その後の姉妹たち
投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 2/16)
「久しぶりね、ベスパ」
「そっちこそ元気かい……って、言うまでもなさそうだね」
ベスパは軍隊の長期休暇を利用して、人間界に住んでいるルシオラを訪ねていた。
目立たないように地味な服装をしていたが、顔立ちが整っておりスタイルも抜群のベスパは、周囲の視線を強く集めていた。
一方のルシオラも目立たない普段着である。
表情も少しふっくらとしており、昔の思いつめた表情や今にも消えてしまいそうな儚げな様子は姿を潜めていた。
うっすらと浮かべた微笑には、彼女の優しさと慈愛を感じさせる.
とりわけルシオラの腕の中にいる一人の赤ん坊が、彼女を見る人に強い印象を与えていた。
夫からもよく愛され、幸せいっぱいの若奥様に見える。
彼女が一時は人類を恐怖のどん底に陥れた魔族たちの片割れであったとは、事情を知る人以外には信じられないであろう。
「名前、なんていったっけ?」
「蛍華(けいか)よ」
「あんたが娘を生んだって話はパピリオから聞いていたけど、こうして目の当たりにするとまた感じが違うもんだね」
蛍華は、ルシオラの腕の中ですやすやと眠っている。
「ちょっと抱いていいかな?」
「首がまだ座っていないから、抱く時に気をつけてね」
ベスパはルシオラから赤ん坊を受け取ると、注意深く抱きかかえた。
しばらくじっと見つめていたが、やがて指で赤ん坊の頬をつつき始め、その柔らかい肌の感触を楽しむ。
「いやだ、すごく可愛いんだね。赤ん坊を育てるってどんな感じ?」
「もうすごく大変なのよ。夜昼かまわずに数時間おきに目が覚めて泣くのよ。そのたびにおしめを替えたり、乳を与えたりするの。子供が寝入った時だけこっちも休息できるのね」
「ヨコシマは手伝わないの?」
「家にいる時は手伝ってくれるんだけど、あの人も仕事があるし、パピは全然役にたたないしね。すぐ外に遊びにいって逃げちゃうんだから!」
「でも、それがすごく幸せなのって顔をしているよ!」
ベスパがルシオラをからかう。
ルシオラも軽く舌を出して笑った。
「まぁ、そうなんだけどね。忙しいと言っているんだけど、子供の世話から解放された合間にすごく充実した生活をしているって実感がするの」
ルシオラとベスパでは顔も体も性格も対照的であるが、何故か昔からお互いに相手を深く理解し合っていた。
またルシオラの方も、ベスパの胸の内を思ってか、少し表情を暗くする。
「ごめんね、ベスパの気持ちを考えないで、自分の話ばかりしてしまって……」
「いいのさ。姉さんが自分で自分の道を選んだように、私も自分でこういう生き方を選んだんだから……」
そういうベスパの表情からは、まだ吹っ切れていない何かが感じられた。
「……アシュ様のことは、まだ忘れらないの?」
「忘れられない、というより忘れたくないんだ。あの時の自分が一番生きているという実感があったから……。姉さんとは敵どうしになったけどね」
「ごめんなさい。アシュ様のことを忘れて欲しいなんて、ベスパにはできないことよね……」
「姉さん」
「なに?」
「私たちはアシュ様に創られたんだけれど、私たちはアシュ様のことをほとんど知らなかった。そう思わない?」
「言われてみればそうね……」
「アシュ様は死にたがっていた。それであの戦いを起こして死んだはずなんだけれど、私はアシュ様が完全に滅亡したとはとうてい思えないんだ……」
「それどういうこと?」
「アシュ様は神・魔界のバランスを取るために、強制的に復活すると言っていた。そういう定めのアシュ様が、神・魔界のデタント派の意向だけで完全に滅びさるなんて、本当にありえるのかなって……」
「つまり、アシュ様は完全に存在が消去されたのではなくて、どこかで復活するはずだと考えているのね!」
