ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−34


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 2/25)





「で、GS協会はどう動いたんだ?」

「未だに明確な動きはありません。
 会議は踊る、されど進まずと言った様子です」

横島とワルキューレの会話である。

魔神に就任した横島の元へ、彼女は弟とともに志願して仕えていた。
リリスの指示を受けたわけではなく、純然たる彼女の意思でだ。
彼女は責任を感じていた。
横島の生を歪めたのは、間違いなく自分であると。
これから先、横島にはどんな試練が待ち受けているか分からない。
ならば、自分は横島にとって最も忠実な部下たらんことを課していたのである。
それ故、彼女は友人としてではなく、部下、或いは軍人としてのスタンスを崩すことは無かった。
何より六魔神中、最年少で最弱の実績無しな彼である。
その力も明らかになっておらず、望んで仕官する者など皆無であった。
横島としてはそんな彼女を不憫に思う反面、自分の立てた計画の良い駒が出来たことを喜んでもいた。

『大丈夫さ。計画が成功すれば、お前が責任を感じることも無くなる』

内心の呟きを表に出すこともなく、そんな彼女の姿勢を正そうとはしない横島だった。


「美神さん達の様子は?」

「元々、協会の方針が決まっていなかったがために確保し続けていた側面があります。
 特に危害を加えられることもなく、ただ捕囚されているだけのようです」

「揺さぶりでもかけてみるか………」

「タイミング、程度、相手が重要になるかと。
 下手な揺さぶりは暴走を誘発します」

「リリスがそうしたように、俺もそうするさ。
 選択肢を奪っていけば、好きな方向に誘導出来る」













六魔神の初会合の席。

所信表明として、横島はいきなり一つの提案をぶち上げた。
すなわち『人界侵攻』である。


「却下だ。
 やっと六魔神が揃って、神界とのバランスが取れたばかりだ。
 人界侵攻そのものを否定はしない。
 だが、時期尚早だ」

魔神の一人がそう断じた。

「それに、デタント崩壊に繋がる行為を神魔最高指導者のアノ方達は容認するまい。
 あくまで末期症状になった際のカタストロフ……としての最終戦争だ。
 準備は続ける。
 しかし暴発はしない」

別の魔神が言葉を継いだ。
他の魔神達は無言だが、それに同調するような気配だ。
リリスだけは、横島を興味深げに見つめていたが。

「では、アノ方達の同意を得られることが前提条件なんですね?」

どうせ話の流れがこうなることは分かっていた。
想定通りの流れなら、相応の返答というものがある。

「そういうことだ。
 そもそも、デタント体制を作り上げたのはアノ方達だからな。
 我々の意思ではどうにもならん。
 それを無視すれば、アシュタロスのように弾かれるだけだ」

「了解しました」


これでこの話題は終了した。
この新しい魔神もこれ以上青臭いことを言うことはあるまい。
他の魔神達はそう判断した。
だがその判断は大きく間違ったものであった。

横島が魔界の最高指導者に直談判し、サっちゃんから一つの勅令が下るまで、それに気付くことは無かった。
そしてそんな勅令出す指導者達の真意も量りかねたのである。





――――横島忠夫の人界侵攻を認める。それに伴い、魔界のあらゆる人材、物資、施設の使用を許可する――――






この勅令が魔界全土に発令され、魔界は活性化を始める。
また、それに呼応するように神界も活発に活動し始めた。





こうして横島は、一時的でありながらも魔界全土を掌握することとなる。
最低限の権限しか行使することは無かったが。













カツーン、カツーン、カツーン



VIP待遇に近い独房に移されていた令子達。
近頃は令子やおキヌ達もやっと調子を取り戻し、美智恵がホッとし始めた頃。
複数の足音が聞こえると思ったら、自分たちの独房の前で止まる。

「?」

昼食は取ったばかりだ。
何の用かと怪訝に思ったが、扉が開かれ、監視と警護を担当していた者達がこう言った。

「釈放です」

「は?」

「ですから、釈放です」

「……何があったの?」

「私では答えかねます。
 幹部の皆さんから事情を説明していただけるかと」

「そう。私達だけ?」

「いえ、全員です」

「分かったわ」

そう答えて、美智恵は令子達を振り返った。

「状況が変わったみたいよ?
 六道先生か、横島君辺りが何かしてくれたのかしら?」





状況が動き出す。











白亜の城ユーチャリス。
その最深部において、ドグラ・マグラは部下のハニワ君達と共に作業をしていた。
横島が人界侵攻を提案するその前から、彼は一つの装置を、魔方陣を編み上げていた。
その魔方陣の規模は凄まじく、既に半径が数kmにも及ぶほどだ。
ドグラ・マグラはその演算能力を最大限に駆使して、それを実行していた。
と、そこに訪問者が現れた。

