ザ・グレート・展開予測ショー

さあ、どっち?(序)


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 2/24)


 はじめにお断りしておきます。
 今回、真面目にやっておりません。
 それでも読んでやるか、という心の広い方は先にお進みください。
 心の準備だけはしっかりとね。



 彼の名前は角野文章(かくのふみあき、文章書くの?)。
 十年前、最年少で純文学新人賞の登竜門、茶川賞を受賞し、華々しく文壇デビューした作家である。しかし、最近は新作の発表もなく、忘れられた存在となっている。
 横島と雪之丞は彼の依頼を受け、彼の屋敷の除霊に当たり、苦も無く仕事をやり遂げた。
 
 「さすがだね。ありがとう」
 「いや、それほどでも・・・」
 二人はホクホクだった。すでに前金として百万円を受け取っている。作家の経済力がどれほどのものかは知らなかったが、成功報酬も期待できそうだった。
 だが、その期待は見事に裏切られた。
 「私も最近はヒット作も出せていないし、実は報酬は払えないんだ」
 「・・・・・・・え?」
 「そのかわり、素晴らしいプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかな?」
 
 二人はまゆをひそめた。
 金のことは、まだいい。美神なら激怒するところだろうが、すでに百万もの金を受け取っている。駆け出しの二人にとっては充分な金額で、ある程度満足できるものである。
 そのかわりのプレゼント?こういう場合、ロクなものではない。経験上、二人はそのことを知り尽くしていた。
 
 「いや、もう金はもらっていますし、結構ですよ」
 横島はあわてて言ったが、角野は気にせず、手に持っていたコンパクトを開き、二人に見せた。
 「白と黒の錠剤。これをプレゼントしよう」
 「・・・なんです、それ?」
 スキンヘッドで、浅黒い肌にサングラスをかけ、全身を黒ずくめの衣装でかためた角野はニヤリと笑った。
 「白の錠剤を飲んだ人間は、飲んだ人間のことを一番好きな一人の女性と、死にたくなるような純愛体験をすることができる」
 「・・・・・・・・・」
 「黒の錠剤を飲んだ人間は、飲んだ人間のことを好きな十六歳以下の複数の女性と、“萌え萌え”な体験をすることができる」
 萌え萌え?純文学作家の口から出る言葉だろうか?

 「いや、いりませんよ、そんなもの。おい横島、帰ろうぜ」
 横島をうながした雪之丞を見て、角野は静かに言った。
 「伊達君。横島君は、きみの弟子かい?」
 「・・・・・・なんだと?」
 「横島君は、あの美神令子の弟子だろ?横島君と仕事をするにあたって、彼女の許可はとってあるのかい?」
 「・・・・・・・・・」
 黙りこんだ雪之丞を見て、角野は続けた。
 「とってないだろ?・・・もし美神さんがこのことを知ったら、なんと言うだろうね?」
 「あんたには関係ないことだ」
 横島は立ち上がると、角野をにらみつけた。
 「俺が雪之丞に頼んだんだ。ってか、あんな女や事務所、俺にとっちゃどーでもいい」
 「ウソはいけないな。・・・調べはついてるんだ」
 
 顔色を変えた二人を見やり、角野は余裕の表情を浮かべた。
 『美神さんはともかく、おキヌちゃん、シロ、タマモは俺が身を挺して守りきらないとな。・・・迷惑かけたまんまじゃおさまらねえ』
 「あ、あんた・・・」
 『やっぱ、弓だな。ママに似ている・・・』
 「て、てめえ!!」
 「・・・誤解しないでくれ。私はゆすりじゃない。それに言ってるだろ、プレゼントだと」

 「・・・そのクスリを飲んだとたん、泡吹いて死んだりしないだろうな?」
 「その点は問題ない。実験済みだ」
 「証拠はあるのかよ?」
 「ああ、今お目にかけよう」
 角野は卓上電話をとり、内線をかけた。
 「アケミちゃーん!モモコちゃーん!ご指名でーす!」
 アケミ?モモコ?女に飲ませたのか?・・・二人の予想は外れた。残酷な形で。

