ザ・グレート・展開予測ショー

いつもと同じように見えて少し違う日


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(03/ 2/22)

 お前はいつものようにバンダナを巻き、古ぼけたジャケットを着てアパートを出た。

(今日の除霊は六時だったな。急がねーと遅れちまう)

 そのときお前はこう考えていた。
 本日の除霊は久々の高額が絡むケースだった。お前も力がついたのだけれど、その分こういう際にはアテにされていて気が抜けないんでしょう?

「余計なお世話だ」

 それならばいいんだけれど。

 自転車にまたがり、全力で漕ぎ出す。最近の経済状態の切迫から、近頃お前は自転車で通勤することにしていたね。良い案だとは思うのだけれど、自転車で運ぶには、お前のいつものリュックサックは大きすぎるんじゃない?

「その言い訳は美神さんには通じん」

 そう。そうなのよね。

 結構急な坂道を必死の形相で登りながら、お前はひたすらに悪態をついていた。誰にだかは分からないけれど、あながち本気の悪態とも思えないわね。

(あ〜っ!! 自給三百五十円で、何でこないな辛い思いせなアカンのやぁ〜ッ!!)

 と、お前は心の中で罵っていたね。

「頼むから俺の心を読まんといてくれっ!」

 読んだわけじゃないわ。そんな感じかな〜? って思っただけ。

「……くそう」

 坂道を登りきって、自転車は下り坂に差し掛かった。

 お前は足をペダルから離して、重力に従って自転車が等加速度運動するに任せた。これからの仕事を考えると体力を取っておくのは正解だと思うけど、子供が飛び出して着たりしたら危ないんじゃない?

「こんなトコで飛び出してくる子供はいないよ」

 分からないけどね。でも、どうやら坂道は終わったみたいね。
 お前は再び脚をペダルに戻して、ひたすら脚を回転させる作業に戻っていった。単純な体力労働では、お前は相当な自信を持っているみたいね。

 ……で、事務所まで体力は持つの?

「……持たないかも」


   ★   ☆   ★   ☆   ★


 事務所でまず初めにお前を出迎えたのは普段の例の通りのシロちゃんだった。

「こんにちわでござる、横島先せ〜いっ!!……って、何で先生そんな疲れた顔してるんでござるか?」

「この荷物を見て判らんか……?」

 お前が指し示した荷物は、普段お前が背負っている荷物。キリマンジャロだかチョモランマだかに登るシェルパが背負うような巨大なリュックサックだった。

 何度も言うけど、シロちゃんに背負わせた方が、双方共に楽なんじゃないの?

「俺がいるのにシロに背負わせると、回りの視線が痛いんだよ」

 男の癖に……って事?

「多分……って、こんなの不平等やああぁぁっ!! 男女同権! 雇用機会均等法ッ!!」

「せんせい、何言ってるんでござるか?」

 キョトン、とするシロちゃん。お前の叫び声は、シロちゃんにはかなり奇異に聞こえたらしいわね。

 お前は首を振り振りしばらく金切り声を上げつづけた後、唐突にその場に復活した。

(……アカン、このままではただの変な人になってしまう)

 と、お前は思った。その通りだけど、シロちゃんにその心配はないんじゃないの? いまさらでもあるし。

(それは言わんといてくれ……)

「え〜と……シロ、今日はサンポに誘いに来なかったな。どーしてだ?」

「あ、そうそうそうでござった。実は拙者今日珍しく――」

 巧く返したわね。

(しばらく黙っててくれ……)

 うん。


   ★   ☆   ★   ☆   ★


「いい、横島クン。シロとタマモが悪霊をココに追い込むから、タイミングを見て結界を発動させてちょうだい。後は、おキヌちゃんの笛で除霊出来るか試してみるから」

 現場に着いて。
 お前は美神さんの話を聞きながら、テーブルの上に置かれた現場付近の地図の一点を見つめている――振りをして、際どいラインで見えない美神さんの胸の谷間を眺めていた。

 ……他にすることはないの?

「ほっといてくれ!」

「……なぁに、横島クン?」

 あ、美神さんに聞かれたみたいね。

「え……? ……あ、その……いや……」

 口を滑らせたわね。邪険にするからよ。

「誰のせいだと……」

 あ、また。

「……ふぅん。誰のせいなの……?」

「え……? ……あ、つーか、えーと……うわぁ……」

 微妙に固まった笑顔を見せる美神さんの前に硬直して、お前はまさに蛇に睨まれた蛙のように立ちすくんだ。ここでおキヌちゃんあたりが「まぁまぁ」と、停めにくればそれでいいんだけれど……
 残念ながら、おキヌちゃんは今依頼人さんと話してるみたいね。タマモちゃんが傍観してるけど、助けるつもりはなさそうだし。

「こんなんサギやああああぁぁぁっ!!」

 あ、悲鳴。


   ★   ☆   ★   ☆   ★


「コイツかっ……!」

 目の前に現れた悪霊。何故か兎のような形をしているその悪霊に、お前は霊波刀を突き立てた。悪霊体内で霊波刀を曲げて身体を掻き回した後、セットしておいた文珠の結界を作動させる。


 ――『結』『界』……!


 悪霊は悲鳴をあげて結界内に捕らわれた。お前はすぐさま結界を収縮させ、悪霊の動きを極限まで封じる。

「おキヌちゃん!」

「ハイっ」

 ネクロマンサーの笛の物悲しい音色が、辺りへと響き渡る。その音は、結界内で猶も暴れていた兎を見る間に沈静化させ、やがて、その姿を徐々に薄れさせ始めた。


 そして…………消える。

「……ぷぅ」

 おキヌちゃんが笛から唇を離す。

「ご苦労様、おキヌちゃん」

「はい……お疲れ様です。横島さん」

 ちょっと疲れた感じの様子で、おキヌちゃんはお前に囁きかける。息を整える為なのは分かっているけれど、そのかすかな声音に、お前はちょっとドキリとした。

 ……今日は随分手際が良かったわね。

(相手が強くなかったから……な)

 流石におキヌちゃんの前で迂闊に声を出す愚は冒さないか……

(当たり前だよ……)

 お前は汗を拭き、寄ってきた美神さんやシロちゃん達を笑顔で迎えた。こういう時のお前の笑顔には、人をコロリと参らせる何かがあるような気がしてならないのよね。

(お前、人を妖怪みたいに……)

 いいのいいの。褒めてるんだから。


   ★   ☆   ★   ☆   ★


 お前がアパートに戻ったのは、夜も十二時を過ぎてからの頃だった。着換えもせずに万年床の上に寝転がって、身体全体で『脱力』を表現している。

 何か食べなくていいの?

「給料日は明日だぞ……今ウチには米ヌカひとつねぇ……」

 貧しいわね〜。

「ううう、くそぉ……腹減ったぁ……」

 涙を噛み締めて、薄っぺらな布団を握り締める。

 作ってあげられたらいいのにね。

「そうだな……」

 お腹が空いているんなら、もう寝たほうがいいんじゃないの?

「ああ、そうする……」

 お前はのそのそとGジャンとワイシャツ、Gパンを脱ぎ、何故か湿っぽい煎餅布団にもぐりこんだ。部屋からは電気が消え、しばらくしてお前の呼吸の音だけが暗闇に響く。











 ゆっくり……ゆっくりと…………



















 お休み。












 パパ。

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