ザ・グレート・展開予測ショー

不死の人(終)


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 2/18)

 「江口先生、あんた・・・」
 「ん?なにかね?・・・言葉のとおりさ。“これ”は失敗作だよ」
 江口は、指をパチンと鳴らした。そのとたん、床に倒れふした今日子の体は蒸気と化し、まったく跡も残さず、消えた。
 「江口さん。あんたはいったい、何者なんだ・・・?」
 険しさを増す横島の様子にも、江口はまったく頓着する気配は無かった。
 「私が何者かって?人間かどうかを聞いているのか?そうじゃなくて、私の本当の名前?・・・つまらないことを気にするんだな。それより、“あれ”がなんだったのかに興味はないのかね?」
 肩をすくめる江口に対し、横島は霊波刀を出現させた。
 「貴様、ふざけるなよ・・・」
 「きみは闘いを終えた後で気が立っているんだ。落ち着きたまえ。・・・せっかくだから、きみに私の研究結果を教えてあげよう。今まで聞いてくれるものが誰もいなかったからね」
 怒りで顔をふくれあげた横島をまったく気にせず、江口は語り始めた。まるで理学部の教授が、学生を前にして授業を進めるように。

 「まあ正直、失敗作の発表をするのは心苦しいものがある。私は不老不死の人間を創るにあたって、それなりの時間と労力をかけてきた。ま、先進的な研究が失敗に終わるのは、よくあることといえばよくあることなので、いちいち気にするべきではない。わかってはいるのだがね」
 横島は、イライラして口を挟んだ。
 「長ったらしい前置きはやめろ。俺が聞きたいのは、水原さんがなんだったのか、だ。貴様が創り出した魔族か?それとも人造人間か?」
 江口は、残念そうな笑顔を浮かべた。
 「いいセンだが、どちらも違う。彼女は人間だよ」
 「・・・どういうことだ」
 「私が彼女に初めて会ったのは、今から六十年ほど前のことだ。彼女は五百年生きていると言っていたが、あれは真っ赤なウソだ。これについては後で話す。・・・太平洋戦争がはじまった直後、彼女の家は強盗に襲われてね。彼女は目の前で両親を殺され、自身も瀕死の重傷を負った。そこへ偶然、私が通りがかったという訳だ」
 江口は、淡々とした調子で話し続けた。
 「彼女は、私に言った。死にたくない、犯人たちが許せない、なんとか助けてくれ、と。そこで、私は条件を出した。助けてやる、復讐に協力してやる、そのかわり、私の実験台になってくれないか。彼女は喜んで協力してくれた。私の壮大な実験に、人類の大きな夢に!!」
 横島は、腹の中にたまっていく苦さに、必死になって耐えていた。同時に、自分と江口の周囲に、ある異常な空気が漂いはじめたことに気付いた。
 「私は彼女の体内に、あるものを埋め込んだ。ドイツで手に入れた、死神の力を封じ込めたといわれる宝玉のかけらだ。残念ながら、名前はつけなかったがね。手始めに、彼女の家を襲った連中をつかまえて仮死状態にし、彼女に試させた。彼女は連中の魂を吸い込み、自分の命を長らえさせることに成功した。私は有頂天になった。実験は成功した、と。しかし・・・」
 「しかし、なんだ!?」
 「肉体より先に、精神が壊れ始めたのだ。彼女の精神は、吸い込んだ魂に影響され、次第に破綻していった。日によって、小心だったり、大胆だったり、極端に怒りっぽくなったり。きみも気付かなかったかね?五百年というのも、混乱した彼女の精神がつくりだした妄想だろう。きみに倒されなくても、いつか彼女は壊れていた。だから、きみは気にしなくていい」

