ザ・グレート・展開予測ショー

片羽の蝶のつがい (前半)


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 2/13)

―― 片羽の蝶のつがい ――

そんな言葉を知っていますか?

右の羽を失った蝶と
左の羽を失った蝶が
お互いの身を寄せ合い
お互いの欠けた羽を補い合って
一匹の蝶として
空を飛ぶ話です
これは
そんなお話です





「パパ〜・・・」
「おおっ!」

今日は六道学園の入学式。
かつては女子校だったこの学園が、共学校へと変わってから早4年。真新しい制服にその身を包んだ生徒たちが、桜の花びらが舞うキャンパスに溢れていた。
そしてその保護者たちもまた、この晴れの日を祝う為に取って置きの衣装で身を飾る。
流石に名門校と言われるだけあり、品の良い人達の割合が高いと言えるだろうか。

「私どうだった?」
「バッチリ!可愛かったぞ〜!」

入学式の行程もつつがなく終了して、今は式後の歓談の時間。
あちこちで新入生とその保護者による、微笑ましい光景が繰り広げられている所だった。

「デジカメもデジカムもしっかり取ったからな!後でゆっくり見ような♪」
「エヘヘ・・・・・・ちょっと恥かしいかも・・・」

そしてこの父娘も、そんな風景の中の一組。
周囲に見える品の良い集団からすれば明らかに1世代若そうな男と、新入学の1年生にしてはいささか落ち着いた雰囲気で大人びて見える娘。
なんの先入観も無しにこの2人を見て、父娘と判断するのはかなり難しいだろう。
兄妹と言ったほうがまだしっくり来る感じだ。

「パパ〜♪」
「おっと!おいおい、どうした?」

娘は自分よりもだいぶ背の高い父親の、自分の頭よりもやや高い位置にある首元に飛びついた。
父親のほうはそんな娘の突然の行動に驚きつつも、しっかりと抱きとめる。

「私も、もう高校生だね。」

父の頬にゆっくりと頬擦りしながら、娘は目を細めてそう言った。

「ん・・・だなあ、早いもんだ。お前が生まれたのがついこの間の事のように感じるのにな・・・」

父親のほうも少しだけ目を細め、娘と共に歩んできた時間に想いを馳せる。
そのまま暫し、父と娘の抱擁は続いた。


父親の名前は横島忠夫。33歳。職業ゴーストスイーパー。
現在は『美神&横島除霊事務所』の副所長にして、世界最強のGSと言われる人物である。
実力、功績、年収、人望、人脈・・・・・どれをとっても申し分ないと言えるこの男。
しいて欠点らしきものを挙げるならば、GS業界の人間の中でも超一流と言われる人物としては、その家系のどこにも有名なGSを持たないといった所か?
これは別に欠点という程でもなく、それはとても珍しいと言った程度だが・・・
ああ、あともう一つ。
実年齢に対してだいぶ若く見える容姿をしていて、25歳くらいか・・・下手をするとそれより若く見られることもある。
実績に反してその若すぎる容貌は、しばしば依頼主に侮られる事があった。
とは言え、これも実際に仕事をこなせば直ぐにおさまる事。
つまり横島忠夫という男は、間違い無く世間の成功組と呼ばれる人間であった。

一方

娘の名前は横島蛍。前述の横島忠夫の愛娘であり、現在15歳。そして今日からはここ『六道学園』の霊能課に通う事になる、新1年生であった。
かつての横島忠夫の想い人、ルシオラの転生体と言えるべき人物であり、年を追う毎にその容姿はかつての彼女の持つそれへと近づいている。あと3年で、おそらくは寸分違わぬ姿へとなるだろう。
それは当然、かつての彼女と同じように見目麗しいという事だ。そして性格も丸く穏やかであり、それでも自分を確立している強さも持ち合わせている。
そんな彼女であるから、小学生時代も、中学生時代も、常にクラスメイトの中心にいて愛されつづけていた。
女子からも、そして男子からも。

「パパ・・・・・・私、もう高校生なんだよ?」
「ん?どうした、蛍?」

スリスリと頬を寄せていた父から少しだけ顔を離し、その父の顔を正面から捉える蛍。
その表情は真剣で、そしてその瞳は次第に潤んでいった。
そして数瞬後・・・

「ん〜・・・」

蛍は瞳をゆっくりと閉じると、その顔をゆっくりと近づけていく。
それは完全に横島の不意を突き・・・

―― チュッ ――

「!?」
「えへっ♪」

その可愛い桜色の唇で、蛍は愛しい父親の唇を奪った。

「ほ、ほほほっ、ほたるっ!!?ココココ、コラッ?!お前は一体何をっ!?」
「え〜?何って、キスよ。キ・ス♪」

思いっきり取り乱す父親とは対照的に、蛍はとても嬉しそうな笑みを浮かべている。更に言えば、この年頃の娘としては不似合いなほどに、それは魅惑的な表情だった。

「私はパパの事大好きよ♪パパは私の事好き?」

少しだけ小首を傾げ、さながらおねだりでもするような表情でそんな質問を投げかける。

「い、いや・・・無論、蛍の事は好きだぞ?当たり前だ!うん!だがな、こんな人前で・・・」
「嬉しい♪私たちって相思相愛ね♪」

横島の台詞を半ば意図的に封じるように、蛍は再び身体を密着させた。
そのまま気持ちよさそうに頬を擦り合わせる。

「パパ〜♪好き好き〜♪」
「ああっ!?だから、なっ?人様の視線と言うものが・・・」

まるで子猫が甘えるようにその身を摺り寄せる蛍と、周囲の・・・その意味を考えたくも無い程に圧倒的な数々の視線を受け、横島はその波乱万丈な生涯の中でも間違いなく3本の指に入るだろう大ピンチを感じていた。

「も〜・・・前はパパの方から求めてくれたのにぃ〜♪」
「うがあ〜っ?!だからお前はなんで、そーゆー人聞きの悪い事を言うかーーーーっっ!!?」

今の蛍の台詞が聞こえたのか、周囲の視線がその冷たさを増した。いや、既にかなりの数が引いているように見える。

「だいたい、それはお前がルシオラだった時の話だろうがーーーーっっ!!」
「そんなの関係ないじゃ無い!ルシオラも蛍もどっちも私よ?」

シレッっとした顔でそんな事を言う蛍。

「そら、そうだがなーーーーっっ!!!はあーーーーーんっっ!!?せめてそんな事を言う時はパパって呼ばんでくれーーーーっっ!!」

横島はついに泣き出す。


<後半に続く>

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