ザ・グレート・展開予測ショー

語ろう会 ―4前半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 2/21)

「僕がそれを見てしまったのは、本当に些細な偶然だったんです・・・」

ピートはその出来事を思い出すと、いつもノスタルジックな気持ちになるのだった。

・・・・・・・・・・・・










―― えっ?! ――

僕は、我が目を疑ってしまった。
目の前の光景が、自分の理解の範疇を超えていたからである。

「あっ!ピ、ピート?!や、やだ、あたし・・・」

いつもより幾分か星空の綺麗な夜。たまたま通りかかった公園で、僕はエミさんを見かけた・・・
別にそれだけならどうと言う事も無い。いつものように迫られて、その強引さに戸惑いながら翻弄されつづけるだけだろう。

―― だけど ――

「エミさん?泣いて・・・・・・いたんですか?」

エミさんが泣いている。いったい何故?
その双眸から止め処なく涙を溢れさせるエミさんはいつもとは違って見えた。

「あれ?」

と、そこで僕は気がつく。
エミさんの向こう側に誰かがいた。

―― あ ――

それは人ではなかった。いわゆる幽霊・・・ぱっと見は自縛霊だろうか?
小さな男の子の霊だ。

「この子、自縛霊ですか?」

僕はエミさんに尋ねる。

「ん・・・・・・ちょっと違うわ。」

エミさんは、今まで僕が一度も見た事の無い表情だった。

「この子はね、呪いに括られてるの。」
「呪い・・・・・・くくられてって、どう言う意味ですか?」

流石にエミさんは呪いのエキスパートだけあって、僕では分からない違いと言うものが分かるらしい。
だが、呪いに括られているというのはいったい?

「こんな呪いがあるわ・・・・・・ある人物を呪う為に、その人物の血が繋がった肉親を攫って来るの。例えば子供なんかをね・・・」

それってまさか・・・

「そうして攫って来た肉親に術を施すと、肉親どうしの体の感覚を共有させる事が出来るの。対象をその中の1人に絞る事も可能だし、2等親位までなら全員に同時に効力を与える事も可能だわ。」

つまりこの子は・・・

「あとは、簡単。煮るなり焼くなりすれば、全てが呪いたい人物に呪詛の念となってダイレクトに伝わるワケ。」
「・・・・・・なんて事を・・・」

エミさんがそんな話をするって事はつまり、この子は呪いの道具として攫われた子供で、その為に殺されたって事に・・・

―― ギリッ ――

僕は強く歯を噛み締めた。
呪い屋なんて隠語で呼ばれる・・・エミさんもそうだけど、オカルト技術者の中でも特に呪いに長けた人達がいて、その中にはそんな殺し屋家業を営む者たちがいる。
そういう話を聞いたことはあった。
それを許せないとは思うが・・・世の中の仕組み上そんな職業が生まれる理由がある、という事も知っている。納得は出来ないが理解は出来る。
でも、僕は知識だけだったんだ。
それを今思い知らされた。実際に行われた、その傷痕を目にしただけで・・・

―― なんて胸が痛いんだろう ――

そんな風に考えていた僕の事をエミさんがどう思ったのか、凄く穏やかな表情で笑いながら語りかけてくる。

「ピートが何を考えたのか、大体分かるわ・・・・・・でもね、現実はもっと残酷よ。」
「えっ?」
「このケースの場合、呪った理由は怨恨。この子の父親は結構大きな会社の取締役役員で、色々ときわどい事もやってて色んな人間から恨まれてたらしいわ。」

呪いの理由が怨恨というのは、まぁ分かりやすいことだ。

「それでこの子を攫って、さっき言った呪いを行ったの。でも恨みが大きいから、ただ殺そうとはしなかったわ。たっぷりと痛みを味あわせようと考えたワケ。」
「それって・・・・・・殺さずに、ずっと痛めつけるとかですか?」

エミさんが肯定な風に頷く。

「そして呪いの一晩目、呪いは成功して痛みはこの子の父親に上手く届いたわ。」
「・・・・・・どうなったんですか?」

僕がそう聞くと、エミさんの瞳の色が変わった。一見して無表情。でもその中に深い哀しみと怒りがこもっていたように思う。

「翌日、痛みの原因が呪いだと分かった父親は、呪い屋を雇って呪い返しを行ったの。」

呪い返し。それは文字通りかけられた呪いを呪った相手に送り返す事。
「人を呪わば・・・」という言葉が示す通りに、返された呪いは自分に帰ってくる。

「その方法っていうのが、この子にかけられた術を解いてやる事だったんだけど・・・」

エミさんの瞳にこもる、怒りの感情が強くなった。

「この子にかけられた術は強力で、普通じゃ解く事なんて出来ないものだったワケ。ある方法以外ではね・・・」
「その方法って言うのは・・・・・・何だったんですか?」
「詳しい方法は省くけど、この子を呪い殺したのよ・・・・・・・・・父親自身の希望でね。」

―― !? ――

「そんな!だって?!」
「呪いにもメカニズムて言うのがあるの。その手順を理解すれば、相手の呪いの効力を無効に出来るわ。」
「そんな事じゃ無いです!だって、父親が自分の息子をっ?!息子を殺すだなんて!?」

そんな事、とても人の所業とは思えない!

