ザ・グレート・展開予測ショー

冬色の空 〜後編〜


投稿者名:猫姫
投稿日時:(03/ 2/17)




 ずっと、強くなりたいと思っていた。先生の隣に並んで歩けるように。いつも背中を見ながらついて行って、いつも先生に守られて。そんなのじゃ、いけないと思った。思っていた。

 違う。違うんだ。










 −−−『冬色の空 〜後編〜』−−−










「あ、横島。バカ犬いたんだー」
「さすが横島さんですね」
「…ったく、世話かけさせて」

 ふいに聞こえて来た、声。

「おキヌどのにタマモ……美神どのまで……」

 おキヌちゃんはいつもの笑顔で。
 タマモは、ちょっと呆れたような顔で。でも、どことなくホッとしているような表情で。
 美神さんは、出不精の彼女らしく、面倒くさそうで不機嫌そうで。それなのに、なぜかなんとなく笑っているようにも見えて。

 全員、防寒具をしっかりと着込んで雪まみれ。この雪の中、屋外でなにをしていたかは、一目瞭然。

 耳元で、先生がそっとささやく。

「これでも『帰れないでござる』か、シロ?」

 ――あ。

「まったく、あの程度の説教で、いちいち家出されたんじゃ………って、ちょっと横島クン!? シロ、泣いてんじゃないのよ!?」
「え? いや、その、これは………」

 ――なんて。

「えっと、横島さん………その…泣くまで叱らなくても……」
「いや、だ、だから……確かに叩いたりはしたけど、これは……」

 ――なんて自分は、バカなんだろう。

「叩いたぁ? …あのねぇ、いくらコイツがバカ犬だからって、叩いて躾ることはないんじゃない!?」
「…う! あぅ、だからその………」

 ――なんて、わからず屋だったんだろう。

 美神さんに怒られたら反省して。おキヌちゃんに慰められたら感謝して。タマモのちょっかいには張り合って。

 それで、良かったのに。それを、許されてたのに。

 溢れるほどに、恵まれてたのに。

 ――子供でも、良かったんだ。
 ――ゆっくりと、学んでいけばいいんだ。

 気づいてしまえば、それは簡単なことで。
 そんな簡単なことがわからなかった自分に呆れて。
 でも、気づけたことが、なにより嬉しくて。

 嬉しくて、嬉しすぎて………だから、三人にもみくちゃにされてる先生に、飛びついて抱き締めた。

「せんせー♪」
「うわわっ!? シ、シロ?」

 そのまま、先生の胸にほっぺたをすりよせる。「あ゙ー!」なんて聞こえてきたのは誰の声だろう。でも気にしない。だって、子供だもん。

 両腕でぎゅーっとしがみついて、うっとりするような匂いとぬくもりに身を任せる。

 ……うん。
 大丈夫。
 もう、大丈夫。

 だって――

「くぅーん♪ せーんせ♪」

 帰り道を、見つけたから。思い出したから。










「――あ、横島」
「えっ?」

 タマモのひと言に、想い出の中に沈んでいた意識が、急に浮かび上がってくる。
 窓の外を見下ろすと、ちょうど先生が事務所の門をくぐったところだった。
 見下ろすシロとタマモに気づいて、手を振ってくれる。

「すぐ行くでござるよー。待っててくださいでござるー」

 慌ててタンスに飛びついて、わたわたとお着替え。散歩の仕度。

「ふふーん♪ わざわざアイツから迎えに来させるなんて、アンタもやるじゃなーい♪」

 うりうり、とタマモに肘で突つかれる。
 キュウ〜ン、と照れ照れになるシロ。

『あの時のセリフは、みんなには内緒にしてくれ』
 そんな言葉と共に、先生の方から提示して来た条件。
 学校も仕事も用事も無い日には、先生の方から散歩の迎えに来てくれる。――そんな、ちょっとした約束。

(そんなことしなくても、誰かに言ったりはしないでござるけど…)

 あのときの言葉は、シロの宝物。
 大切に箱に仕舞って、誰にも見せない。
 宝物、だから。

「ほら、さっさと行ってあげたら? 待ってるわよ、横島」
「は、そーでござった! せんせー!」

 どたばたどたばた。

 そんな感じで部屋を出て行く背中を見つめながら、

「…もう、いちいち思い出してんじゃないわよ、バカ犬」

 タマモは呟いた。

「シロを心配して雪の中を駆けずり回ったなんて、一生の不覚だったわ……」

 その見送る視線はやわらかくて、ほっぺたはほんのりと赤かったけれど……。










 今日はどこへ行こうかな?
 まずはいつもの公園まで行って。ジィさんに挨拶して。
 それから、それから……。

 うん、どこにだって行けるよね。




















「おー、来たな」

 ――これはシロの、想い出のお話。

「せんせー、お待たせでござるー!」

 ――大好きな雪の日が、もっともっと大好きになった。

「よし、行くか」

 ――そんな、ある冬の日の。

「くぅーん♪」

 ――想い出の中のお話。





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