「さすが姉さん、頭の回転が速いね」
「ただその仮説は納得できるわ。神・魔界の最高指導者とて、造物主ではない以上、この世界の法則は覆せない。しかし復活直後のアシュ様ならば力が弱いから、神・魔界の相方で合意が取れればその段階で成長と活動を停止させることができる……」
「たぶんそんなところだろうと踏んでいるのさ」
「あなた……、アシュ様をもう一度よみがえらせたいの?」
ルシオラの目が一瞬鋭く光る。
「そんな恐い顔をしなくても大丈夫……。アシュ様は転生を望まなかった。そのアシュ様の願いに背く気持ちは毛頭ないよ。ただ生きていれば、いつか必ずアシュ様にまた会える。そう思って日々を暮らしているのさ」
「ごめんね、疑ったりして……。ただ気の遠くなるような道のりね」
「正直言って、時々気が滅入ってくるよ」
「ときどき遊びにいらっしゃい。私とパピリオはあなたの姉妹なんだから……。ヨコシマにもよく話をしておくから」
「まぁ、あんたとヨコシマのバカップルぶりを見るのも、いい気分転換になるしね」
「バカだけ余計よ!」
ルシオラがくすくすと笑った。
「今度はバカップルに加えてバカ親ぶりが見れるから、ますます飽きないね! まぁあんたはいい顔しているけど、ヨコシマなんかさぞかしバカ親丸だしって顔をしてるんじゃないかな」
「今晩は泊まっていきなさいよ。夜にはヨコシマも戻ってくるし、パピリオも妙神山から帰ってくるわ」
「じゃ、ちょっと用事を済ませてから行くから」
その日の夕方、太平洋上にベスパの姿があった。
究極の魔体が破壊された場所で、ベスパが海に花束を投じる。
(アシュ様……、またお会いできる日まで、安らかに眠っていてください……)
夕陽が水平線の下に沈むまで、ベスパはその場所を動かなかった。
(完)
こんにちは。
去年の年末にここの掲示板を見つけ、皆様の作品を読ませていただいていました。
もっとも量が多すぎて、1/4も読んでいない状況なのですが(汗)
普段は某HPの掲示板で、ルシオラや美神がヒロインのSSを書いています。(ハンドル名は別の名前です)
しかし私は、このHPでいうところのルシオラーらしく(しかもかなり重症 ;^^)
同志の方々に私の作品を読んでいただきたいと思い、今回投稿しました。
ルシオラが復活して横島と結婚したという、安直な設定です。
なんでルシオラが復活したかという理由については、深く突っ込まないでください。(;^^)
突っ込まれると、ルシオラ復活の作品を書かなくてはいけなくなりそうなので。
(某HPに連載中の作品が二つあって、これ以上はとても増やせない状況です)
また気がむいたら、作品を投稿したいと思います。
では。
今までの
コメント:
- 初めまして、紫です。僕も重症ルシオラーですよ。(笑)
良いですねー良いですねー良いですねー良い(以下略)
幸せ奥様のルシオラがっ!!最高です♪
・・・ベスパがなんとも言えませんでした。しんみり。 (紫)
- むぅ。文体からしますと、もしかして(以下略)。湖畔のスナフキンさん、初めまして♪ こちらはkitchensink(キッチンシンク)と申します。以後よろしくおねがいします! もしルシオラが生きていたら、との設定の中で会った二人の姉妹ですが、それぞれが完全とまではいかなくとも幸せで落ち着いた雰囲気になっている点が良かったと思います。ベスパにしても、「アシュにいつかは会えるかもしれない」と考えながら元気にしているあたりが気丈な彼女「らしい」と思いました。投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- おおおぉぉぉ・・・・同志よ!!(挨拶)
ルシオラーとは重症だからこそルシオラーなのですが。(謎)
と言うわけでこんにちは!初めまして!ハルカです!!
