ザ・グレート・展開予測ショー

語ろう会 ―4後半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 2/21)

<前半からの続き>


しばらくそうしていてから、僕達はどちらからとも無く格好を崩す。
すると、さっきの話に無性に腹が立ってきた。

「それにしても酷い話だ。なんて奴だろう!それで人の親だなんて・・・」

そんな僕を見て、エミさんがクスクスと笑う。

「ふふっ・・・本当に、ピートってば羨ましいくらいに純粋ね。だから好きになったワケ♪」
「こんな話の最中にふざけないで・・・」
「ふざけてなんか無いわよ。あたし・・・ピートの事は本気で好きよ?」

いつもの調子でふざけてると思った僕に、エミさんは真剣な顔で気持ちを打ち明けてきてくる。
その表情は、本当に真剣に見えた。

「あたしはね、ピートが想像も付かないような世界で生きてきた女よ?多分、本当の事を知ったら軽蔑すると思うわ。」

ソレを話すエミさんはどこか哀しそうに見える・・・

「だからこそ言うワケ。こんな事、何でも無い事よ?自分が助かる為には、息子の命なんて安いものってワケ。人間の裏の部分とか、それらが集まって形成される裏社会なんて、悪魔や悪霊なんて目じゃないくらい汚いんだから・・・」

エミさんの瞳は、どこか違う場所を見ているようだった。

―― エミさん ――

なんて儚げなんだろう?

「エミさん・・・」

いったい、エミさんはこれまでどんな世界を覗いてきたのだろうか?
僕が知るエミさんは、美神さん程では無いにしても傍若無人で・・・
美神さん程じゃ無いにしても自己中心的で・・・
美神さん程じゃ無いにしても天上天下唯我独尊で・・・

―― なのに ――

今、目の前にいるエミさんは、本当に僕の知るエミさんなのだろうか?
そう思うと同時に、僕はエミさんについて実は何も知らなかったと言う事に気がついた。

「いいのよピート・・・あたしは、別にピートに好きになって欲しいわけじゃ無いわ。あたしが勝手にピートの事好きになっただけだから・・・」

そんな、エミさん・・・

「そんな、哀しい事を言わないで下さいよ。」
「ピート?」

僕は思う。今はじめてそれを思う。

「エミさんの事、もっと教えてください。絶対に軽蔑なんかしません!神と僕の心と貴女に誓います!僕はエミさんの事が知りたいです。もっともっと、本当のエミさんが知りたいです。だからっ!」

そこまで言ってから気がついた。これって殆ど、愛の告白なんじゃないのか?
でも、止まらない。

「だから・・・・・・もっと一緒の時間を過ごしませんか?」
「・・・・・・・・・ピート・・・」

―― ホロッ ――

「あ、あれ?なにこれ?嫌だっ!?ちょ、ちょっとタンマ!なんで・・・・・・」

エミさんの瞳から、多分さっきとは違う種類の涙が毀れる。エミさんは大急ぎで僕に背を向けると、ゴシゴシと擦り拭っていった。

「なんでこんなチャンスに涙が止まらないワケ?!ああ、もうっ!わたしの・・・」

―― フワッ ――

「!?ピ、ピート!?」

僕は極自然に、エミさんを後ろから抱きしめる。理由はエミさんを可愛いと感じたから。抱きしめたいと思ったからだ。

「別に・・・・・・・・・泣いても良いんですよ?」
「あ・・・」

心の中に、温かい気持ちが溢れてきて・・・それが言葉になって口をついたみたいに・・・

―― ギュッ ――

僕は少しだけ力を入れてエミさんを抱きしめた。

「ん・・・・・・」

そしてエミさんも、気持ち良さそうに僕に身体を預けてくれて・・・
2人はしばらくの間、無言で時を過ごした。

・・・・・・・・・・・・










「てなワケで、あたしはまんまとピートを捕まえる事に成功したワケよ。ホホホ!」
「わ〜・・・エミちゃんって悪女ね〜・・・」

小指を立てた左手を口元に当てて、決して上品ではない笑いをするのがピートの奥さんの小笠原エミその人である。
今日はそろって旦那衆が飲み会に出かけたため、六道家では嫁さん達の一部が集まって騒いでいた。

