ザ・グレート・展開予測ショー

上下左右、何処何処へ!?4


投稿者名:人生前向き
投稿日時:(03/ 2/23)




 「ってあんたそれで連れてきたっていうの!?」

 事務所の中、美神がバンと机を両手で叩いた。シロはシロで今にもマリスに襲いかか
りそうな剣幕である。おキヌも平静を装っているが心の内は怖がっているであろう、お
茶を持ってきた手が震えていた。


 「はぁ〜すんません。」


 ただただ頭を垂れるのみ。あたりまえであるが横島自身がこの状況に一番動揺してい
た。留学の話を持ってきた美智恵、突如として現れ横島の奴隷になった魔族マリス=ラダ、
今日は厄日かな、などと叫びたい衝動を堪えた。


 「奴隷ではありません、従者です。」

 
 ナレーションにも平静な態度で突っ込むマリス。彼はというと美智恵が抱っこしている
ひのめの頬を、ぷにぷに人差し指で触っている。彼が言うには人間の赤子を見るのは生ま
れて初めてだというのだ。ひのめの一挙一動を観察し、彼にとって目新しい行動に驚嘆の
声を上げる。美智恵はそんな彼を見て苦笑する。


 「ママもママよ。何で見も知らない魔族なんか!!」

 
 「しょうがないでしょ、このまま彼を本部に置いておくわけにもいかないんだから。」


 「信用してるわけ!?」


 「私がじゃなくて横島君がね。ね!」


 「ちょっと横島君、それでいいの!?」


 「はい、これから俺は人生を達観することに決めたんです。」


 拳をつくり清々しい顔で言い放った。


 「さすが横島様、私の目には狂いはありませんでしたね。」


 「だぁ〜れぇ〜のせいだと思ってる。」


 「横島様、日本語では悪い方に転がることが『〜のせい』であって、逆に良い方に転が
ることは『〜のおかげ』というんですよ。」


 「ここまで嫌みのきかない相手じゃ、言った方がむなしくなるな」


 人工幽霊一号が買い物に行っていたタマモの帰宅を皆に知らせた。少し遅れ部屋のドア
が開くと、いつも変わらぬどこか冷めた声が聞こえる。

 
 「ただいま、って・・・・お客さん?」


 「はじめまして、横島様の従者でマリス=ラダと申します。」


 「はっ!?」



 


 今日は仕事の依頼が無く、緊急の依頼が飛び込まぬ限り午後9時にはアパートへと戻る
つもりでいた。依頼があったとしても外は雨が降っている、美神は何かしら理由をつけ断
るであろう。実際、今日は時間給を何もせずに稼ぐために来たのだ。通常財布の紐を締め
ている美神もそれを黙認し、ときおり夕食を一人分余分につくる事もある。今晩は期待で
きそうも無いなと横島は心の奥で涙を流した。


 「ふ〜ん、そういうこと。」


 タマモは足の先から頭のってっぺんまでを見定めるように、マリスの軸に足を運んでい
る。一回りし終わると横島に指を差した。



 「あんた、これの何処がいいの???」


 「こ・・・・これって・・・・・。俺は物か?」


 「こら女狐、先生を侮辱したら容赦しないでござるよ。」


 「えっと、かっこいいところです。」


 「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


 「な、何故黙る、隊長まで・・・・」


 「はぁ〜蓼食う虫も好き好きってやつね。」


 「っておい、何もそこまで。」


 「はい!!」


 「お前も元気良く返事をするな!!それに俺は男だ。」


 『横島さん、そろそろ九時になります。』


 人工幽霊一号が横島に告げた。


 「というわけで美神さん。」


 「いやよ。それに部屋はもうないわ!」


 「ですよね、はぁ〜。」


 横島は鞄を持つと、マリスに手で合図して共々部屋から出て行った。シロとタマモは横
島が帰ると自室(屋根裏)に引っ込み、おキヌは食器を洗いにパタパタと足を鳴らして部
屋から出て行く。後に残った親子は真剣な面持ちで顔を合わせる。


 「マリス=ラダ、いったい何者かしら?」


 「・・・人工幽霊一号、すぐに記憶したあいつの顔をプリントにして!」


 「そうね、ワルキューレさんに聞くのが一番早いわね。」


 『申し訳ありませんオーナー、マリスさんに死角に入られていました。』


 「どういうこと、あなたはこの事務所と一体でしょ!?」


 『語弊がありました、彼はこの事務所内部に私にだけ見えない空間ををつくりあげたの
です。』


 「・・・・ワルキューレさんに、明日にでも来てもらいましょう。」


 「でも、今何かあったら!」


 「大丈夫よ、もしそうだったらすでにやってるわ。今までチャンスなんて数え切れない
ほどあったもの。」


 『お話中申し訳ありません、一シーンだけ記憶に彼が残っていました。』


 「早く見せて!」


 テレビをつける美神、そこに映しだされたのは、



 「か、完全になめられてるわね・・・・」


 顔を隠すように背を向け、器用に画面に向けピースサインをおくるマリスの姿であった。





 「ふふふふ。」


 「何がおかしいんだ。」


 「いえ、何でもありません横島様。」


 やむをえなくマリスを連れて帰ることにした横島。揺れる電車の中、腹をすかせた財布
を気にしながら手摺に掴まっている。立っているからといって特に電車が込んでいるわけ
でもなく、横島のいる両にもポツリポツリ空いている席がめだつ。しかし最近あまり座る
気にならないのだ。何故かと問われれば、なんとなくと答えるであろう、それが本心であ
ると横島は思っている。


 「それより、お前の目的も俺の命だったりするわけ?」


 横島はできるだけさりげなくマリスに聞いた。


 「『も』ということは、これまでもあったのですね。」


 「・・・・あったな。」

 
 「・・・・そうですか。」


 「で、お前はどうなんだ。」


 「御安心下さい。私の目的はけっして横島様の命などではありません。」


 「じゃあ、何なんだ。」


 「・・・・それは申し上げられません。」

 
 マリスは横島から顔をそらすと俯いた。


 「まぁ今はいいよ、さっき言ったとおりそのうち教えてくれるんだろう。」


 「はい必ず。」


 「それと『横島様』っていうのは何とかならないか。」


 「と申されますと!?」


 「街中でそう呼ばれた日にゃ、俺は一生十字架を背負うことになる。」


 「はぁ〜、ではご主人様。」

 
 「なおさら却下!」


 「忠夫様。」


 「むずがゆい。」


 「主殿?」


 「何故、疑問系!?」

 
 「主君。」


 「時代劇じゃね〜よ!」


 「お兄さん。」


 「誰がお前の兄貴だ!」


 回りの注目を浴びていることなど気づかずに、コンビネーション抜群の二人漫才は目的
駅に着くまで繰り広げられた。降りる際にお捻りが飛んできたとかこないとか・・・・




 


 「バカ狐、さっきから何がそんなにおかしいんでござるか!」


 難しい顔をして横島の安否を思うシロの隣で、横島が帰ってからというものくすくすと
止むことな無く笑い声をあげているタマモ。


 「なんでもないわよ、私はもう寝るわ、クスクスクス。」


 「頭でもおかしくなったんでござるか?」


 笑いながらベットに潜りこむタマモは、これから起こるであろう騒動を想像しながら眠
りについた。



 

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