「ピートは良い子ね。でも、本当よ。父親は、迷う事無くこう言ったわ。『別にそれくらい構わん。あんな痛みは二度と御免だ!』ってね。」
「なんて奴だっ!?」

僕はその台詞を思いっきり吐き捨てた。

「ま、そいつは特に嫌な奴だったけど・・・でも、こいつだけが特別なんじゃ無いわ。こんな奴らはゴロゴロしてるワケ。」
「それは!それは分かりますけど・・・」

世の中には様々な人間がいて、中にはそんな奴らもいるって理解してる。
でも感情が付いて来ないのだ。頭で理解している内容に。

―― あれ? ――

「そう言えば、なんでエミさん?・・・あいつとか・・・・・・その・・・詳しいですね?」

なんだろう?なんだか凄くモヤモヤする。
エミさんはなんでこんなに事情に詳しいんだ?たまたまここでこの子を見つけた訳じゃ無いのか?

「詳しいのも当然よ。呪いを解く方法を教えたのはあたしなワケ。」
「!?」

それって、もしかして・・・

「まさか、呪い返しの為にこの子を殺したのって・・・」

僕は、うかつだ!これは疑う行為だぞ?!神の教えに背いている!

「ふふふ・・・ピートはどう思うワケ?あたしが雇われてやったと思う?」

エミさんは微笑んでいるけど、でも凄く哀しそうだ。
自嘲的な笑みってやつだろうか?
そんなエミさんを見て僕は・・・

―― いや ――

「・・・・・・違いますよね?だったらエミさんは、あんな表情をしてないでしょう?」

実は、ほんの少し嘘。僕はもしかしたらという思いを完全に抑える事が出来ていなかった。
だから、これは希望。僕がそれを望んでいると言う事。これは、エミさんにそんな事をして欲しく無いという僕の願望が言わせた台詞である。
それを知ってか知らずか、エミさんはさっきとは違う、安心した笑みで答えてくれた。

「ありがとう。そうね・・・・・・やったのはあたしじゃないわ。あたしは最初に雇われて、方法を聞かれて・・・さっき言った事を教えただけで依頼は受けなかったの。あたしとしては『だからこの呪いは解けない』って言いたかったんだけどね・・・・・・・・・今思えば失敗だったワケ。」
「そう・・・・・・だったんですか。」

酷い話だ。そしてそれ以上に哀しい話だ。

「そいつは別の呪い屋を雇って実行したワケ・・・・・・結果は・・・」

エミさんが背後の子供の霊に視線を向ける。

「・・・・・・成功な・・・ワケ。」

弱々しい台詞だ。背中越しで見えないエミさんの表情は、今はどういう風なんだろうか?

「で、その方法だとこんな風に、魂が括られて成仏出来なくなるワケ。だから、せめてもの罪滅ぼしに来たワケ・・・」

そう言うと、エミさんは何かの呪文を唱える。キリスト教のものではない複雑な真言を朗々と・・・

「さ、これで良いわ。アンタ・・・・・・せめてキチンと成仏するワケ。むしろ、あんな親との縁が早くに切れて良かったかも知れないワケ。今度は・・・」

それはきっとエミさんの本心からじゃない台詞。
さっきエミさんは罪滅ぼしと言った。それは多分、方法を教えてしまった事に対する罪の気持ちがあると言う事だと思う。
別にエミさんが悪かった訳じゃ無い。でも、きっと自分でそれに納得できていないのだろう。
そんな気持ちは良く理解出来る。

「良い親に恵まれるように祈ってあげるワケ・・・」

だから・・・

「僕も祈ります。キリスト教には輪廻という概念は無いけれど・・・」
「ピート・・・」

例えどうあれ、この子の魂が決して迷わないように・・・

「・・・・・・祝福を・・・」

僕は両手を組み、目を閉じてただそれを祈る。
神父でも無い僕には、死者にかける言葉なんて分からないから・・・
ただ、自分が今思う事を祈った。

・・・・・・・・・・・・


<後半に続く>

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