ザ・グレート・展開予測ショー

横島タイガー極楽大作戦!(3)<終>


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(03/ 2/12)



これは極貧少年達の戦いの記録である。



数日後。横島達の願い通りに、美神とエミは仕事で鉢合わせした。

そして仕事が終わった後……

「お疲れ様でした、エミさん。あ、それとこの間はお世話になりましたー」

軽い感じでエミに話し掛ける横島。

「ああ、いいのよ。こっちも助かったしね〜。何ならウチに乗り換えない?碌な給料貰ってないんでしょ?」

「な…ちょっと!ウチの丁稚に何してんのよ!」

堂々と引き抜きをかけるエミに、反射的に文句を付ける美神。

そして美神を無視して(!)エミと話を進める横島。当然“平”文珠使用中。

「え〜?でも、タイガーを見てると生活のレベルが俺と一緒なんですけど…」

自分を無視してくれた横島に「よっこっしっまぁ〜〜後で覚えてなさいよ…」と横目でガンを飛ばしつつ、エミを排除する方を優先する美神。

今の横島ほど使えて、今の横島より安い人材は絶対に見つからない。本当に引き抜かれたら、たまったものではないのだ。

「そうよ!エミ、碌な給料やってないのはアンタの方でしょう!」

「オタクにだけは言われたくないワケ!私はオタクん所よりはタイガーに給料払ってるワケ!」

「はんっ!何を根拠に!タイガーはこの間ウチに仕事を手伝うからって、ご飯たかりに来てたわよ!?」

「横島だって家賃が払えないからって、ウチに臨時のアルバイトで使ってくれって頭下げに来たわよ!」

「「……」」

それまで激しく言い争っていたのをピタリと止めて、しばし睨みあう2人。

そして同時にお互いの従業員の方に向けて振り返って叫んだ。

「横島っ!」

「タイガー!」

ここでいつもの2人なら何度も謝り倒して許しを請うただろう。

だが今の2人はいつもの2人ではない。

決死の覚悟と“平”文珠があるのだ。

「ええ、家賃の為にエミさんの所で使ってもらいましたけど…それが何か?」

「はい。美神さんの所でご馳走になる代わりに仕事を手伝ったんジャが…悪かったですかいノー?」

理屈では確かにそうだ。2人ともバイトの身で、他所で別のバイトをしようが美神達には関係ない。

だが、美神とエミには理屈は通用しない。

「何かじゃあるかぁぁ!!アンタ何勝手な事やってるのよ!?時給減らすわよ!!」

「んなミジメッたらしい事をよりによって令子の所でするんじゃないわよ!ちゃんと言えば、私だって鬼じゃないんだからご飯ぐらいのお金は前借させてやるワケ!」

言質は取った。これでタイガーはエミから給料の前借りOKを勝ち取った事になる。

そう。これこそが横島とタイガーの狙い……美神とエミのミエっぱりな所を利用して対立させ、自分の待遇を改善しようとしていたのだ。

タイガーは冷静に判断してここで引く事にしたが、まだ何も得た物の無い横島は突っ走る。

「ふ〜ん。やっぱりエミさんより美神さんの方がケチなんだなぁ…」

「(ピクッ)何ですって?もういっぺん言ってみなさい」

こめかみに青い血管を浮き出させて美神が言った。

ゴゴゴ…と音が聞こえてくる迫力に、文珠の力を借りた横島も少し怯む。

だがここまで来ては引き下がれない。ビビリながらも冷静に指摘する。

「だって俺の時給タイガーより低いし、同じ事したのにエミさんは前借りOKで美神さんは減給じゃないっすか」

確かにその通りだ。

普通ならこれに反論は出来ない。普通なら。

しかし、彼女は美神令子である。以前にも言ったがもう一度言おう。

彼女には理屈は通用しない。

「この私に……逆らおうっていうの?横島クン…」

グォゴゴゴンゴンゴングォングォングォン…

大型の旅客機のエンジン音のような擬音を背負って美神がすごむ。神も悪魔も退ける勢いだ。

「い、いや…だって、そのっあのっ…」

ついに文珠の威力を超えた美神の迫力に土下座一歩手前の横島。

そんな彼の様子を見かねて、タイガーが精神感応で横島に話し掛けた。

―落ち着いてつかーサイ、横島さん。わっしらには切り札があるでっショウ?―

