ザ・グレート・展開予測ショー

見えざる縁(11)


投稿者名:tea
投稿日時:(03/ 2/ 9)



 ゴゴアアアアァッッ!!!


 香南が横島に引導を渡そうとした刹那、凄まじい炎が香南に襲い掛かった。背後からの強襲に、思わずその場から飛び退さる香南。炎は横島の鼻先を通過し、所々抉れたアスファルトの路面に直撃する。飛び火により溶解した路面は、濁った液体のような様相を呈した。
 香南が目を剥いて彼方の方向を睨みつける。そこには、陽光を背中に受けながら、ゆっくりと降り立つ二つの影があった。
 おキヌは、思わず両手で口元を覆った。込み上げる感情が、目元に滲んでいた。そこに立っていたのは、正義のヒーローでも白銀の甲冑を纏ったナイトでもない。彼女が最も信じ、最も頼りにする大切な仲間だった。

「どうやら、間に合ったみたいね」
「結構際どかったわよ。狐火の準備しといてよかったわ」
「美神さん!!タマモちゃん!!」

 喜色溢れるおキヌの呼びかけに、二人が軽い笑みを以て呼応する。だが、次の瞬間すぐに険しい顔つきで香南に向き直った。眼前の危機を乗り越えたとはいえ、香南本体には何のダメージもない。楽観はできないのだ。
 横島が身体を払いながら起き上がり、おキヌも表情を引き締め笛を構えた。体勢を整えた四人を見て、香南がどこか楽しそうに鳴鈴を発動する。第二ラウンド開始だ、といわんばかりの顔つきだ。
 だが、美神とタマモの様子がおかしい。二人とも神通棍も構えなければ、妖術を使う気配もないのである。まるで、戦いそのものを放棄しているかのように。

「・・・何のつもり?見学するために此処に来たんじゃないんでしょ?」

 訝しげな表情で、挑発するように香南が言う。だが、それを受けた美神は、哀れみともとれる顔を向けただけだった。場違いな道化を見るかのような憐憫の眼差しに、癇に障った香南の霊力が昂揚する。

「アンタ、何も知らなかったのね。まあ、知ってればこんなバカなことはしなかったか」

 ぽつりとそう言うと、美神は懐から一冊の冊子を取り出した。オカルトGメンの資料室から借り出した、件の資料である。(ちなみに本来は貸し出し不可だが、美神にとっては枝葉のことだ)美神はそれを香南に向けて翳すと、宣誓をするかのように透き通った声で言った。

「教えてあげるわよ、150年前の真実を。アンタが舐めた塗炭の苦しみが、いかに的外れだったかをね」









 妙な気分だった。
 羽毛に包まれているように柔らいだ気分なのに、母の胎内にいるように安らいだ気分なのに。何故、こんなに苦しいんだろう。
 心のどこかが悲鳴を上げている。起きろ、覚醒めろと叫ぶ自分がどこかにいる。
 ここで眠ると、もう二度と目が覚めることはないかもしれない。懸念はある。危機感もある。だが、それ以上の惰性が、壁のように邪魔をし続けていた。ここで終わるなら、それもいい。諦観にも似た思いが、血液と共に全身を巡る。
 声が、聞こえたような気がした。もう遠い過去に聞いたような、やけに懐かしい声だった。

「教え・・・あげ アンタ・・・いかに的・・・をね」

 声が、響いている。だが、もう自分にはどうでもいい。
 心のどこかで自分を糾弾する、もう一人の自分。その叫び声が、少し大きくなった気がした。

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