ザ・グレート・展開予測ショー

わたしはマリア


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 2/17)



 〜わたしはマリア〜


 マイ・マスターがわたしを最初に作り始めたのは、まだマスターが若かった頃と言います。まだその頃は、私は『意識』や『魂』と言う物を持ち得ていなかったそうです。

「クソ!!」

 マスターが工具を床に叩きつけました。わたしは骨組みのまま、台に磔になった状態だったと言います。そしてマスターは辺りをうろうろと廻っていたと言います。なぜマスターがうろうろしていたかは『意識』を持たない私には分からなかったそうです。

「………根本的に金が足りん!!おまけに特殊な部品を作る技術が今の時代にない…。自分で部品を作るにしても、その基本的技術や道具を揃えなければならんし……。天才であるこの私が早く生まれすぎたのも、問題か……。う〜む……。」

「その類い希なる英知、わが領主のために役に立ててみる気はないか?」
「!?」

 その時、見知らぬ男がマスターの前に現れたと言います。マスターはその突然現れた男の要請を聞くと渋い顔を見せて考え込みましたが、支払われる大金の魅力に負け、シブシブと引き受けたそうでした。しかし、それはそう上手くはいかなかったそうです……。

「マ・ズ・イ……!!あのバカ領主の倉庫から金をこっそり拝借してたのがバレてしまった…。おまけにキリシタンじゃないのも……。せっかく研究も軌道に乗り始めたというのに……。しかし残念だ、せっかくお前を作れそうだったのになぁ……って、感慨に耽ってるじゃない!急いで逃げる荷造りを…。」

 ……ここからマスターの放浪生活が始まったのでした。都市、地方を巡り、果ては雪の降り積もる極寒の地、はたまた灼熱の太陽が照りつける砂漠。マスターはありとあらゆる地を訪れ、見聞や知識などを広げていったと聞きます。わたしももちろんその都度、部品や改良が加えれられていったそうです。そして何十年かが経ち、マスターは再び故郷の地方に戻ってきたと言います。今度は良識のある領主がマスターを快く迎えてくれたようでした。有力な資金源を得たマスターは心おきなく、自分の研究を行うことが可能になったと言います。

「フゥ……、後は動力を稼動させれば、成功だ……。」
「カオス様ぁ〜〜〜っ……!!」
「ひ、姫!?何故このような、私がいるへんぴなところへと……?」
「もぅ、とぼけるでない!!私の誕生日に面白い物を見せてくれると言うたではないか?今日はその誕生日じゃ!!」
「あぁ、そうでしたな。それならたった今、完成したところですぞ!!ちょうどいい、姫にこのスイッチを押して頂きましょう!!」
「私がか?あいわかった、ではこれを押せばいいのだな……?(カチッ、ブゥゥゥン……)」
「(金属で出来た犬型のロボが動き出す)やった、大成功だ!!」
「オォ!?き、金属の犬が本物のように動いておる…!一体これは……、魔法か……?」
「いえいえ、姫。これはれっきとしたこの天才である私の理論に基づいて作り上げたものです。」
「す、凄いぞ、カオス様!!これだけでも世間をアッと言わせることが出来るぞ!?」
「フフフ、これで終わるわけではございません。姫。私にはまだ大きな目標がございます!!ご覧に入れましょう、これが私の目指すものです!!」

 そう言って、マスターはわたしを彼女に見せたと聞きます。わたしはマスターがわたしを作るために作った機械に囲まれ、その中央に置かれていたと言います。

「これは……!?」
「人造人間です。まだ未完成な箇所が多いですが……。」
「人造人間!!カオス様はどこまで偉大なのだ…。神の御技をその手で成し遂げようとは……。これはいつ完成するのじゃ?」
「さぁ……、何年、何十年かかるやも知りません。しかし絶対に完成させるのが私の目標です。」
「ウム、期待しておるぞ!!(すると、彼女の足下に先程の犬がすり寄ってくる。)なんじゃ、お主。構って欲しいのか?」
「その犬は本物の犬とほぼ同一の行動をする事が出来ます。よろしければ、姫に進呈いたしましょう。」
「!! 本当か?で、コイツの名は?」
「それがまだ名が付いてないのですよ、姫が名付け親になってみるのはどうです?」
「そうか、では……。…バロン、そう、お前の名はバロンだ。」



 そんなことがありながら、また何年かが過ぎたと言います。わたしの身体も徐々に完成に近づいていったと言います。しかし、マスターは途中でどこかへと出かけていきました。何が目的なのかはわたしの知りうるところではなかったと聞きます。そして何ヶ月かが経ち、わたしが再び日の目を見る事になった時が来たと言います。

「あっ!!マ…マリアか!?」
「――わたしはまだ名前を付けておらんがな。人造人間試作Mー666号だ!700年先まで稼動していたとは嬉しいぞ!!」

 わたしを見て、見慣れない服装の二人がそう言ったと聞きます。


「マ・リ・ア」………?


