ザ・グレート・展開予測ショー

神ノ声(後編)


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 2/11)






更に月日は流れる。




私は相変わらず異教の書物を読み漁り、ドイル少年はいよいよ深刻な状況に陥っていた。
私を擁護してくれた枢機卿も、私のやっていることに探りを入れ始めた。
さらにドイル少年の母もまた、私がいつ除霊をしてくれるのかと業を煮やすようになっていた。
何もかもが潮時を迎えている。そんな頃だった。

私はついに一つの呪法――――異教の儀式を発見した。

それは魂の在り方に干渉するモノ。
しかし、その術をキリスト教の除霊術に応用することは難しく、異教の儀式そのままに行うことが必要だったのだ・・・・・・。
この頃の私は明らかに教会不信に陥っていた。
やはり、私を擁護してくれていた枢機卿ですら、私の行動を疑い始める気配を見せたことが決定的だったな。
まぁ、そんなわけで、私が異教の儀式を行うことを認める者は皆無なことは疑う余地も無かった。
しかし私は、その儀式こそが事態を丸く治めるだろうことを確信していたのだよ。
ベストの選択であるとね。

私はそれに付随して、いくつかの策を練った。
その策には、ドイル少年、ドイル少年の母、そして何より、アニザーキスの協力が必須だった。

私はついに全てをドイル少年と母親に打ち明けた。
アニザーキスを除霊出来ない理由。
ドイル少年の心臓疾患のこと。
そして、私の置かれた状況のこと。
私が試みようとしている呪法のこと。
アニザーキス本人にも同意を願った。

アニザーキスは、意外にもすぐに同意してくれた。
私が真剣なことは、今までの経緯から悟ってくれていたようだし、元々賢い彼女だ。
理詰めで説明してやることで、素直に私の策の有効性を認めてくれた。
しかし、それで収まらないのはドイル少年の母親である。
クリスチャンとして、異教の儀式など認められないし、何より彼女はアニザーキスを徹底的に嫌悪していた。
彼女にとって、諸悪の根源はアニザーキスだったからね。
説得は困難を極めた。

だが、意外な方向から援護が来た。
そう、ドイル少年だ。
彼の発した弱々しい言葉が、彼の母を翻意させた。

「僕は死にたくない」

と。

傍目から見ても、ドイル少年は憔悴しきっていた。
クリスチャンではなく、一人の少年の母として、選択肢など残されてはいなかったのだよ。








こうして教会の目をかいくぐり、私は最後の賭けに出る準備を着々と推し進めた。







―――― 神ノ声(後編) ――――




「雪か・・・・・・」



私は自分に割り当てられた執務室を綺麗に掃除しながら、雪が降り始めたことを知った。
執務室にはほとんど私物を持ち込んでいない。
精々、椅子に乗せてある座布団とマグカップくらいだ。
程なくして掃除を済ませ、私は一つのレポートを机の上に乗せた。
宛先は枢機卿。
私が行おうとしている異教の儀式。
儀式の結果予想は一部だけ脚色してある。
枢機卿がそのレポートを目にする頃には、儀式は終了しており、ドイル少年は回復へ向かうことだろう。

そして私はバチカン内に居場所が無くなる。
誇りあるバチカン所属エクソシストが、除霊のために自ら異教の術を使う、異教の神に接触する。
前代未聞の不祥事だ。

「破門がどうした。
 キリスト教徒としては、恥ずべき行為かも知れない。
 しかし、人として恥ずべきことはしていない」

私は一切の未練を断ち切り、バチカン宮殿を後にした・・・・・・。









雪降り注ぐ道すがら、予想もしなかった人物が私を待ち受けていた。

枢機卿その人である。

その表情は険しく、私を見つめていた。
私も枢機卿を見つめる。
沈黙が二人を支配した。
見たところ、近くに従者はいない。

――――バレバレだったか・・・・・・眠ってもらうか?

私が不穏な考えに囚われそうになった時、枢機卿が口を開いた。

「残念だよ。唐巣神父。
 バチカンは一人の有能な神父を失うわけだ・・・・・・」

「例え枢機卿であろうとも、邪魔はさせません」

私はゆっくりと、しかしながら、力を込めて断言した。

「最後の確認をしたかったのだ・・・・・・。
 君が堕ちたのかどうかをね。
 だが、君の瞳には理性の光がある。
 ならば止めはせん。
 自ら険しい信仰の道を歩もうと言うのだな?」

「……私の行動を黙認していただけるのですか?」

重い雰囲気が和らいだ気がした。

「破門だよ・・・・・・しかし・・・・・・。
 教会の在り方に疑問を持ったのだろう?
 私も疑問を持ったことがある。いや、持っている。
 君には私と共に、教会をより良くするために尽力して欲しかったよ」

枢機卿は柔らかな笑顔でそう言って、本当に残念そうに溜息を吐いた。

「・・・・・・ご期待に添えず、申し訳ありません」

枢機卿は聖職者として、人として、尊敬していた方だった。
そんな方に惜しまれることで・・・・・・不謹慎な話だが嬉しかったよ。
そして枢機卿は私の信仰を疑ってはいない。
つまり、私が信仰の在り方を模索することを認められた気がした。

