ザ・グレート・展開予測ショー

失われたドクロ(1)


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(03/ 2/16)



これはとある師弟のお話である。



「おはようございます、先生」

「おはよう、ピート君」

ピートは毎朝の礼拝を唐巣と行っている。

この日も神に祈りを捧げようと教会の神の像の前にやってきたのだが…

「せ、先生、何ですか?それは…」

唐巣が持っていたのは透明な素材で出来たドクロだった。

「キレイだろう?ピート君」

唐巣はドクロを両手で抱えて光にかざした。キラキラと光って確かにキレイではある。

「ええ。キレイですけど…どうしたんですか?それは」

正直ピートはこういったものが苦手だ。長年生きては来たが、それだけに死は恐ろしい。

自分のものも、他人のものも。

「これはこう見えてもオカルトアイテムでね。水晶のドクロって言うんだよ…まぁ、使い方は解らないんだけどね」

南米でいくつか出土したこの水晶のドクロは、その時代では到底考えられない高度な加工技術で作られており、オーパーツ(Outof Place Artifacts:場違いな工芸品)に分類され、考古学や歴史学では存在が棚上げされ、無視されている存在である。だが、発見された状態などから祭祀に使われていた事は明らかであり、何らかの魔力や霊力を持っている事も確認されている。

そして発見されたドクロのうちいくつかは盗難に合い、行方が今も分からない。唐巣が手に入れたものはその一つなのだろう。

「大丈夫なんですか?そんなものを預かって…」

「いや、これは預かり物じゃないんだ」

…………

「えええぇ!!!」

ピートは驚いた。この教会の経済事情は痛いほどよく知っている。こんな曰くありげなオカルトアイテムを購入できるようなお金はどこにもない。と、すると…

「一体どこから借金したんですか、先生!?まさか美神さんからじゃ…」

思いっきりうろたえて、唐巣に掴みかからんばかりの勢いで迫るピート。

「落ち着きたまえピート君!いくら私でも…そんな恐ろしい事は出来ないよ…これはこのドクロを手に入れた途端、不幸が相次いだ好事家が私に押し付けるように安値で譲ってくれたんだ」

「………………本当に大丈夫なんですか?ソレ」

疑わしそうな目でドクロを見るピート。

「今の所悪い波動は感じない。多分好事家の不幸は偶然だったんだろうね。一応お払いもしておいたし、問題無いだろう」

「はぁ…先生がそう言うんなら…」



「さて、ピート君」

背筋をシャキッと伸ばし、襟を正して「これから説教しますよ」モードを発動する唐巣神父。

「はい、先生」

同じく背筋を伸ばして、キリッと表情を整え「真面目に聞いてます」モードを発動するピエトロ・ド・ブラドー。

「生命は生まれてくる時、神に祝福を受けます。また私達も祝福します…何故ですか?」

「それは…」

ピートはすぐには答えられなかった。単純におめでたい事だと思っていたからだ。

「それは…そんな事は当たり前の事なんじゃないですか?」

「ええ。当たり前の事です。ですが、当たり前と言うのは理由にはなりません。例えば…物を落とすと下に落ちますよね?これは重力が存在するからであって、『当たり前』だからではありません」

「では…なぜなんです?」

「ピート君、それは自分で見つけなければいけません。考えてください。何故生命は祝福を受けるのかを」

説教の最中にも拘らず、考え込むピート。単純な事に思えたので、答えられなかったのが恥ずかしく感じたのだ。

だが、唐巣の話は続く。

「ピート君、この形をどう思いますか?」

唐巣は手に持ったままだった水晶のドクロをピートに見せて聞いた。

「正直僕は苦手です。死の象徴みたいに思えてしまって…」

「そうですね。これは人間の最後に行き着く形です。死そのものとも言えるでしょう。ですが…だからこそこれは祝福されるべきものなんですよ」

「!?」

ピートは混乱した。死が…祝福するべきものだって?

今まで生きてきた長い歳月の間に見てきた数多くの死が頭をよぎる。どれも悲しむべきものや寂しいものや、惨めなもの、怒りを持つべきもので、祝福するべきものではなかった。

ピートは珍しく…ひょっとしたら初めて本気で唐巣に反発した。

「先生!僕は今まで祝福するべき死なんて見た事がありません!死は忌むべきものでしかないんじゃないですか?だって、死んで幸せに何てなれっこないじゃありませんか!」

「ピート君!!!!」

感情的になっているピートを落ち着かせるために、唐巣は叫んだ。

「個人の感情として、悲しんでもいい!むしろそうするべきだろう。だが、我々は神に仕える身でもあるんだ!祈らずにはいられない…その祈りが祝福でなくて何だというんだ!」

「あ…」

言われてみればその通りだ。ピートは落ち着きを取り戻し、神に祈る。

アーメン。

「分かってくれたようだね…我々は人々の生と死に立ち会う事が多い。死んだ後の者ともね。彼らに対して私が出来る事は、やっぱり祈る事だけなのだよ」

そんな事は無い。唐巣は他にも色々と人々の為に働いている。だが、彼にとって見ればそれは当たり前の事で、大した事ではないのだろう。

「祈るのは、彼らへの許しと救いと幸せを…ですね?」

「ああ。だからこそ神は生も死も、全てのものを祝福し、救いたもうのだよ」

そういう事か…ピートは神の愛は無限だ、と言われる理由の一端を理解し、神に祈りを捧げた。



唐巣はその間も、その後もずっと水晶のドクロを手離さなかったのだが、ピートはその事には気付けなかった。





そして、その日から唐巣神父は行方不明になる。

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