「ん?」

入り口の空間が歪むのに気付き、そちらに目をやると、そこにはジークがいた。

「お疲れ様。
 作業の進み具合はどうだい?」

ドグラ・マグラは視線を戻し、作業を再開しながら応じる。

「まだ1%にも満たん」

「このサイズで1%未満か………」

ジークは魔方陣の巨大さに驚くよりも呆れて呟く。

「ったくポチの奴。
 当初の予定よりもはるかに高位の魔方陣に変更しおった」

「積層型立体魔方陣………か」

「うむ。
 アノ方々からの贈り物にそれがあったせいで、作業が大幅に増えてしまった」

愚痴るように指差した一冊の魔道書。
その表紙には、『宇宙意思への干渉方法』というタイトルが記されていた。








通された部屋は、実に豪華な部屋だった。
かつて秘密研究所にあった、豪奢な応接間と比べても遜色の無いもの。
そこで数人のGS協会幹部達が待ち受けていた。






「横島君が魔神にね………」

ああまずい。

令子もおキヌちゃんもやっと立ち直って来たのに、この有様だ。
会見の席に同席している六道女史も、さすがに微妙な表情をしている。
幹部達が自分達に都合の良いように伝えないように、正確な事実を伝えるための同席。
だから、全てが事実なのだろう。
実際、アシュタロスの力の結晶を受け止めたのは目撃した。
全ての事象がそれを肯定している。

ふと、他のメンバーの表情が気になって振り返ってみる。

令子――――無表情だが、爆発寸前。
おキヌ――――泣いてる。
シロ――――怒りで言葉が出ないようだ。
タマモ――――冷たい無表情。
西条――――さすがに憤りを感じているようだ。
ドクターカオス――――何かを考え込んでいる様子。
マリア――――鉄面皮で良く分からないが、目の光が悲しんでいるようだ。
冥子――――六道先生に抱きついて、泣いている。
エミ――――さすがに気分を害しているようだ。
唐巣――――怒りを押し殺しているようだ。何度も十字を切っている。
ピート・雪乃丞・タイガー――――3人が3人とも憤怒の表情をしている。
ヒャクメ――――明らかな侮蔑の表情。
小竜姫――――体調が悪そうだ。

おや?
メンバーが足りないことに、今更ながら気付いて質問する美智恵。

「ワルキューレとジーク君は?
 他の神族・魔族は?」

「見つからなかったそうなの〜」

「或いは……メドーサ達と組んで姿を消した……か」

そこに協会幹部が口を挟む。

「で、協力してくれるのかね?
 もちろん、既に君達の名誉・財産その他は回復するように手配してある」

「人界侵攻ね……どちらかと言えば、GS協会侵攻の間違いじゃなくって?」

冷ややかに指摘する。
協会としては、敬意も何もあったもんじゃないと激怒したい所だが、決定権は美智恵達にある。

「同じことだよ。
 まさか他に被害が出ないように闘ってくれるとでも?
 知らないわけでもあるまい。
 GS協会は世界各地にあるのだよ?」

「…………」

別に反論出来ないわけではない。
さっきから聞いてれば、彼らから一言もない言葉がある。

「そもそも、魔神がそんな手加減を「っざけんじゃないわよ!!!」

あ………美神令子がキレた。

その場にいる誰もがそう思った。
そしてその場にいる横島サイドの人間は誰も止めようとしなかった。
止めるなんて発想も無かった。

「事の発端はアンタ等のせいでしょうが?!!
 大体、アンタ等のその態度は人に物を頼む態度じゃないのよ!!
 まず最初にすることは、土下座して謝ることでしょうが!!
 分かってんの?!!
 アンタ等のそういう態度がこんな事態を引き起こしてんでしょうが!!
 そんなアンタ等が横島君を語るな!貶めるな!!」

令子の爆発をきっかけに、そこにいた全員に火が付いた。
怒号が舞う、霊波が乱れ飛ぶ。狐火が調度品に飛び火する。
そこは戦場もかくやという様相を呈し始めた。








30分ほども喧騒が続いただろうか?
GS協会幹部達は全員ボロボロになって気絶しており、いい加減、罵詈雑言が切れた頃に美智恵が切り出した。







「この連中に関しては、後できっちりお礼をしておくことにして。(どこから取り出したのか、神通棍でグリグリしながら)
 問題はこれからよ。
 横島君をどうするの?
 闘う?説得する?
 それ以前に、横島君の真意は何?」







美智恵の言葉が、沈黙に満ちた部屋へ響いた。





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