「やっぱり、良い女っていうのは男を惚れさせなきゃ嘘なワケ!あんたらみたいに、自分が惚れちゃったり、消去法で残った男と結婚したりなんてダメダメなワケ!ホーホホホ!」
「ま〜た、はじまったわ。エミも懲りないわね〜・・・」

エミの話を聞いているのは、六道冥子と美神令子の2人である。今日は3人で昔話に興じていたのだった。

「オタクも横島なんかに捕まったのが運の尽きなワケ!やっぱりピートの方が断然上なワケ!」
「ふん。そんな事言ってるけど・・・」
「な、なによ?」

強気のエミに令子が言う。

「結局の所、あんたもピートにベタ惚じゃない。でもってその話もほんとうは、『迂闊にも見られてしまった本当の顔』を『照れ隠しにあたかも自分の策略のように話しる』だけでしょ?」
「うっ!!」

的確な突っ込みに、二の句が告げられないエミ。

「な〜んだぁ〜♪やっぱりエミちゃんとピート君もラブラブなのね〜♪」
「ち、ちが・・・冥子、よく聞きなさ・・・・・・」

真っ赤になるエミ。

「な〜んで未だにそんなして言うかねこの娘は、いい年して?両思いなんだからそれで全然良いのにさー・・・」

令子は呆れた風に呟く。

「あたしとしては令子の方が信じらん無いワケ!アンタ、なんで自分だけをお愛してくれるワケでもない男の事、そんなに好きでいられるワケ!?」
「うっ!!い、いいじゃ無い!ウチはこれで納得してるのっ!人それぞれじゃないっ!!」

今度は令子のほうが言葉に詰まった。それでも「好き」という気持ちは否定しない。

「みんなラブラブね〜♪冥子もラブラブなのよ〜♪マーくんとっても優しいの〜♪」

冥子だけは純粋に嬉しそうな表情だけを浮かべていた。

「アンタはほんと、年中幸せそうで良いわね。」
「ほんとなワケ・・・」
「え〜?令子ちゃんとエミちゃんは幸せじゃ無いの〜?」

冥子が不思議そうに尋ねると、2人はお互いの顔を見合わせてからポリポリと頬をかく。

「あ〜いや、幸せよ?ウチはこれでも・・・」
「ウチも幸せなワケ。やっぱりピートって優しいから・・・」

顔を赤らめつつ、2人はそれを認めた。

「じゃあ、やっぱりみんな幸せなのね〜♪良かったわ〜♪」

良い歳して・・・と思いつつ、嬉しそうな顔の冥子を見る。
でも、自分もいい歳してだしな〜・・・なんて思う令子とエミであった。
彼女たちの関係は、幾分穏やかになったようである。

・・・・・・・・・・・・










「・・・・・・とまぁ、そんな出来事がありましてね。僕はエミさんを1人の女性として・・・」

妻との思い出を語っていたピートは、そこまで言って気がついた。
全員の自分を見る目が冷たい。

「ど・・・どうしたんですか皆さん?」
「だーーーーっっ!!!」
「うわっ?!よ、横島さんっ!?」

と、そこで横島が復活してきた。ピートの肩を掴んでガクガクと揺さぶる。

「な〜んでてめえは、そう1人だけ美形ぶるんだよーーーっ!!?」
「えっ?!えっ!?」

ピートは状況を飲み込めていなかった。

「な〜にが『泣いても良いんですよ?』だ、こらぁっ?!ざけんじゃねぇぞっ!!?」
「まったくだ。背中からギュッと抱きしめる?ハンッ!変なドラマの見すぎじゃねぇのか?ったく!!」

横島の意見に旦那衆は口々に賛同する。

「ピートさんは昔っからそうでしたのー・・・美味しい所は全部一人じめじゃー・・・」
「ワイなんて、義母上殿から『冥子の婿候補、消去法で貴方しか残りませんでしたの』って言われたんやぞっ!?それなのに・・・」

そこまで言われるとピートも腹が立つ。

「美味しい所をいつもだって?!冗談じゃないっ!!初めてのクリスマス合コンの時の屈辱を、僕が忘れたとでも思っているのかっ!?」
「あーてめえっ!?それはもう水に流すって・・・」
「全くですのー・・・だいたい・・・」
「やっぱピートは俺らの・・・」

あとはもういつもの通り・・・
こいつらは、いつまでたってもこいつらのままのようである。
尚、ボチボチ他の客と店主の視線が冷たくなってきていた。
でも、飲み会はもうちょっと続く。


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