ザ・グレート・展開予測ショー

修行の日々〜2〜


投稿者名:初心者1069
投稿日時:(03/ 2/23)

パピリオの修行が始まると、小龍姫が横島に次の指示を与えた。

「霊力が標準値まで戻ったようですね。
 今回は何日間いるつもりなのですか?」

「三日間くらいは大丈夫だと思います。
 ここんとこ依頼が少ないもんで。」

横島は妙神山に泊り込んで修行をしているわけではない。
バイトの休みのときにここに通って修行をしていた。
もっとも通えるような距離ではないので、文珠で移動している。
学校は奇跡的に卒業できたので、休みの日は自由に使えることができた。

「そうですか。では『セル』をもう一つ増やしましょうか。
 三日間あれば除霊に影響が出ない程度までは回復するでしょうから。」

「ええっ また増やすんすか?
 それ着けるとずっと修行してるみたいに疲れるんすけど。」

「当たり前じゃないですかそれが狙いなんですから。」

『セル』とは霊力を一般人と同程度まで抑える装置のことだ。
カオスと厄珍が共同開発しようとした装置である。
装着したまま修行して、着ける前の霊力(これを標準値と呼んでいる)を出せるようになれば、
一つ外すにつき、標準値の二倍の霊力がたまっているという訳である。
指輪などのアクセサリーの形をしており、
横島はすでに幾つか着用していた。

もう少し説明すると、
この発明は霊力を溜め込んで一度に好きなだけ使えるというわけではない。
名前のとおり電池の役割を果たしているだけなのである。
一般の霊能力者では『セル』に溜め込んだ霊力を解放すると
彼らの霊的キャパシティーを超えてしまい、溜め込んだ霊力を使い切れない。
つまり、溜めた霊力に無駄ができてしまうので、実用的とはいえない。
使って効果があるのは霊的キャパシティーは大きいが、
まだ霊力があまりない若いGSだけになってしまう。

さらにもう一つ欠点があった。
『セル』を使って修行しても使用者の基本的な霊力が上がるわけではない。
一度だけその人物の限界量の霊力が使用できるが、
その霊力を使い切ってしまうと、標準値までしか回復しないのである。
つまり、いくら修行してもたった一回のフルパワーでの霊力の使用で
修行の効果がなくなってしまう。

開発途中で気づいたこれらの問題点のためにこの商品を販売することはなかった。
しかし、どこで聞きつけたのか横島の修行方法を考えていた小龍姫が
この製品のアイディアを高額で買い取ってくれた。
おかげでカオスは家賃を全て返すことができた。

彼女が横島の修行にこれを取り入れた理由は三つある。

まず、横島は<模>の文珠でアシュタロスと同じ霊力を持っても平気だった。
つまり、彼の霊的キャパシティーは神族や魔族のトップクラス並の大きさということになる。
そのためこの装置を外しても彼は溜め込んだ霊力を全て使い切ることができ、
霊力の無駄使いは起こらない。

次に、この装置を使えば基本的な霊力をあげる修行よりも
圧倒的に早く成長が見込める。
彼が頼むほどの霊力を得るには、それこそ十年以上時間がかかってしまう。

最後に、基本的な霊力を彼が頼むほどにまで上げてしまうと、
その力によって神魔のバランスが崩れる可能性があった。
彼の体には魔族の霊基が混じっている。
あまり大きな力を得ると魔族として神魔のバランスに考慮され、
その均衡が崩れてしまう。
そうなる前に上層部が彼の抹殺を企てるのは考えられないことではなかった。
その点、この装置を使えば一時的な力の増加ですむので、
そうなることはまず考えられない。

ちなみに、横島にはこの装置の効果は知らされていない。
修行のとき以外の霊力を抑える道具として着けさせていた。
横島が自分がほとんど成長していないと思ったのは、このためである。
実際には恐るべきスピードで霊力を溜め込んでいた。

(この『セル』に霊力を溜め終わったら、
 横島さんが修行を始めるときに言っていた
 個数の文珠を一度に使えるぐらいの霊力は集まるわね。
 だけど‥‥集中力のほうがまだちょっと心配ね。
 誰かを守るためならとんでもない力を出すこの人のことだから
 大丈夫だとは思うんだけど。
 一応修行はしておきましょうか。)

「このあとは、休憩の後、パピリオと一緒に座禅を組んでもらいます。
 服装を整えて一時間後にまたこの場所に来てください。
 休憩といってもすることがないでしょうから、
 漢字の勉強でもしといてくださいね。」

