ザ・グレート・展開予測ショー

横島タイガー極楽大作戦!(2)


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(03/ 2/12)



これは極貧少年達の陰謀の記録である。



「よし、行くぞタイガー…」

「行くとしますかノー…」

美神除霊事務所の前で、横島とタイガーの2人は最後の意思確認をした。

ここから先に進んだら、もう引き返せない。

失敗したら、最悪命も危ない。

だが、2人は進む事を選んだ。

卵すら入れられないインスタントラーメンはもうゴメンだったのだ。

そう、全ては貧乏が悪いのだ……



「ちわーっす」

「お邪魔しますジャー」

「あ、横島さん!あれ?タイガーさんも…何か御用ですか?」

普段タイガーは美神事務所に滅多に顔を出さない。顔を出す理由が特に無いというだけなのだが、仕事場に理由も無く遊びに来ると美神が怒るのだ。プロ意識を持つ者としては当然の事なのだが。

「ん〜…ちょっとね。美神さんいる?」

「あ、はい。奥で書類を書いてましたけど」

「ん、分かった。あ、おキヌちゃん、悪いけど今日タイガーの分のご飯も頼める?」

「え?…あ、はい。わかりました!」

おキヌは一瞬怪訝な顔をしたが、ご飯は大勢の方が美味しいですよね、と思ってすぐに笑顔で了承した。

それを聞いて横島とタイガーは一瞬目を合わせてニヤリと笑った。第一段階の布石が成功したからである。

そして2人は奥へと進んだ。



コンコン

「美神さん、入りますよー?」

横島はノックしてからドアを開けた。これがおキヌや小鳩相手だったら、相手の反応を待ってからドアを開けていただろう。美神相手だからノックしてすぐに開けたのだ。何故なら

万一着替え中だったらラッキーやないかっ!しかも一応ノックしたっちゅー言い訳も出来る!

