ザ・グレート・展開予測ショー

時給。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 2/18)

その一言に横島は、くらりと、目が回るのを自覚した。
声自体は艶やかなアルトの、聞くだけでもうっとりとしそうな美声なのに、その声音から紡がれる言葉は、
「アンタ給料二ヶ月間減給ね」
である。
目の前には、雇い主さまであろう美神。
いつものメンバーが気の毒そーな瞳で見ているが、誰も助け船を出そうとはしない。
そりゃそうだろう。
この女性に、逆らえるだけの勇気なぞめったなことでは持てる訳ない。
(特に金銭面に関して、言えるわけなどない)
しかも給料一ヶ月カットとかならともかく、減給なのだ。
しかも255円の時代からすると(というか較べるのもなんだが)格段に給料があがってるのだ。今更すこしくらいの減給、あの頃に較べればというものであろう。
しかも減給の理由が間違って吸引の札をいつも使ってる奴より、二割増高価な札を使ってしまったということである。
言うなれば、横島のミスである。
ここは大人しく引き下がり、二ヶ月間なんとかやりくりするのが筋(なんの?)であろう。


だが、である。
だが横島にははいそうですか?と引けない理由があった。
理由は簡単。
今月はちょっとばっかし無駄つかいをしてしまったのである。
(しかも買ったのが通販のこの上もなく怪しげな『女の子にもてるよーになるコロン』なるものだったりする。ちなみに定価9800円である)
ので、ここでの減給はかなり痛い。
というか、他にも、もろもろの支払いが迫っており生きていけるかどーかも怪しい。
横島は、無い勇気をふりしぼり、さながら滝壷へ身投げするかのような悲壮さで
「そこを…なんとかなりませんかね?」
と言ってみた。
勇気をふりしぼったにしては、ひどく情けない声音である。
が、その言葉に返ってきたのは怒声でわなく、にっこしと艶やかな笑顔であった。
恐い。
はっきしいって恐い。
表情だけでいえばこの上も無く美しいのだが、滲み出るオーラがおどろおどろしい。
横島以外が思わず三メートル引いた。
「なぁに?なんか言った?」
コメカミをひくひく引きつらせながら美神。
横島は全身だらだらと汗を流しながらも、ここから逃げ出したい衝動と必至に闘う。
ここで引いたら負けだ。
明日の白米ともお別れだ!
並々ならぬ決意をもって横島は、開くのを拒否しそーなくちびるを開き。
「せめて、今月だけでも給料なんとかならないですかっ!」
ともうコングの変わりに、後戻りできない言葉を吐いた。

かーんっ

「なにっ言ってんの!!!アンタがミスしたんでしょーがっ!!それくらいの責任とりなさいよっ」
だんっとデスクに拳をたたきつけ美神。
「そんなの、美神さんしょっちゅうしてるじゃないですかっなんで俺のときだけーっ」
横島も負けてない。
うんうんと頷くおきぬ。
「ワタシはいいのっ!」
きっぱしはっきしと美神。
ええっとびっくりたようにシロ。
いいでござるか?とタマモに聞いているようだ。
タマモは呆れたように肩をすくめる。
「じゃあ俺だっていいじゃないですかっ」
ただでさえ給料すくなにのに…と言外で語っている事明白である。
「駄目にきまってるでしょーがっ」
だがその訴えを一刀両断するかのように美神。
「いつも文珠とかただでもってくくせにーっ!」
すこしくらい、いいじゃないですかと横島。
「そんなん結局あんたが使うから同じでしょうが!」
「同じじゃないです!」
「同じでしょーがっ!!」
ぜえぜえと両者あい譲らず。
びりびりと事務所が震えるかのような大音量で言い合っている。
が、ここで美神はすっと瞳を眇め、最終兵器を持ち出した。
それ即ち
「時給下げるわよ」
である。
この攻撃には横島も止まる。
と、いうかいまだバイトの身分である事自体おかしいのだが。
哀れなことに横島はそれには気付いてない。
「………スイマセンデシタ」

「わかればよろしい」


以降二ヶ月間、横島は金銭的に地獄をみることになる。
そして、ぜったいに仕事のミスはやめようと硬く心に誓った。

追伸 
その二ヶ月間、どこぞの鬼所長が、おきぬに金銭を渡しおさんどんを頼んだとか頼んでないとか。

「もう、美神さんたら素直じゃないんですから」

おわり

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