 「ご指名ありがとうございまーす!アケミでーす!」
 「モモコでーす!」
 「な!な!な!なんで・・・!?」
 一人はチャイナドレス、もう一人はフリルのたくさんついたドレスを着ている。二人とも三十歳を過ぎているだろう。ヒゲの剃りあとも青々しい、ご立派な、・・・いや、もうやめておこう。
 「おい!ナマ足だすなら、スネ毛それよ!」
 「顔スリスリすんな!ヒゲの剃りあとが痛いって!」
 横島と雪之丞が悲鳴をあげる様を、角野は笑いながら観察していた。

 「おい!なんでコイツら、こんなことになったんだ!?」
 「いろいろあったんだろう。燃える恋も萌える恋も、必ず成就するとは限らないからね」
 「だからって、こんな・・・」
 「ようは君たち次第だ。気持ちをしっかり持っていれば、たぶん大丈夫」

 (おい雪之丞。ひとまず退散しよう。クスリは貰って、捨てちまえばいい)
 (そ、それもそうだな)
 「君たちの今後を、じっくり観察させてもらうよ」
 横島と雪之丞は、角野の机の上に置かれたものを見て、ギョッとした。
 水晶玉である。二人の姿が映し出されていた。
 (くそ!殺っちまうか!?)
 (殺すわけにはいかない。気絶させて、文珠で記憶を消そう)
 そのとき、二人は背後の気配に気付き、振り返った。
 男が、四人いた。全員ダークスーツを着て、サングラスをかけている。
 「ようやく気付いたか。無理もない。みんな一流の使い手だからね」
 「くそったれ!・・・あ、おい!ドコ触ってんだコラ!」
 「マスター!レミー・マルタン入りまーす!」
 「ブッ殺すぞ!」


 「どうするよ、横島・・・」
 「どうするって・・・」
 二人は横島の部屋で、今後のことを話し合おうとしていた。
 「結局、飲まなきゃいけないんだろ。どっちにするか、ってことだ」
 「・・・ああは、なりたくないよなあ」
 オカマになるのはイヤだ。しかし、もし今までのことが事務所にバレたら。・・・考えるだに恐ろしいことだった。
 横島はじっくり考えた。
 白を飲む?・・・俺のことを一番好きな女ってだれだろ?知りたくはある。しかし、死にたくなるような純愛体験というのは危険ではないか。
 黒を飲む?・・・十六歳以下となると一人しかいない。しかし、シロに手を出すなんて犯罪じゃないか。さすがに、これはマズいだろう。
 「なあ、横島」
 「なんだよ?」
 「俺に・・・白の錠剤を譲ってくれないか?」
 「バカいえ!それじゃ面白くもなんともないだろ!」
 「面白くない・・・?」
 「どーせ弓さんとだろ?俺も相手は決まったようなもんだ。弓さんと結婚に持ち込んだ挙句、二人で俺に獄中面会しようってハラだろ!そーはいかねえぞ!」
 
 「なあ横島、聞いてくれ」
 「うるせえ!こうなりゃ勝負すっか?お!?」
 「俺には・・・弓しかいねえんだ・・・」
 「甘ったれんじゃねえよ!俺にはだれもいねえぞ!!」
 そこまで言って、横島はギクッとした。
 雪之丞は、泣いていた。
 「弓だけなんだ。ママの他に、まともに俺の相手をしてくれた女は。・・・気に入らないなら、ここでひとおもいにやってくれ。お前に殺されるなら、本望だ」
 「・・・わかったよ。しょうがねえな、わかったよ!」

 「いいか?同時に飲むんだぞ」
 「ああ大丈夫」
 横島は黒の錠剤。雪之丞は白の錠剤。
 二人は、口に水を含み、同時に錠剤を飲み込んだ。冷たいものが食道を通り、胃に落ちた。
 
 それが、二人の最後の感覚だった。


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