係を勘違いしそうで怖いのですが←謎) (kitchensink)
- しあわせだなぁ〜(挨拶)
横島クンとタマモちゃんの幸せな新婚生活ですね♪
>クリスマスに色々有って〜
なんか見事に狐の妊娠期間とイベントが一致しますね。
この間を色々妄想しつつ1票です♪
・・・・花粉なんか無くなればいいんだい!! (ハルカ)
- あ〜こういう作品ははじめてだぁ……思いつかなかったや。
色んなバージョンが出来そうですな(笑) (MAGIふぁ)
- 一気に子供が四人(四匹?)・・・大変ですな。
つーか、そら揶揄されるでしょう。タマモ様御懐妊の方を聞けば誰だってうらやましがるものです。憎いね、この野郎っ、と。
・・・あんたの番? ピクッ
・・・起きないように静かに? ピクッピクッ
・・・声が大きいのは・・・? ピクッピクッピクッ・・・
・・・・・・・・・あははははは〜、veld頭悪いですから分からないです〜♪←(壊れ馬鹿) (veld)
- なんもかんもすっ飛ばしていきなり授乳からですか?!
流石です。脱帽。
幸せな2人が良いですねぇ・・・
でも、あっという間に大きくなりますね子供たち?
そしたら親子というよりは兄弟に見えるのかも・・・
それはさて置き、これの少し前が気になるこの頃です。
2人の間にどんなドラマがあったのでしょうか? (KAZ23)
コメントありがとうございます。
結局タマモ書いてるのが、一番楽しいや、私(^^;
kitchensinkさん
なんか、転がして1時間かそこらでコメ付いてたのにはびっくり(笑)
『猫→気紛れな艶やかさ』と脳内加工されてタマモへと連想が飛び、更に飛び越えて子供に辿り着いちゃった辺り、自分でもナンなんだかとか思ったり…
シロは微妙だけど、タマモは獣な方が本来なんですよね(^^; そう思ったらこうなった、と(笑)
ハルカさん
ちょうど聞きかじった狐の話がタイムリーだったのも(笑)
元はと言えば国政やもんなぁ…杉の植林。 自○党は、ほんにロクな事せんわ(T_T) (逢川 桐至)
MAGIふぁさん
たぶん無かったろうなぁと思いつつ書いてました。
今更、後ろ向き拝見しました(^^; 楽しかったです。 って、ここで書くことか?
veldさん
いや、2〜9匹(種による差もアリ)とか言いますし、少ない方かも(^^;
後ろの方は… ほら、朱に交われば何とやらで、片や横島ですしねぇ(笑)
KAZ23さん
ここに至る軌跡を描くと、それなりの長編になっちゃいますし(爆)
狐の場合、1年で成人らしいから、さすがにソレに合わせる訳には行かないんですけどね(苦笑) しかも、娘は大抵ヘルパーとして母親と同じ巣穴に残るとか、挙句同じ種の仔を身篭る事も有るなんて、インモラ〜ルな展開が予想出来ちゃったり(核爆) (逢川 桐至)
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