「後のことは私に任せ、君は君の信仰を貫きなさい。
 君の進む道に神の祝福を・・・・・・」

そう言って、枢機卿は去っていった。

私はその背に大きく礼をし、そして決戦の地へと赴いた。







「異教の神アフラ・マズダ、並びに、アーリマンに申し上げる!!
 我が名は唐巣和弘、キリストの使徒なり!!
 我は今ここに乞い願う!!
 我は今ここで一人の少年、一人の悪魔を救わんとす!!
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

私は一心不乱に、異教の神―――精霊に交渉を続けた。
例え精霊であろうとも、神と呼ばれるほどの力を持った精霊達だ。
その力は大きく、人間などの呼びかけに簡単には応じない。
それでも私は呼びかけ続けた。
これを成功させなければ、ドイル少年とアニザーキスには、いや、私には将来が無いとさえ思っていた。
まぁ、この儀式は私にとって、新たな信仰の形への第一歩だったからね。
そこで躓くわけには行かなかったんだよ。

私が儀式を行っている間、ドイル少年とアニザーキスは魔方陣の中で横たわっていた。
ドイル少年は眠っていたが、アニザーキスは懸命に耐えていたよ。
自分の存在を書き換えることにね。

私が行っている儀式は、要するにアニザーキスを精神だけの存在――――精霊に昇格させることだったのだ。
そしてアニザーキスの肉体は完全にドイル少年に同化させ、心臓とその補助機関に変えさせる。
無論、それを動かすためにアニザーキスの意思の介在が必要だ。
だから私はお願いしたのだよ。
精霊と化せば、人の一生・・・・・・70年から80年くらいは一瞬のことだ。
その間だけ、ドイル少年に付き合ってやって欲しいとね。
精霊となれば、大気から、大地から精気を吸い出すことで存在出来る。
人の生気に依存する必要もない。
元々、アニザーキスが人間に対して敵対的な存在ではなかったからこそ、出来た荒業だったがね。
悪い話じゃないだろ?
一悪魔から、精霊へ存在が格上げされるのだから。



そして彼女と彼は生まれ変わった。
精霊として、或いは、人にあらざる人として。








「ピート君。
 君がこの話を聞いて何を思ったのか。
 それは私には分からない。
 だが、私の言いたいことは一つだけなのだよ。

 『人と悪魔は共存出来る』

 それを望まぬ者も多いだろう。
 だが、それを望む者もいることは確かなのだ。
 丁度、君や私のようにね」

「先生・・・・・・・」

「大丈夫だ。
 人と魔物の共存を目指しているのは我々だけでは無い。
 ドイル君やアニザーキスが、我々の意思を体現しているではないか?」

「分かりました!!
 僕、頑張ります!!」




そう宣言したピート君の姿は、実に立派なモノだった。
私はその姿に満足を覚え、そして・・・・・・・・・・・。










数年後。





「クッ・・・・・・我々だけでは限界のようだ!!
 ピート君、余力のあるうちに君だけでも脱出したまえ!!」

ヴァンパイア・ブラドー伯爵の下僕達に囲まれた私は脱出を促した。
しかし、ピート君は肯んじない。

「先生を残して、僕だけ脱出なんて出来ません!!!」

彼のそういうところを好ましく思って弟子にしたのだが、今はそれが命取りだ。

「安心したまえ!!
 私は援軍を呼んで来いと言っているのだ!!」

「?!!」

「名は美神令子!!
 私の弟子の中では一番優れているGSだ!!
 彼女ならば・・・・・・!!!」

「しかし僕はヴァンパイア・ハーフですよ?!!」

「甘えるな!!諦めるな!!!
 信じれば道はある!!
 魔物に一番理解があるGSとの接触を避けることが、人間との共存に繋がるのか?!!!」

その言葉を聞いたピート君は意を決したようだ。

「先生!!!僕は・・・・・・僕は行きます!!!」

「教会の私のデスクを調べるんだ!!
 そこには、他にも頼りになるGS達の連絡先がある!!!」

ピート君はミスト化して姿を消した。

そうだ。それで良い。
私とてむざむざ死ぬつもりは無い。
しかし、私にもしものことがあった場合、彼は道を失う。
その時のために彼女達と親交を持っておくのだ。


私が……道に迷っていたあの時、美智恵君や公彦君に助けられたように!!!


「邪なる魔物の下僕達よ!!
 今一度宣言する!!
 神の栄光の元に消えよ!!!!」

そう。
あの時から。
教会と決別したあの時から、私の敵は異教の魔物ではなくなった。

私の敵とは、邪なる魔物なのだ!!




もはや迷いを払った唐巣に、神は無力を嘲らない。





そしてピートと美神令子達の邂逅が始まる。
それは大きなうねりとなり、後に世界を変えることとなる。
唐巣の信じた通りに。

















































おまけ

「先生・・・・・・」

「どうしたんだい?」

「先生・・・・・・・・・・・・・・・人と魔物の共存には、大金が必要なんでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・忘れて修業に励みたまえ」

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