ザ・グレート・展開予測ショー

彼女との関係・後編……の後編(1)


投稿者名:稀有
投稿日時:(03/ 2/ 9)



 泣いて笑って、そして時に怒って。
 彼女は呆れるくらい、元気に成長していった。







  『彼女との関係・後編……の後編(1)』







  −Good night , battle in the dream !−


 『マジカル・ミステリー・ツアー』――数年前にオープンした、アトラクション。
 子供から大人まで、様々な人が楽しめる、新感覚アトラクションとしてデジャヴーランド内でも人気がある。
 だが、そのアトラクションが公開前に大事件を起こしていたということを知る人はいない。

 ……そして、再び『マジカル・ミステリー・ツアー』に危機が迫ろうとしていた。

「くしゅん!」

 意外と子供らしいくしゃみをしたのは、美神。

「どーしたんですか?」

「誰か、噂でもしてんのかしら?
 ……何か、否定できないようなことを言われたような」

 おキヌの言葉に、釈然としない表情の美神。


 何はともあれ、美神たちは今、『マジカル・ミステリー・ツアー』内に潜入している。
 横には、泣きそうな顔の支配人――後ろには流石に申し訳なさそうなタマモがナイフを背中に押し付けている――と、ピートによって一時的に支配されている作業員たちの姿。

「さあ、獲物は檻の中に入ったわ!
 各人、配置用意!」

((了解!))

 一言の乱れなく、返ってくる言葉。
 それを聞いて、美神はほくそ笑んだ。

(まぁ、アイツを半殺しにしたら、後で特別に私が看病してあげようかしら)

 そんな、美神の思いは――横島に一方的な暴力となって、届こうとしていた。




「ドキドキするねっ!」

「はは……たまには安全なのもイイかもね」

 一方、ひのめと横島。
 普段は身近にありながら、体験することのないGSになれるということで、ひのめはかなりノリノリだ。
 横島も普段と違って、神経を尖らせる心配がないため、楽しみにしている。

「では、御武運を!」

 そんな、入り口の係員の言葉を受けて、二人は中に入っていった。


「ふーん……あれから、また内装が変わったのか」

 二代目(対外的には初代だが)の『マジカル・ミステリー・ツアー』は、前回のお化け屋敷じみた内装とは違って、さらにGSという職業に焦点を当てている。床に霊力を抑える魔法陣が書いてあるのは変わらないが、それ以外は割と近代的な建物然としていた。
 さらには、前回ナビゲートしてくれたメカおキヌやメカ横島はおらず、自分自身の選択により次の部屋が選べるという、凝った造りだ。
 なんでも、基本コンセプトは『プロのGSでも楽しめるアトラクションを!』らしい。

「さて、始めの部屋は……『ゾンビの間』ねぇ。
 ひのめちゃん、気をつけてね。結構、リアルに作ってあるみたいだから」

「うん! いざとなったらお兄ちゃんに助けてもらうから」

 横島の言葉に、かわいらしく腕を前に立てるひのめ。
 二人はそのまま、扉を開けて中へと入っていく。

 しかし。

「――ひのめちゃん、危ない!」

 扉を開けた瞬間、大量の霊波が漏れ出てくる。明らかに、アトラクションとは違った「生きている」霊波。
 横島はひのめの手を引き、自分の後ろにかばった。
 そして、霊波をかきわけるように左手を『栄光の手』に変化――できなかった。

「げっ!」

 慌てて、下を見る。そこには仄かに輝いている、小さな魔方陣。
 横島の霊力は足元の床に刻まれている魔方陣によって封印されていた。

「ま、前から思ってたけど、これはいざという時、問題になるんじゃないかー!」

 横島の絶叫とリンクするように、さらに大量の霊波が横島を襲った。

 そして、爆発。

「んぎゃー!」

「きゃーっ!」

 そして、『ゾンビの間』は一気に光に満たされた。



「ふっふっふ……第一陣はミッションを成功させたようね」

 コントロール・ルームを怪しい笑いが満たす。
 美神令子は堪え切れないように、邪悪な(客観的に見て)笑みを零していた。
 薄暗い部屋内であることも相成って、明らかに子供や心臓の悪い方には見せられない。

「よ、横島さん……大丈夫かな……」

 さすがに不安そうなのはおキヌ。
 ちなみに、今の時点で支配人は進退問題について考えてしまい、卒倒していたりする。

「甘いわ、おキヌちゃん。アイツがこのくらいで参るはずがないわ。
 首尾良く次の部屋に行っているはず。
 さあ、第二陣は準備に入って!」

 キビキビと指示を飛ばす美神。
 的確な指示を出しているのはいいが、横島はともかく、ひのめのことは気にしないのだろうか?

「さあ、ガンガン行くわよ!」

 美神のやけに気合の入った指示がコントロール・ルームに響いた――



「し、死ぬかと思った……
 ――ひのめちゃん、大丈夫?」

 『ゾンビの間』と次の部屋との間の通路。
 ほこりとすすだらけになった横島とひのめがいた。

「うん……お兄ちゃんがかばってくれたから……」

 不安そうな表情でひのめ。
 やはり、普段は活発な少女も、こうしたアクシデントには不安にならざるを得ない。

「どうやら強力な悪霊が出たみたいだな……
 さて、どうしようか……」

 先ほどまでの、「のほほん」とした表情は一変し、GSとしての表情を垣間見せる横島。
 「どうしようか」という言葉も、「どうやって逃げるのか」ではなく、「どうやってこの事件を解決するか」という意味である。

「ひのめちゃん。この先はかなりの確率で危険だと思う。
 文殊のストックを預けるから、これで外まで逃げてくれないか?」

 横島は『転』『移』の文字が刻まれた二つの文殊をひのめに渡す。
 そして、自分はそのまま次の部屋へと続く扉に向かおうとする。

 しかし、その背中にひのめの声がかかる。

「わ……私も行くっ!」

「ひのめちゃん……」

 横島が振り返ると、そこには決意の表情で横島を見つめているひのめの姿。

「お兄ちゃんの邪魔はしないから!
 だから、連れて行って!」

 ひのめの心にあるのは、「ただ護られている存在ではなく、共に支えられるヒトでありたい」という願い。
 奇しくもそれは昔、横島が修行によって文殊を出した時の想いと同じであった。
 だから――その想いを正確に理解している横島は無下に断ることはできなかった。

 無言で見詰め合う二人。
 幾ばくかの時が経ち、ようやく横島が口を開いた。

「分かった……けれど、必ず無茶はしないこと。
 それと、危なくなったら俺はどんなことをしてでも、ひのめちゃんだけは外に逃がすからね」

 横島の言葉にひのめは嬉しそうな笑みを浮かべる。
 今までただ護られてきた少女は、その想いを理解してくれるヒトによって、新たな成長を遂げようとしていた。

「ありがとう、お兄ちゃん!」





 これが後に、GS美神ひのめにとっての「はじめの一歩」となるのだが、今回の話とは関係なかったりする――

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