ザ・グレート・展開予測ショー

帰ってきた横島 ―22後半― (完結)


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 2/11)

<前半からの続き>


ビンゴだったわね。
私が思った通りだった訳だ。
文珠という特殊技能を持った人間の、精子と卵子が手に入ったんですもの。

―― やらないはずが無い ――

ちょっと考えれば、誰でもそう思うわよ。
まだまだクローン劣化が激しいDNA細胞片からのクローン技術と違って、こっちのほうは完全な『子供』でかつ『同じ人物』がいくらでも作れるんですもの。
大体、不自然なのよ。
クローンノイド社の情報について、横島君は何も口止めされていなかった。
あちら側が隠した情報は、研究所の場所だけ。
そして文珠の研究を希望した点。多分ICPOが得た情報くらいおおよそは分かっていたはずだ。それが無駄に終わる公算は高いと感じていただろうし、少なくとも1年も続ける前に見切りをつけてもおかしくないはず。

―― では何故? ――

全てはフェイクだったのだ。
日本に帰った横島君が、私にその話をするのを見越していたって所かしら?
私たちが、クローンノイド社の目的を『文珠の量産化』と思っていれば、真の目的は隠し覆せるって踏んだ訳ね。
なにしろ、ここは地下300m。既存のネットワークからは一切隔離された完全なる陸の孤島。
なおかつその上には実際に横島君がいた研究所が立っている。
さっきのあのキメラ工場みたいな場所自体が、その表の研究所に対する裏の研究所の体裁を保っていたわけだし・・・
更にその地下にこんな場所があるなんて、疑問に感じていなかったら確かに辿り付けないわね。
私は眼前に広がる光景を瞼に焼き付ける
ズラリと並んだ培養槽・・・・・・その数はゆうに100を超えているだろう。
そしてそこにいるのは、

『今の彼と全く変わらない姿のモノ』
『記憶にある彼女と寸分たがわない姿のモノ』

成長促進剤を使ったのか。
あとは細かく年齢ごとに様々並んでいる彼と彼女の群・・・

―― だけど ――

ある意味それはいい。私の想像の範疇だった。
『クローンノイド社は彼のクローンを作っているのではないか?』
その疑念を抱いたからこそ、私は今ここにいる。だから、これは正解と言う事だ。

―― だが! ――

私は培養槽のある一角を見やる。
先程から私の感情を激しく揺さぶり続けるモノたちがそこにいるのだ。

『四肢のいずれかが欠けている彼達』
『四肢が全て欠けている彼女』

それでも生きている。

『首の無い彼の体』
『首だけの彼女』

それでも生きているらしい。

『背中どうしでくっ付いた彼と彼女』
『元の形状が把握できない程に変質した、既に人為らざるなにか』

それでも・・・・・・

「くっ!!」

あの男、生きてるうちにシャバに戻れると思うなよ!!?
その辺に貼ってある紙に書かれた『失敗作』『パーツ取り』等の文字が新たに怒りを呼ぶ。

―― ボウッ ――

私は一箇所に集めたそれらのファイルに火をつけた。
暫しそれを見つめながら、私は語りだした。

「彼はね、とても悲惨な経験をしているの。」

目の前の、モノ言わぬ・・・

「その一端はね、間違いなく私にも有るのよ。」

彼らに向かって・・・

「そんな彼が、今やっと自分の手で幸せな日常を手に入れたわ。」

いや、それはもしかしたら・・・

「だからね、私には決めていることがあるの。」

私自身に言っている言葉だろうか?

「彼の幸せを脅かす物は、私が全力で排除する。」

彼を成長させる為の試練なら歓迎なんだけどね。

「だからごめんなさい。」

別に許してくれだなんて言わないから。

「彼の為にわたしは・・・」

彼の平穏を願う者達の為にわたしは・・・

「・・・・・・貴方たちの命を奪うわ。」

私はこの施設の全電源を落とす為の、緊急停止ボタン押す。

―― バチッ、ブゥン ――

途端に部屋の中は暗くなり、残る光源は幾つかの補助灯と・・・

―― ボウッ ――

ファイルを燃やし尽くし、今度は机を燃やしている炎だけ。
培養槽の稼動が停止する。これで培養液の循環も止まった訳だ。
それを必要とする彼らの命はもう・・・・・・

「・・・もう行くわね。」

私は腰掛けていた椅子から立ち上がり言う。

「次こそは、幸せな場所に生まれて・・・・・・」

そして彼らに背を向けて

―― カツ、カツ、カツ、カツ ――

私はその場を後にした。

・・・・・・・・・・・・




「さってと、着いたわね!」

横島の運転するワンボックスカーの助手席から美神が降り立つ。
そこは、既に廃墟と化して久しい郊外のゲームセンター後地。

「ず、随分とまた・・・いかにもな雰囲気の現場ですね。」

後部座席から降りてきたおキヌは、少し震えながらそんな感想を漏らした。

「ふむ、かなりいるでござるな?」
「ほんとね・・・」

続けて降りてきた、シロとタマモも緊張した面持ちでそう言う。

「ま、とにかくキッチリ片付けようぜ?」

最後に運転席から横島が降り立ち、『美神&横島除霊事務所』のフルメンバーが揃った。

「良いわね、もう一度確認よ?今日の相手は悪魔ラハトール。最近見つかった悪魔の癖して、いきなり多額の懸賞金を掛けられた大物だわ!」

出動前にも行った話を、美神はもう一度繰り返す。

「気をつけるのは、コイツが強力なネクロマンサーだってこと。いつかのネズミみたいに生きた人間を操ったりはしないようだけど、一度に操る霊団は数万にも及ぶと言われているわ!」

その台詞に、メンバーの表情も引き締まる。

「今回の作戦の核はおキヌちゃん。霊団が出てきたら、とにかく出来るだけの数を成仏させるのよ?」
「はいっ!頑張りますっ!」

おキヌは両手のこぶしを胸の前で力強く握り、気合のこもった返事を返した。

「シロとタマモは終始おキヌちゃんのガード!出来るわね?」
「任せるでござる!」
「おキヌちゃんには指一本触れさせないから。」

シロとタマモも同様に真剣な顔つきで返事をする。

「そして、横島クンと私は前衛。霊団を突破して本体のラハトールを倒すわ!」
「了解です。頑張りましょう、美神さん!」

横島の返事に、美神は満足した。同時に横島の事を頼もしく思う。

「はやいところ倒して、蛍を迎えに行かねば!」
「それは良いけど、除霊の時に雑念は禁物なんだからね?」

今日は全員での除霊だった為、蛍は信頼できるベビーシッターに預けてきてあるのだ。そのベビーシッターを探すのに、横島は東京中を駆けずり回ってたりする。
予断だが・・・・・・そのベビーシッターの彼女が横島に好意を抱いている事を、相変わらずこの男は気がついていなかった。
更に言えば、おそらく事務所のメンバーにばれるのは時間の問題だろう・・・

「はい、了解です!勿論、除霊するときはキッチリ集中するっす!」
「ん、よしっ!じゃあ、いっちょやるかあっ!」

美神の号令と共に、全員が建物の敷地内へと足を踏み入れていく。
目の前には早速霊団が現れ始めた。

・ ・・・・・・・・・・・




彼らにとってはこれが日常。
今日も明日もその次も・・・
こんな日常が続いていくのだろう。
彼と、彼女達がそれを望んでいるのだから。
彼らの望みは彼らの歩みとなって、物語を紡ぎ続けるだろう。

―― だから ――

この物語は終わらない。





帰ってきた横島 <FIN>


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