 その言葉を聞いた時、わたしの中で何かが芽生えたと言います。それが何なのかは分かりません。ただ、その言葉によって身体の中でなにかの準備が整っていったように感じたと言います。そしてわたしは、また闇の中でやすらかに眠ることを続けたと言います。


 そして再び数十年の時が流れ、わたしの身体はほぼ完成に近づいていたと言います。しかし、マスターはここに至って、わたしの製作に行き詰まりを見せたと言います。マスターはわたしが完成しないことに憤りを感じ、苦しんだと言います。時には苛立ち、時には物に当たったり、落ち込んだりもしました。しかし、マスターはそれでもわたしを完成させようと、尽力を尽くしたと言います。しかし……、




「なにぃ?貴様、私をからかっているのか?」
「いえ、ほ、本当のことです。からかうなんてそんな不謹慎なことは……。」
「………そうか……、姫が………」

 ……その日、教会のベルは悲しみに包まれたまま、鳴り終えることはなかったと聞きます。黒い服の行列が街の外へと続き、教会のベルが強く響いていたと言います。その日以来、マスターはわたしを作る事を止めたと言います。がっかりと肩を落とし、顔を手で覆い泣き崩れ、悲しみに暮れたマスターは酒に入り浸るようになっていったと言います。


 マスター、何を泣いているのですか?私には分かりません。
 マスター、何に絶望しているのですか?私には分かりません。
 マスター、何があなたを悲しませているのですか?私には分かりません。
 マスター、なんで酒に救いを求めるのですか?私には分かりません。
 マスター、何故、私を作らないのですか?私には分かりません。
 

 ……そんなわたしの問いかけにマスターが答えるわけもなく、ただ時だけが過ぎ去っていったと言います。そして1ヶ月が経った頃でしょうか、突然マスターは再びわたしを作り始めたのです。何が原因だったのかは分かりませんが、その時のマスターは何かに取り憑かれたようだったと言います。わたしは、服を着て、アンテナが付けられた頭部には、人工の皮膚をかぶせ、髪の毛を植え、瞳が入り、顔が形作られたと言います。それはあたかも亡くなった『彼女』に似ていたと聞きます。マスターは寝るヒマを惜しんで、一心不乱にわたしを作り上げたと言います。そして、遂にマスターは最後の仕上げに取り掛かったと言います。

「呪場はこれでよし…………と。さぁ、上手くいってくれよぉ……?」

 何やら地面に魔法文字を円上に描き、その場にある横長い台の上へとわたしを置いたマスターは、咳払いをすると、呪文と唱え始めたと言います。

『万物は流転し、生は死、有は無に帰すものなり!!ならば………』 

 マスターが呪文を唱えてゆくと、わたしは胸の中で何かが形成されてゆくのを感じたと言います。それは温かくもあり、また無機質な物であったとも言います。そしてわたしはこの時、『魂』を手に入れたと言います。そしてマスターは呪文を唱え終えると、わたしが動き出すのをじっと見ていました。『魂』を持ったわたしは無意識にその台から静かに立ち上がったと言います。

「おぉ…………、見事に上手くいったみたいだな……。(やりましたぞ、姫…!)お前の名は今日から………、………マリア……そう、マリアだ!!」

 マ・リ・ア!!その瞬間、その言葉は全身にほど走り、頭部のコンピュータを支配したと言います。それまで単調であった解析回路が「マリア」と言う言葉と共に、複雑に入り組み、何層も折り重なっていったと言います。そしてわたしは『意識』を持ち得たのです……。

「イエス・ドクター・カオス。マイ・コードネームは・マリアです。」

























 そして……、

「ドクター・カオス!マリア姫から・伝言が・あります!」
「な……、なんじゃ!?」
「『心は・いつも・あなたと・共に』――それだけです・ドクター・カオス!」











 イエス・心は・いつも・あなたと・共に……、エ・イ・エ・ン・ニ……。


 〜Fin〜

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