ザ・グレート・展開予測ショー

空想kiss


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 2/15)



 愛する気持ちを伝えたい。
 俺は君の事をこんなに思っていると。
 でも、押し付けたくはない。
 だから、キスはしない―――できない。



 二人だけの部屋、雑然とした部屋の中、何するわけでもなく、ただ、炬燵の中で隣り合い座っている。
 感じるお互いの体温も。動悸も。まるで交じり合っているかのようだ。
 気持ちいい―――同調しあっている感覚。同じ、空気をともにしている連帯感と一体感、そして、何より、その相手が彼―――彼女だから。
 炬燵の上にあるみかんの皮を剥く彼女、差し出される果実に口を突き出す青年。
 口の中に入る直前、その実はそこから消える。
 そして、彼女の口の中。
 恨めしげに見つめる青年―――子悪魔のような笑みを浮かべる少女。
 一瞬、二人同時に思う。
 ―――キスが―――したい。
 沈黙の中に、お互いがお互いの鼓動を感じあう。
 頬が自然赤らむが、真剣な視線は消えることはない。
 見つめあい―――青年がそらす。
 「意気地なし・・・」
 少女は心中で呟いた。









 何にも望まない、ただ、いてくれるだけでいい、そんなことはない。
 一緒にいたいのは確か、でも、どんなたわいのないことでもいいから、話したい。
 お互いがどう思っているのか感じあいたい。
 伝え合いたい。
 でも―――伝わらないことは仕方ない。










 ―――言葉では限界があるから。
 ―――届かないから。
 でも、この空気の心地良さに流されて。
 俺たちは何一つ分からないままに。
 ここに、いる。

 もっと、ボキャブラリーがあるなら、伝わるかもしれない。
 ほんの1%でもいい。それだけで十分すぎる程に伝わる。
 少なくとも、今ある状況の中で、彼女に伝えることが出来たら。
 嬉しい。







 不器用な愛を感じてる。
 きっと、隠れてしまっているものもあるということも伝わる。
 でも、分からない―――不安。
 感じることが出来るなら、それは何よりも大切なこと。









 静かに流れてゆく時間の中で―――
 ただ、咀嚼する音が響きあう。
 寒空の中でも翳りなく輝く日の光の中で
 会話があるわけでもなく
 ただ、そこにありつづける。

 不意に、お互いの顔を見る。
 何気なし、気まずくなるわけでもなく。
 ただ、お互いの顔を見る。
 青年は少女を。
 少女は青年を。




 言葉はない。




 青年が口を開く―――と。










 ぷるるるるるる・・・


 少女の持っていた携帯電話が鳴った。
 シンプルな着信音。
 見詰め合っていたお互いの頬が徐々に熱を帯びる。
 それとは逆に、冷水でも浴びせ掛けられたかのように心は冷めていく。
 後悔の念が、浮かぶ。







 少女は外に出た。応対に出ると言う建て前で、本当は火照った身体を冷ます為に。


 青年は考えた。頭をかきむしり、何を自分がしようとしていたのかを真剣に。





 雰囲気に流されたくはない。浅はかなことをして、後悔はしたくない。


 でも、あの瞬間―――



 全てが、止まったように思えていた。

 彼女の唇を見ていた。

 何も考えることも出来ず―――ただ、彼女の唇を見ていた。












 キスを、したかった。







 言葉では伝えられない思いを―――伝える為に。

 でも、傷つけたくない。

 だから―――空想で止めとく。

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