―いや、でもこの状態の美神さんに何か言ったらそれだけでヤバいんだぞ!―

―横島さん。こんな時の為にいい言葉がありますジャー―

―何だっ?助かるんなら何でもするぞっ!―

―死んでもともと―

―はぁ?―

―このまま何もせんでも、謝っても、何か言っても…どの道シバかれますケェ、言うだけ言ってみたらいいって事ですジャ―

―…どうやっても、か…―

―そうですケン、死んでもともとなんですジャー―

―分かった。言うだけ言ってみる…―

横島は覚悟を決めて、手をポケットに入れて美神に気付かれないように文珠を発動。文字は“静”。飲み込んである“平”と合わせて平静となる。

文珠が発動し、震えが止まる。怯えて逸らしていた視線を戻して美神と目を合わせ、横島は穏やかな声で話し掛けた。

「美神さん…」

「なっ何よ!?」

滅多に無いシリアスモードの横島に目を見て名前を呼ばれた事で動揺する美神。

顔が赤くなり、動悸も早くなる。

「美神さん…俺…俺の…」

「だ、だから何よっ!?」

ドキドキドキドキ…

よ、横島のクセにっ…

そう思いながらも早まる動悸を止められない美神。

そして、横島は言った。

「俺の時給上げてもらえませんか?」



………………



その後、横島は30分ほどシバかれたが誰も止めるものは無かった。

他にその場にいたのはエミとタイガーだけだったのだが、呆れて帰ってしまったのだ。



「っだ〜…も〜〜…このバカはっ!…そろそろ帰るわよっ!?起きなさい!」

気絶しても殴り続けられたお仕置きも流石に終わりが来たようだ。

だが、意識を取り戻した横島はまだ使っていなかった切り札をここで切った。

「美神さん。時給を上げてくれないなら、これからも他所でバイトしてもいいっすか?」

「ああん!?アンタまだそんな事言う元気があったの?」

「分かってますよ。エミさんの所は行きません。代わりに…そうですね。隊長の所ならいいでしょう?」

横島はニヤリと笑って言った。

これは暗に美神さんのお母さんにチクりますよ?と脅しているのだ。

だが彼女は美神令子。簡単には脅しに屈しない。

「アンタ…そんな事やったら命が無いわよ…!!」

「…マジですね。美神さん。でも、俺も引き下がれないんですよ…」

「………後悔しないのね?」

「ええ。隊長にはすでに臨時で雇ってくれないかって話だけはしてあります。理由は経験を積みたいからって言ってありますけど…隊長なら本当の理由を察してくれてるでしょうね」

これで横島が美知恵の所に行ったら横島の待遇が改善されていない事がバレ、彼女は美神の所に説教に来るだろう。

やられた!という顔をする美神と苦笑する横島。

「美神さん…俺今の生活が本当に楽しいんですよ。事務所の皆も好きだし、色んな知り合いも出来たし。でも…苦しいんです」

「何がよ?」

「決まってるでしょう!生活がですよ!俺は………真剣に明日のメシの心配するような生活はもうイヤなんじゃーー!!!」

文珠の効果が切れたのか、途中から突然涙を流し、普段の調子に戻って訴える横島。

「俺は今まで通り美神さんの傍にいたいんです!でも金銭的に生活がどーにも出来んから時給上げるかちょっと他所でバイトさしてくれってゆーとるのに、どっちもアカンってゆーんなら俺はどーすりゃいいんですかぁっ!」

横島はさらっと爆弾発言をこぼしつつ美神に詰め寄った。

勢いで喋っているせいで、当然自分で自分が何を言ったかは気付いていない。

だが、言われた方は当然気が付いたわけで…

「あ〜も〜…分かったわよっ!!時給を上げてあげるわよ!だから金輪際、他所でバイトなんかするんじゃないわよっ!」

顔を赤らめ、そっぽを向いてこう言ったのだった。

「マ、マジっすかぁ!!ありがとうございます美神さん!!」

「分かったら帰るわよ!結構遅くなっちゃったし、おキヌちゃんも心配してるでしょうからねっ!」

「そうっすね!帰りましょうか!」



こうして極貧少年達は、ほんの少し極貧を脱出する事が出来た。

だが、彼らの戦いはまだこれからだ。

がんばれ!少年達!負けるな!少年達よ!

君達の未来は多分厳しいぞ!!

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