という彼なりの綿密(?)な計算があったりするからである。しかも美神相手なら絶対に泣き出したりなどせず、シバいてくるのでシャレで済む。

しかし、この時美神は彼の期待を裏切って、普通に書類仕事をしていた。

「お邪魔しとります、美神さん」

「あら?タイガーじゃない。エミの所の人間が何の用なの?」

少し不機嫌になる美神。素早くそれを察知して間を取り持つ横島。

「まぁ、美神さん。そうケンカ腰にならずに話を聞いて下さいよ」

「ん〜…まぁ、話くらいなら…」

「実はタイガーですけど、俺と同じ位生活に困ってまして…それでですね、今回の仕事を手伝わせる代わりにメシを食わせてやってくれませんかね?」

「イヤ。帰れタイガー」

どキッパリと、いっそ気持ちがいい位に美神は言い切った。

覚悟していたとは言え、あんまりな反応に泣きそうになるタイガー。

そのタイガーをアイコンタクトでけしかける横島。

―何やってんだよ!?ここで終わる気か?―

―し、しっかし、横島さん―

―いいから、行けっ!それとも貧乏からの脱出を誓ったのは嘘だったのか!?―

―そ、そうでしたノー!ワシらはもう引き返さないと決めとったのを忘れてましたジャー!―

「そんな事言わんと、お願いしまっす!わっしはもう2日も禄に食べとりませんケェ、これ以上は…お願いしまっす!」

覚悟を決めただけあって、見事な土下座を披露するタイガー。涙まで流して迫真の演技だ。

…単にマジ話という可能性も捨てきれないが。

そして美神の横に回ってタイガーのフォローをする横島。

「ここで見捨てたら鬼ですよ、美神さん…それに…」

小声で美神の説得のツボを耳元でささやく。

「この事を後でエミさんに言ったら、どう思うでしょうね?」



自分の所の従業員が商売敵の所で、それも美神の所でご飯を恵んでもらう代わりに仕事を手伝った…

「あ〜ら、小笠原さんの事務所はそんなに困ってるの?従業員に碌な給料も払えないなんて!」

そう言ってエミに高笑いする自分……



「ホ〜〜ッホッホッホっ…!!」

「み、美神さん!落ち着いて下さい!」

「あ、あら…私とした事が…」

急に黙り込んで、フルフルと震えたかと思うといきなり高笑いを始めた美神は横島の声で正気に戻った。

「よし、タイガー!今日の仕事手伝うんならご飯食べていっても良し!」

「あ、ありがとうございます!」

「良かったな!タイガー!」

我が事のように喜ぶ横島。

ここで美神はふと不審を覚えた。

おかしい。横島君は男の友人の事でここまで喜べるようなヤツじゃないはず…そもそも、こんな話を持ってくる事自体が不自然だ…

「ねぇ、横島クン?あんた…何を企んでるの?」

「何の事っすか?」

きょとん、とした顔で平然と聞き返す横島。

「…ううん、何でもないわ。悪かったわね」

ふむ。この反応って事は、私の考えすぎか…コイツは良くも悪くもすぐ顔と態度に出るからね…

美神はそう判断して会話を打ち切って書類仕事を再開し、横島とタイガーも退室する事にした。

「じゃ、そういう事で。失礼しまーす」

「失礼しますジャ」



「ふぃ〜…緊張しましたノー…」

廊下に出た途端、脱力するタイガー。

「しっかし、よく最後の美神さんの質問に平気でいられましたノー。流石は横島さんジャ」

「ん、ああ。あれは文珠のお陰。あらかじめ“平”って文字を浮かべて飲み込んだんだよ」

まだ文珠の効力が残っているせいか、しれっと返す横島。

「はぁ!?そんな便利な物があるなら何故ワッシにも…」

「お前には素で演技なんて出来ないだろ?俺の場合逆に素だと美神さんにバレるから文珠を使ったんだよ」

「そーゆーもんですかノー…」

「そーゆーもんだ。実際上手く行ったし、いーじゃねーか」

「…そーですノー…」

タイガーは納得いくような、イマイチ納得いかないような、複雑な気持ちだった。



タイガーが美神の事務所を訪れた翌日。今度はエミの事務所を横島が訪れていた。

「お願いします!今月マジで苦しいんです!このままじゃ家賃が払えないんで…お願いします!」

そして先日のタイガーのように、いやタイガー以上の年季の入った見事な土下座を披露して懇願する横島。

ただ、要求する報酬がご飯から家賃に変わっているが、それは美神の方が(やや)ガードが固いのと、エミの方が(比較的)常識があるのを考慮した結果である。

「う〜ん…いきなり来てそんな事言われてもねぇ…」

「お願いします!絶対に役に立って見せますから!」

エミは正直迷っていた。いざという時、文珠が使える横島がいれば仕事の危険度は激減する。一瞬で強力な結界を作り出し、傷を癒す事も可能。その上霊力だけなら自分と同等かそれ以上…以前一時的に雇った時とは比べ物にならないくらいコイツは成長している。

だが、このお願いには何か裏があるような気がするのだ。ひょっとしたら美神が何か企んでいるのかもしれない。アイツはコイツを潜入させて自分の弱みを探させるくらいの事はやる女だ。

「オタク…令子から何か言われて来たんじゃないでしょーね?」

エミは軽くガンを飛ばしながら探りを入れた。

「へ?何かって……何をですか?」

本当に心当たりが無い横島は、何を言われたのか思い当たらず逆に聞き返した。

その反応を見てエミは横島の採用を決定する。

「よし、採用するわ!でも遠慮せずにこき使ってやるから覚悟するワケ!」

「あ、ありがとうございますエミさん!この感謝の気持ちを是非体で〜!」

カエルのようなポーズで机を飛び越えてエミに飛び掛る横島。

どげしっ!

エミは飛んでくる横島の顔面に見事な右のカウンター叩き込んだ。

「……採用取り消すわよ?」

「…すんません、つい…」

ちなみに、この場にタイガーはいない。かえってボロを出す恐れがあるので、その方がいいと2人とも判断したのだ。

だがその代わりに後でエミに思考誘導をしておく。

「横島さん、本気で困っとりましたノー…美神さんはエミさんよりも酷いんですかノー…」

勿論殴られたが、エミにこの件で美神をからかえると気付かせる事が出来た。文字通り捨て身の努力である。

ともあれ、2人はお互いの職場で一時的に使ってもらう事と、お互いの雇い主同士に弱みを握らせる事に成功した。



そして後日、学校にて。

「ここまでは上手く行ったな…」

「ジャが問題はここからですジャー…」

「ああ。いつ2人を引き合わせるかだが…」

「下手に仕組むと全部バレてしまいますケェ…」

「そうだな、偶然に任せるか…どうせそのうち仕事か何かで会うだろ」

「そうですノー…あの2人は仲が悪くて良いですケェ…」

「タイガー…気持ちは分かるが日本語として変だぞ」



教室の隅でこそこそと密談するタイガーと横島。

そしてそれを無視するクラスメート達。

最早彼らはそんな事には慣れてしまっているのだろう。

なんせ、タイガーと横島のクラスメートなのだ。

「つくづく青春よねー…(某机妖怪談)」

確かにある意味青春だが、そんな青春はイヤだな…

ピートは遠い目で窓の外を見つめ、故郷の島を思い出しながらそう思った。

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