ザ・グレート・展開予測ショー

「母」性と「女」性〜K・I・N・U〜


投稿者名:ブラックキャット
投稿日時:(03/ 2/19)


日曜日。
世間一般では休日である日だが、GS稼業にその様なものは無い。
この日も、美神除霊事務所では所長の美神令子が先頭に立って仕事に励んでいる。
だが、この日は多少それまでの日と趣きを変えていた。
事務所に残っている人間は三人。
ソファに座るおキヌ。
その膝の上に寝転がる小さな影・・・・・・ひのめ。
そして、その二人をぼんやりと見つめる横島である。

沈黙。

事務所内に音は無い。
けれどそれは嫌なものではなく、三人とも安らいだ表情でゆったりとしていた。



「あう、あ」

おキヌの膝の上でゴロン。と真横を向くひのめ。
ふと、おキヌは何を思ったか、近くに置いてあった綿棒を手にとった。

「ひのめちゃん、ちょっと大人しくしててね」

軽くひのめの頭に触れ、固定してから綿棒で優しくひのめの耳を掃除するおキヌ。
端で見ている横島には、その姿がさながら聖母の様にも見え、触れてはならぬ神聖なものと無意識に考える傍ら、ちょっぴりひのめに羨望と嫉妬を覚えたりした。

「今度は反対。さ、こっち向いてね」

優しく。
ひのめを促して向きを変えさせるおキヌ。
ひのめも、おキヌに懐いているので素直に向きを入れ替える。

「くちゅん!」

向きを入れ替えた際、おキヌの、艶のあるサラサラの長い髪が小さな鼻を刺激したのか、ひのめが可愛らしいくしゃみをする。

「あ!ゴメンね、ひのめちゃん」

自分の髪が原因である事に気付いたおキヌは、少し慌てた風にひのめの顔元に落ちている自分の髪を退かす為、その長い髪を慣れた手付きで後ろへと掻き揚げる。
未だ端で見ているだけの横島は、彼女の髪を掻き揚げるという仕種に色香薫る「女」を感じ、今までの慈愛に満ちた聖母と言う印象と、そのギャップに思わず見惚れていた。

「・・・?横島さん?どうしたんですか?私の顔・・・何かついてます?」

ふっ、と、横島に見られている事に気付いたおキヌが顔を上げ、彼を見返す。
心なしその顔は薄っすらと赤く染まっていて。
彼女が彼を意識している事を如実に表している様でもあるが、如何せん彼はその事に気付け様筈も無い。

「いや、なんでもないよ」

と言って顔を逸らし、誤魔化してしまう。
もし彼がおキヌの顔を見ていたならば気付いたであろう。
その顔が心なし残念そうに沈んでいたのが。
だが、それもほんの一瞬の事で、直ぐに彼女は自分の膝の上に居るひのめの耳掃除を再開する。
そこにはやはり母性があり。
けれど一度感じてしまった「女」の印象はそうそう容易に消えてはくれず、彼は複雑な表情で彼女を見ることになる。



聖母たる彼女の膝の上で、何時しかひのめは眠りについていた。
ひのめを膝の上から下ろし、優しい表情で風邪を引かぬようにと小さなタオルケットをかけてやる。
横島もまたひのめを可愛がっているので優しい表情で見守り、ついで満足げに微笑むおキヌに視線を移す。
ニコニコと笑う彼女に今は「女」は感じられず。聖母の印象が再び濃くなっていた。
彼女に抱くそんな印象におもわずほっと息をつく横島。
彼女との付き合いが長いが為に、彼は変わる事を恐れた。



誰よりも幸せを望み。



誰よりも幸せを恐れる。



それが彼。



けれど。



周り始めた歯車は得てして止まらぬものである。

「あの、横島さん。・・・耳掃除・・・してあげましょうか?」
「ええっ!?」

顔を上げ、彼女が言った台詞に彼は心底驚く。
もじもじと手の先を合わせながら俯き気味に、上目遣いで彼を見る。

「その、ひのめちゃんに耳掃除してる時・・・なんだか羨ましそうに見てたから・・・」
「あうっ!そ、それは・・・」

いつもなら一も二も無く彼女の提案に飛びつく彼だが、この日だけは違った。
何より彼女の中に「女」を見てしまったから。
幸せを望みながら恐れる彼が無意識の内に躊躇させるのだ。

「さ、横島さん・・・どうぞ」

いつに無く積極的に彼女は迫る。
そんな彼女に対して彼は真剣に悩んだ。

そして自分の中の恐怖心と、断った時の彼女のことを考え・・・従う事に決めた・・・。



結局・・・誰よりも他人が傷つく事を恐れる何処までも優しい心を彼は持っているから。



ゴロン。とソファに寝転がり、ゆっくりと彼女の太股へと頭を乗せる。
ただそれだけなのに。

彼女の心臓はトクトクと壊れたメトロノームの様に速く鼓動を打ち。

彼の心臓は壊れた目覚ましの様に騒音を掻き鳴らす。

彼女は少し震える手で彼の耳を優しく掃除し。

彼は太股から薫る彼女の甘い匂いに耐えながらただこの時をすごす。



彼等の間にある時間は甘く、危険であった。

彼女の心は幸せのみに包まれ。

彼の心は幸せと恐怖に包まれる。



両の耳の掃除が終わった頃、いつしか彼の胸元にはひのめが抱きついていた。

体温の高いひのめを感じながら、彼は押し寄せる睡魔と闘っていた。

心に残る恐怖に襲いくる睡魔。

その二つと戦いながら・・・・・・「母」であり「女」である彼女に抱かれて・・・・・・眠りに落ちた。

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