ザ・グレート・展開予測ショー

上下左右、何処何処へ!?5


投稿者名:人生前向き
投稿日時:(03/ 2/25)



 マリスは部屋の前で立ち尽くしていた。横島はそんな彼に関心を寄せず、今朝は忙しくかたすことのできなかった布団の上に胡坐をかいた。空きっぱなしの押入れに右手に持つ学生鞄を投げ入れると、座ったまま器用に制服を脱ぎ、そしてトレードマークと化したいつもの服装に着替えた。今だ微動だにしなったマリスは、とうとう口を開いた。

 「よ、横島様。」

 電車の中でおこなわれた会話は結局意味を成さなかった。呼び捨てにしろとは言ったものの、それはできないの一点張りで、さん付けさえも頑として受け付けなかった。選択肢として残ったのは『横島様、主殿、マスター、ご主人様。』この四つであった。正確にはもう五択あったのだが、その一つはテストの選択問題によく出現する『数合わせ』で無視していいものであった。

 「こ、これは修行の一環ですか。」

 マリスはそう言い、部屋を一通り見回した。流し場は決してキッチンとは呼びたくない状態で、カップラーメンの残骸が十数個放置されている。大概は飲むのだが中にはスープが残っている物もある。布団の回りはたとえマッチ一本でも大火事になりそうなありさまである。その他、つい今しがた脱いだばかりの制服は鞄と共に上段押入れに放り出され、下段押入れは洗濯物と思わしき衣類が所狭しと押し詰められていた。

 「仙人となるべく、心身ともにを俗世と切り離し。」

 「へっ!?」

 「違うのですか。・・・・はっ、まさか横島様の素晴らしさに嫉妬した者どもが!!」

 「お、おいちょっと待て、何処行くんだ!?」

 「いえ、横島様のお部屋をこのようなありさまにした者どもに天罰を下しに。」

 「て、天罰ってお前、魔族だろう!」

 「では、地罰を上りに。」

 「逆にするな、意味がわからんわ!!それよりこの部屋は俺が汚くしただけだ。」

 「やはり、仙人となるべくっ」

 「ちがう!!俺が片付けるのが面倒だっただけだ。」

 マリスは首を傾け、なにやら考える素振りをした。

 「ちょっとまってください、何故横島様が片付けるのです?」

 「はぁ〜、そ、そりゃ俺が使ったから。」

 「いままで倒してきた魔族達は?」

 「な、何言ってんだ?」

 今度は横島が首を傾げた。マリスの言っていることの趣旨が把握できない。何故、部屋のゴミと襲ってきた魔族が関係あるのだろう。横島はマリスの話を聞くことにした。

 「あのですね、人間にもルールがあるように魔界や神界にもルールがあるんですよ。神界の方は神族じゃないので細かくは判らないのですが、傲慢、嫉妬、暴食、色欲、怠惰、貪欲、憤怒と七つの犯してはいけないものがあります。神界に比べ魔界の決まりごとは極端に少なくなります。」

 「へ〜、なるほど。」

 「魔界の決まりごとといっても、裏切り、盗み、虚言、殺しなど、これらは罪ではありません。ですがそうすると秩序が失われますよね。」

 「ふんふん。」

 「というわけで魔界のサミットで・・・」

 「ちょいまち、サミットって魔界にも国があるのか?」

 「はい、人間界ほどありませんが大小いろいろありますよ。そうですねぇ〜横島様の知っていらっしゃる魔族では・・・・う〜〜ん。たとえがでませんね」

 「・・・いやわかった、話を続けてくれ。」

 「えっと、どこまで話しましたっけ。そうそう秩序! 事態を重く見た権力者は魔界のサミットであることが決めたのです。そのあることとは『ロナの理』とよばれています。昔いたといわれているロナとは堕天使の一人で、」


 ドアの前に立ったまま、再び説明口調にはいるマリス。横島は初めて知った魔界の法に、学校の授業より興味をそそられ、マリスの喋る言葉一つも聞き逃さぬよう耳をそばだてた。

 「・・・ということがありまして、ロナは魔界の英雄たる人物なんです。で『ロナの理』とは簡単に言いますと勝者は敗者の処遇を決められるということです。」

 「???」

 「敗者は勝者に絶対服従なんです。死ねといわれれば死ぬ、仕えろといわれれば仕える、逆おうものなら魔界より追放されるんですよ。ついでにいいますと逃走も負けとなります。まぁすでに仕えてる者は例外になりますけどね♪」