 「・・・もういい。貴様を殺す」
 「ほう。殺す?私を?」
 「わからないと思っているのか?貴様は人間じゃない。魔族だろう。波動でわかる」
 江口は、心底あきれた、という表情をみせた。
 「見かけどおり、頭の悪い男だ。いい加減、察しがつくだろう」
 「黙れ!人の命を、なんだと思っているんだ!」
 「ふふん。こっちが全世界の人間に聞きたいぐらいだ」
 横島は右足を踏み出した。江口は口の中で呪文を唱えると、右手を一閃させた。次の瞬間、横島の体は激しい閃光に包まれた。身動きがとれない。
 「・・・私のように、人間をやめても構わないのなら、不老不死の体は簡単に手に入る。しかし、私はそれでは満足できないのだよ!」
 横島は右手を無理やりに動かした。文殊を二つ取り出し、それぞれ『破』『呪』の文字を込めて一気に発動させ、江口の結界を破った。
 「うわっ!?」
 驚きの声を上げた江口に向かって、横島は刺突の姿勢のまま爆直した。霊波刀の切っ先が江口の胸にせまる。しかし、剣先はむなしく空を突いた。横島は、あわてて振り向いた。前にいたはずの江口が、一瞬で横島の背後にいる。
 (瞬間移動か!)
 「バカなりに力はあるな。みくびってすまない」
 横島は次の文殊を握り締め、江口をにらみつけた。
 「逃げられると思うなよ」
 「そう怖い顔をするなよ。じゃあ、こうすれば、どうなるかな・・・」
 江口は、左手を真横にあげた。手のひらに霊気を集中させる。
 (こいつ、入院患者を巻き添えにする気か!)
 その部屋の入室者プレートを見て、横島はギョっとした。
 『福島 蛍子』
 「待て・・・待て!」
 「そう・・・それでいい」
 江口は、唇をかみしめた横島を見て、ニヤリと笑った。その体が徐々にうすくなっていく。
 「また会おう、横島君・・・今度はディナーにでも招待したいものだな。くっくっく、はっはっは・・・・・・」

 「このバカ!早く言いなさいよ、そういうことは!」
 「は、はあ、すみません・・・」
 美神の怒声を浴びながら、横島は部屋を片付けていた。
 今日、横島は退院する。たった二泊三日の入院だった。
 迎えにきた美神とおキヌに、横島はすべての事情を打ち明けた。
 「まったく、相手の特徴もつかめてないのに一騎打ちしてどうすんのよ!?あんただけが入院してるわけじゃないのよ!あやうく大惨事になるところだったじゃないの!」
 「ええ、ほんと、すみません・・・」
 病院は大騒ぎになった。真相を知った病院側と遺族側とで、はげしいやりとりが繰り広げられているという。GS協会でも、横島の行動にたいし、注意すべきか、褒めるべきかで話し合いが行われている。
 横島にたいしては、美神が最初に処置をとった。
 「約束どおり、入院費は出してあげる。でも、しばらく減俸よ」
 「しばらくって、どのくらいです?」
 「・・・そんなもん、あたしの気分しだいよ」
 黙りこんだ横島に、おキヌがめずらしく厳しい顔をして、言った。
 「やっぱり、早めに話してほしかったです」
 「・・・そうだよな。ゴメン」
 「・・・本当に、横島さんが無事で良かった」
 おキヌは、ようやく微笑を浮かべた。複雑な微笑を。

 「あ、あの、横島さん!」
 病院の門をでるところで、横島は声をかけられた。
 「蛍子ちゃん・・・」
 「退院しちゃうの・・・?」
 彼女は、大きな目に涙をためて、横島の顔を見上げている。横島は蛍子と同じ目線になるように、片ひざをついた。
 「ああ、まあね・・・」
 「・・・寂しくなっちゃうね」
 そうか。この子は、いつもこうして見送ってばかりいたんだな。横島は必死になって言葉を探した。
 「あのな。・・・困ったことがあったら、いつでも言いな。すぐに助けにきてあげるから」
 「うん!・・・とりあえず、昨晩はありがとう」
 それだけ言うと、蛍子は病院のなかにもどっていった。
 
 ・・・気付いていたのか。

 横島は、しばらくぼう然とした。そのまま病院のほうを眺めていたが、やがて美神とおキヌの待つ車に乗り込んだ。
 
 今度こそ、確実に、奴の息の根を止めてやる。

 

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