ザ・グレート・展開予測ショー

不死の人(2)


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 2/17)

 病室にはいろいろな人が見舞いに来た。美神の母美智恵とひのめ、ピート、タイガー、西条、小鳩と貧乏神、机妖怪の愛子をはじめとした高校時代のクラスメートといった面々である。
 しかし、横島は来てくれた人々に、まともな反応を返すことができなかった。昨夜の光景が気になっていたからである。
 今日子の態度に、特におかしなところはみられなかった。横島に目撃されたことに気付いてないのだろうか。横島も、一応の準備はしていたが、巡回は無事に終わった。
 最後の見舞い客として、おキヌが来た。今、ベッドのそばの椅子に座り、今日の学校での出来事を話してくれている。
 横島は、自分の考えにふけっていた。
 「・・・横島さん!」
 突然つよい調子で呼びかけられ、横島は飛び上がった。
 「あ、ああ、なに?」
 「もう、話をしていても、全然聞いてくれないんだから。・・・あ、もしかして、足がいたむんですか?」
 「いや、違うよ。ゴメンゴメン」
 時刻は三時をまわっている。横島は窓の外を見た。雲がすこしあるが、天気はよかった。
 「おキヌちゃん、時間ある?ちょっと散歩でもしないか?」
 「ええ、いいですけど。足は大丈夫なんですか?」
 「ああ、大丈夫。行こう」

 横島は不慣れな松葉杖をつきながら、病院の中庭にでた。足はすでに治してしまっているので、杖はかえって邪魔だったが、仕方ない。おキヌが横島の体を支えながら歩いてくれている。肘に、おキヌの胸の柔らかさが感じられる。普段なら有頂天になるところだが、昨夜のことが頭から離れない。
 もし、今日子がなにか仕掛けてくれば、まずはおキヌの身を守らなければならない。いっそ事情を話してしまおうか。しかし、どう説明すればいいのか。今日子と患者の死には、どんな関係があるのか。退治するにしても、おキヌの力が役に立つとは思えない。美神は金がからまないと動かない。・・・・・・
 「横島さん」
 「ん・・・、ん?なに?」
 「やっぱり痛みます?すごく緊張してるもの」
 「いや、そうじゃないんだけど。・・・」
 おキヌは、横島の顔を怪訝そうにのぞきこんだ。横島は心の中で舌打ちした。
 やっぱり、自分でなんとかしなきゃな。

 「あ、あの、・・・ちょっといいですか?」
 横島とおキヌは足をとめた。ベンチに、小さな女の子が座っている。
 「ん?どうしたの?」
 おキヌが腰をかがめて、その女の子に問いかけた。
 「あの、すこしでいいんです。わたしと、お話ししてもらえませんか・・・?」
 「うん、いいわよ。横島さんも一緒にどうです?」
 「ああ、構わないけど。いいのかい?」
 その女の子はうれしそうに答えた。
 「ええ!その方がいいです!」

 彼女は自分の身の上話をした。体が丈夫ではなく、入退院を繰り返していること。同じ年頃の友達がいないこと。両親が共働きのうえ、自分は引っ込み思案な性格で、話し相手がすくないこと。
 「ここに座って、最初に通りがかった人に、思い切って声をかけてみよう。そう決めていたんです。・・・話し相手になってもらえて、すごくうれしいです」
 「話くらい、いつでもしてあげるよ」
 「・・・本当ですか?」
 「ああ、俺もタイクツしてるし」
 「・・・よかったぁ」
 少女は、静かな微笑を浮かべた。横島もうれしくなって、
 「俺ね、横島忠夫っていうんだ。きみは?」
 「ふくしまけいこ、っていいます」
 「ふうん。けいこちゃんか」
 「はい。蛍の子って書くんです」
 横島とおキヌは、おもわず彼女の顔を見直した。しかし、すぐに苦笑をうかべた。
 たしかにかわいいけど、全然似てねえや。
 「・・・きれいな名前だね」
 「ありがとう。・・・そう言われたの、初めてです」 
 
 「そろそろ戻ります。今日はありがとう」
 「どういたしまして。またな」
 彼女は横島とおキヌに向かって、ためらいがちに手を振った。二人も手を振って応えた。
 「はやく元気になれるといいですね」
 「ああ、そうだな」
 二人の穏やかな雰囲気を、突然の怒声が破った。
 「横島さん!こんなところで、なにをしてるんです!」
 二人は、驚いて振り向いた。今日子が、血相を変えて立っていた。
 「うろうろしてないで、さっさと病室に戻りなさい!」
 一瞬、横島は、昨日のことがバレたのか、と思った。しかし、どうも様子が違う。
 「・・・ああ、すみません」
 横島は立ち上がった。おキヌが支えようとするのをみて、今日子は再び声を張り上げた。
 「あなた!ケガ人にさわってはいけません!」
 「え?・・・でも」
 「わたしのいうことが聞けないの!?」
 オロオロするおキヌを見て、横島は声をかけた。
 「大丈夫だよ、おキヌちゃん」
 「は、はあ・・・」
 「早くしなさい!」
 「・・・へいへい」
 今日子と、ひきたてられるように病室に戻っていく横島を見送りながら、おキヌは首をかしげた。
 (なんか水原さん、昨日と雰囲気がちがうなあ)

 夜。午前二時をまわった。
 横島は意識を集中し、霊力を抑えながら、病院内を歩き回った。ギプスは外していた。
 もう一度、今日子を見つけ出す。現場を押さえ、事情を確かめる。そして、もし彼女が妖怪の類であったなら、倒すしかない。
 
 三十分ほどたった頃、横島は足を止めた。
 (あの時と同じ雰囲気だ。いたぞ!)
 この上の階。・・・二時の方向!
 横島は、慎重に目的の場所に向かった。昨夜と同じく、裸足である。
 (この部屋だ)
 ついに、目的の場所に着いた。静寂と、張り詰めた空気がその場を支配している。
 音を立てないように気をつけながら、横島はドアを開けて、部屋の中の様子をうかがった。
 今日子が、昨夜とまったく同じ姿勢で、患者の顔を覗き込んでいる。
 彼女があの白い気体を吸い込んだとき、声をかける。それまで待つ。
 横島は息を詰め、そのときを待った。・・・・・・
 「おい、きみ。なにをしているんだね」
 突然の声に、横島は飛び上がった。
 「江口先生・・・!」
 「・・・横島君か?きみ、ギプスはどうしたんだ」
 横島は、あわてて部屋の中に視線を戻した。今日子は、横島が見ていることに気付き、常人とは思えないほどの速さで、横島に襲いかかろうとしていた。
 横島はとっさに後ろに飛びすさり、“栄光の手”を発現させ、叫んだ。
 「江口先生!逃げろ!」
 

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