そう言うと小龍姫はパピリオの様子を見るために魔方陣のほうに歩いて行った。

「座禅か‥そんなものがなんの役に立つんだよ。足痛くなるだけじゃねえか。」

などと文句を言いながら言われた通り、『セル』をつける。
体から力が抜けていく。 

「ふあ〜眠くなっちまったな。かといってここで寝るわけには行かないし、
 とりあえず着替えるか。」

廊下を歩いていると、
この修行をするきっかけとなる話を盗み聞きした場所を通った。

(ここであの話を聞いたから、こんなことやる気になったんだよな‥‥。)



三ヶ月前
妙神山の修理が終わり、
関係者が呼ばれてちょっとしたパーティーが行われていた。

「しっかし せっかく立て直したんだから
 ちょっとくらい作りを変えたらいいのにねぇ‥
 前とほとんど変わんないじゃない。」
「そうですか?いい建物だと思いますけど。」
「さすが神様でござるな!いい肉を使っているでござる。」
「あんたに肉の違いが分かるとは知らなかったわ。
 それにしてもなんでお稲荷さんもきつねうどんもないの?」
などと会話している事務所の面々。

「ちょっと!ピートも来るって言っててたからわざわざ来たワケ。
 何でオタクがいんのにピートがいないワケ!」
「ピ、ピート君は今日は‥‥学校、そう学校だよ。」
「嘘つくんじゃないワケ、ウチのタイガーも同じ学校なワケ!」
すごい剣幕のエミに尋問されている唐巣神父。
「あれ〜?神父の後ろに霧がかかっているわ〜。」
「き、気のせいじゃないのかね?冥子君。」

「む!まずい。
 小僧達に、あの肉を渡すなマリア。
 タッパに詰めて持って帰れば、三日は飯が食えるぞ。」
「イエス・ドクターカオス。」
「おいマリアそれは俺の肉‥‥おい、おっさんマリアを使って独り占めしてんじゃねぇ!」
「雪乃丞さんのいうとおりですのー!
 貧乏人は貧乏人同士仲良く分け合うのが常識ってもんだのー。
 あれ、横島さんどこに行くんじゃ?」
「トイレだよ。トイレ。」

横島は貧乏人の早食い大会を抜け出すと、トイレにむかって走り出した。
「早くもどらないとあの調子じゃ食い物がなくなっちまう。
 もっと食わなきゃ今月もたねえぞ。」
などとぶちぶち言いながら走っていると、小龍姫の声が聞こえてきた。

「どういうことですか? ヒャクメ?
 ルシオラの最期について疑問点があるというのは?」

(ルシオラ?)
走るのをやめて、感づかれないように近づいていった。

「声が大きいのね小龍姫。 
 このことはまだ機密事項なのね〜。
 そこの部屋に入ってもっと小さな声で話すのね〜。」

そう言うと二人は部屋に入ったので声が聞こえなくなってしまった。
すぐに横島は文珠を生成し<聴>という文字を発動させ、
部屋の中の声に意識を集中させた。

「‥‥つまり、ルシオラが死んでベスパの眷属がその霊破片を集めるまでの間に、
 誰かがベスパとは別にそれを回収していた可能性があるってこと?」

「そうなのね〜。
 ベスパが集めた量と横島さんの体にある量を足しても足りないのね〜。
 でも、まだ体が崩壊したときに消えた可能性も残っているのね〜。」

「そんなことが‥。
 それで上層部の動きは?」

「神魔の上層部はその霊破片が悪用されることを恐れて調査を開始したのね〜。
 今は何者かが持ち去った可能性が高いと見て、
 霊破片を持ち去った人物を探しているのね〜。
 ところで、分かっていると思うけどこのことは‥」

「ええ。横島さん側の人たちには伝えません。
 彼にこんなことが伝わったら、
 神族や魔族を敵に回してでも過去に戻り
 その人物を止めようとするでしょうから。」

「そうしておくのがいいのね〜。」

そこまで聞けば十分だった。
横島は気づかれないうちにその場を立ち去った。

美神達にこの話はしなかった。
話をすれば協力してくれるだろうから、すぐに助けに行くことができる。
しかし、会話からも分かるように過去に干渉すると
神族や魔族を敵に回す可能性が高い。
自分の行動で誰かが犠牲になるのはもう二度ごめんだった。

そこで彼は自分自身の能力で過去に戻ることを考えた。
しかし、今のままでは時間逆行をするほどの文殊の同時使用はとてもできない。
修行しようにも彼の文珠は稀な能力なので、
修行方法が確立されておらず一人で修行するのは難しい。

そんな彼が無い頭をフル活用して考えたアイディアが次のようなことであった。
不自然に思われずに修行を始めるためにわざと仕事で失敗し、
落ち込んだふりをして妙神山を訪れ「美神さんに認められたい」ともっともな理由をつけて小龍姫に修行をつけてもらえるように頼んだ。
小龍姫は何の疑問も持たずに彼女の師匠に相談に行き、修行をつけてくれることになった。

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