母親としてのルシオラ・・・・・ステキです♪
妻としてのルシオラ・・・・・・最高です♪
でもベスパにも幸せになって欲しいですね。
それでは某HPでルシオラの布教活動頑張ってくださいまし。
私もここで布教活動を続けてゆきますゆえ。
また投稿待ってます♪ (ハルカ)
- 確かに、原作でもベスパが横島を嫌う理由ってのは希薄なんですよね。
嫌い方も根が浅いというか。
ルシオラが死んだ原因は、明らかにベスパにも、横島にもありますし。
そしてアシュタロスが死んだ原因は、横島にもあり、手助けしたベスパにもある。
微妙な関係ですが、ルシオラの生死はどうあれ、乗り越えればこういう雰囲気かも知れないですね。 (NAVA)
- ルシオラと横島の幸せは二人で一緒にいる事で成り立つ物ですけど、べスパは自分の想い人の気持ちを抑えてでも相手の死を認めなくてはいけなかったのですよね。
彼女はルシオラの幸せそうな姿を見て、そこに叶わなかった理想を見たりしたのでしょうか・・・
それでもアシュタロスを待つという強い意思を持つことができているべスパにじ〜んとしました。 (志狗)
- 何作かヒロインを変えてSSを書いてことがあるのですが、一番相性がいいのはルシオラでした。
美神とかをヒロインにもってくると、『よっしゃ、いっちょ書いたるでー』って気合を入れないと書けないのですが、ルシオラをヒロインに持ってくるとネタだけ浮かべば後はスラスラ書けるんですよね。
あらためて自分が重症ルシオラーであることを自覚しました(核爆)。
<紫さん>
幸せいっぱいのルシオラっていいですよね。書いている自分も、ほんのり胸があたたまります。
ベスパについては、こんな展開となってしまいました。ベスパファンの皆様、たいへんスミマセン。
いつかアシュタロスともども、救済SSを書きたいという思いはあるのですが、いかんせん執筆中の作品が多くて手がつけられない状態です。 (湖畔のスナフキン)
- <kitchensinkさん>
文章でわかりますかね。とりあえずここでは、湖畔のスナフキンで通したいと思います。
たまたまこっちのHPを見つけたのが後だったので、今までRead Onlyで通していたのですが、これからはちょくちょくお邪魔するかもしれません。(;^^)
実は今書いているルシオラのSSも、元ネタというか発想を得たのは実はここの掲示板を読んでいる最中でした。
(パクリではありません。ヒラメキを得たという意味ですので誤解なきよう)
<ハルカさん>
おぉ、同志よ!!!(爆)
お会いできてうれしいです。お互いに宣伝活動に励みましょう。 (湖畔のスナフキン)
- <NAVAさん>
実は私は、NAVAさんの『ルシオラーに告ぐ』を読んで奮起した一人です。(爆)
奮起してルシオラのSSを書き始めたら、止まらなくなりました。(笑)
ベスパについては、ルシオラと対照的な描写となってしまいました。
いつかは、アシュタロスともども救済SSを書いてみたいという思いはあります。
ただ本人に余力がなくて、手がつけられないのですが。(;^^) (湖畔のスナフキン)
- <志狗さん>
原作では深く描写されていませんが、ルシオラを失った横島とアシュタロスを失ったベスパが深い痛手を負ったと私は解釈しています。
そこでルシオラを復活させてしまうと、残ったベスパのみが重荷を負いつづけることになってしまうため、残された彼女が非常に気の毒になってしまうんですよね。
ただ、今の時点でベスパを救済するアイデアは浮かびませんでした。それで遠い未来にアシュタロスと再会できるかもしれないという伏線を残して、彼女に希望を持たせている次第です。 (湖畔のスナフキン)
- 湖畔のスナフキンさんはじめまして。KAZ23っていいます。
ルシオラって良いですね。私もそう思います。
でも、私は他のキャラも満遍無く好きです。
なので今回はベスパにっ!(駄目)
ベスパ良いなぁ。ごめんなさい。
勿論ルシオラも良いんですよ〜 (KAZ23)
- 「ベスパは誰か良いひと出来ないの・・・・・・やっぱり?」
「ん〜・・・」
ベスパは大きく唸り、目を閉じて考える。
そして目を開けると少し意地悪そうに微笑んで言った。
「しいて挙げれば・・・ヨコシマなんか良いかもね♪」
「えっ?」
ルシオラは、何を言われたのか分からずあっけに取られてしまう。
「寝取るか。」
「ベスパ、それだけはさせないわ!」
いつかのごときバトルが今始まる・・・・・・
(寄生SS終了)
失礼しました。 (KAZ23)
- <KAZ23さん>
ぐはぁ(吐血)、寄生SSおいしゅうございました(笑)
私もベスパ好きですよ。ただ今はルシオラにはまっていて、ベスパを掘り下げる余裕があまりないのです(汗)。
一途な心を持ってますからね、ベスパは。 (湖畔のスナフキン)
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