 マリスは最後の言葉を嬉しそうに自分を指差しながら言った。

 「で俺の部屋と何か関係あるのか。」

 「『ロナの理』には魔族と他種族での争いごとでも同じように適用されるのです。」

 「ということはあれか、今まで俺を襲いかかってきた魔族は俺に従わなけりゃならなかったっていうことか?」

 「そういうことです。」

 そういえば襲ってくる魔族は一度負けると来なくなるな?一人を除いて・・・・・と、その一人が一番の問題のため横島は頭を悩ませている。前からその理とやらを知っておけば、二度と襲いかからぬように命令できたかもしれない。そう考えながら地団駄を踏む。

 「あの年齢詐欺師の性悪女め、今度襲いかかってきたら・・・・・ブツブツブツ・・・」



 マリスは部屋に入ると、まず布団の回りのゴミを一ヵ所に集め始めた。つられて横島も動き出す。最初にやらねばならないこととマリスが発見する前に他人には見せたくない本も上手に隠した。部屋は二十分ほどかけてようやく綺麗になり、流し場もようやく台所に格上げされた。
 
 ふいに横島は壁に掛けられているカレンダーをみる。今日の日付が赤い丸に囲まれていた。

 「なぁマリス、人間界に来るのは初めてって言ってたよな。」

 「はい、そうです。」

 「じゃぁ、社会見学に行こうか。」


 



 「横島様、ここはなんですか?」
 
 アパートから徒歩五分、彼らが今たっている場所は周囲の家並も古く、すべての物が築40〜50年あたりといったところだ。目的地である眼前の建物も相当古い。建物の上には煙突らしき物が建っている。

 「銭湯だよ。」

 「戦闘?」

 「大衆浴場!」

 「あ〜湯屋ですね。」

 ぽんと手を叩くマリス。入り口には『入浴料金割引、火、水、土、日曜』と書いてある。貧乏暮らしを営む横島は、割引き日を部屋のカレンダーに赤いボールペンで記している。他には、青い丸はレンタルビデオの割引、黒い丸はスーパーの割引など、欠かさずチェックをしている。

 入り口の前で物珍しそうに見ているマリスが恥ずかしく、彼の袖を引っ張りにのれんをくぐった。番台にお金を払い、籠に荷物を置いた。閉店まぎわのため客が少ない。ガラスを通して見える範囲、風呂場には三人、全員が年寄りである。

 「よ、横島様。」

 「ん?」

 着衣を脱いでいる最中、マリスから声がかかる。横を向くと恥ずかしそうに俯くマリスがいた。

 「ははは、はずかしいのか?そりゃ魔界には大衆浴場って無いさな。」

 「い、いえあります。だけど・・・・に、人間界のようにだ、男女一緒ではありません。」

 「おいおい、一緒なわけないだろう。」

 「し、しかし・・・よ、横島様はお、男なわけでして。」
 
 「そりゃ男だ。」

 「で、ですから、わ、私が入ることは・・・・。」

 「!?そ、そういえば聞いてなかったけど、おまえって男だよな。」

 横島の顔に一滴汗が流れ落ちた。今まで会った魔族の女は、大体胸がある(一部例外を除くが・・・)。マリスは胸がない魔族だから男と思い込んでしまった。よく見ると顔は女顔である、それに男に比べ体が華奢だ。

 「い、いえ、前もってし、知らせるべきでした。」

 衝撃的な事実を知り横島は口をあんぐり開け固まった。影ではその一部始終を見て笑っている人物がいたことを、2人は知らなかった。







 「タマモ、起きてるでござるか。タマモ?」

 シロは寝るといってベッドに潜り込んだはずタマモが、いつになっても顔を出さないのを不信に思った。

 「こらバカ狐、返事をするでござる。」

 いっこうに返事が来なく、苛立ったシロはベッドへと寄り布団を引っぺがした。もっこりと盛りあがっていた部分を見ると、そこにはロナウドが描かれた風船が一つあるだけで、彼女の姿はなかった。

 「まったくあの不良狐、夜遊びはいけないでござるよ!」








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