ザ・グレート・展開予測ショー

FROM DUSK TILL DAWN(後編)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(03/ 2/ 7)


 逃亡中のピートは思う。とにかく、最悪でも朝まで逃げ切れば自分の勝ちだと。

 彼女自身が朝までと口にしていたし、星として封ぜられた強力な霊体が、そうそういつまでも地上をうろつけることも無い筈だ。
 
 織姫はひたひたと、そして確実に距離を縮めつつピートを追い詰める。
 
 相手の実力を見抜けぬピートではない。このままではとてもではないが逃げ切れないと判断し、反撃の狼煙を上げる。
 
 確実に距離を縮めつつ追いかけてくる織姫はすでに、その手の届くところまでに肉薄していた。
 
 それに対し、突如ピートが振り向きざま宣戦布告にして、最大出力の霊波砲を浴びせる。ビル街に盛大な爆音を轟かせて、全弾が彼女に

命中する。

 全く油断せずに気配を窺うピート。はからずも交戦場所となってしまった都心部では、一般人が何事が起きたのかと右往左往しながらピ

ートの周りを取り巻いている。

 立ち上る煙のなかから、織姫がゆらりと現れる。全くの無傷というわけでもないが、ダメージはほとんど見て取れない。
 
 彼女のその様子を見たピートを、じんわりと絶望感が押し包む。
 
 しかし、簡単に絶望し白旗を揚げる程に、彼の精神は軟弱では無かった。
 
 今の彼の目はこの窮境に対し、最後の最後まで足掻き、戦おうとする者の意志の光に満ち溢れていた。
 
 そんなピートの目の光に感心でもしたのか、織姫が満足そうに大声で言う。

「稀に見る強き殿方よ!オリオンとの一夜を思い出す!これはぜひとも、甘美な夜を共にせねばなるまい!!」

 狂戦士の風貌に、ミスマッチなキューティーボイス。その上に今の宣言を聞き、二人を取り巻いていた野次馬達がひそひそと指差しなが

らピートと織姫を噂する。

 その台詞と野次馬達のリアクションに、狼狽するピート。

「なっ!なんて事を言うんですかっ!!」
 
 あまりの台詞に先程までの意志の輝きも消え失せ、方膝をつきそうになる。
 
 その反応を何か勘違いでもしたのか、織姫はピートにとって意外な台詞を吐いた。

「安心せい!契りを交わすにあたり、今宵一晩はそちの望む者の姿でお相手いたそうぞ!何しろ我等には変身能力があるからの!」
 
 その発言に、ピートははっとする。望む相手?まさか、相手の心を読むことで望む者の姿をとるというのか?
 
 それはまずい、ひっじょーにまずい。こんな衆人環視の中で変身されては、いろいろと終わってしまう。
 
 今までの話の流れでは、変身後の女性イコールそういうアレな意味を含んだ女性(小学生が見てるかもしれないから歪曲にね)と、野次馬

達はとるだろう。
 
 あまりの窮地に、だらだらと脂汗がにじみ出る。目の前では織姫が異様な霊気を発しつつあり、明らかに変身する寸前だ。
 
 どうする。どうする。どうする。オーバーヒート寸前の頭に名案が浮かぶわけも無く、ただ今の状況の一因になった煩悩青年を恨みつつ

、女性の事を一切頭から追い出す努力をする。
 
 観念しつつあったピートの前で、織姫の変身が終わった。ピートと野次馬達は、その姿をそれぞれが違う意味を持って見つめた。
 
 その姿は、ピートが最後に恨みと共に強く心に思ってしまった人物。

 『横島忠夫』

 ピートは女性ではないその姿に心の底から安堵のため息を漏らしたが、オカルトに詳しいわけでも今の状況を細部にわたり把握している

わけでもない野次馬達は皆、引いてしまう。
 
 そう、悲しい誤解が今ここに生まれた。
 
 修復不能な溝が、彼と野次馬達の間に横たわる。

「いや・・・あの、みなさん・・・!?」
 
 誰も、誤解を解こうとするピートと目を合わせない。
 
 そして、ここにもう一人誤解をした人物がいた。

「なんと・・・ここまでかたくなに拒んだ理由が、コレとは・・・ふ、ふふふ、面白い…よろしかろう!男と女どちらがすばらしいかを、とくと

この手で教えて差し上げようぞ!」
 
 変身後の己の姿をビルのウィンドウで確認し、意味不明な義務感に燃え立つ横島な織姫。
 
 その大いなる誤解の連鎖という蟻地獄に、釈明する気も失せたピートから突如、高らかな笑い声が流れ出す。

「は、はは、ははは、ははははぁ。」
 
 ピートの高笑いを、思惑有り気に見つめる横島(織姫)。
 
 唐突に一連の高笑いが終わる。
 
 次の瞬間、ピートと横島(織姫)が示し合わせたように激突した。
 
 ピートの渾身の霊力を込めた右ストレートを、同じく右ストレートで迎撃する横島(織姫)。空間がねじれんばかりの力と力が激突し、は

じけた霊波が野次馬達を吹き飛ばす。
 
 いろいろなことから、いろいろと解放されたピートはけっこう強かった。拳同士の押し合いが続く。

「うっ、うぐうっ、うがああああああああ!!!」
 
 裂帛の気合もろとも、横島(織姫)を弾き飛ばす。吹き飛ばされた横島(織姫)は、後方のビルに盛大に突っ込み瓦礫を撒き散らした。
 
 火事場の馬鹿力を絞り出し、ぜいぜいと息をしつつ瓦礫の山を睨みつけるピート。油断は無い。
 
 案の定、瓦礫を押しのけ横島(織姫)が現れた。なんか妙に盛大な戦いに巻き込まれた野次馬達が、息をのむ。

「・・・面白い!望む者を力ずくでというのも、悪くはないっ!!」
 
 横島の姿で高らかに言い放つ織姫。

「僕の体も心も、全ては僕のものだ!誰一人として自由になど出来ないっ!!」
 
 金髪美形のピートの叫び。
 
 突如、ピートが自身の真上に向けて、霊波砲をぶっ放す。思わずそれの射線を追ってしまう横島(織姫)。一瞬だが、ピートから目が離れ

てしまう。その隙を巧みに突き瞬時に霧状に変化、横島(織姫)の背後に出現しつつ霊波砲の一撃を加えるべく手をかざす。
 
 しかし、横島(織姫)の反応が早い。背後のピートに振り向くことなく、その一撃をしゃがんでかわす。ピートの視界から横島(織姫)の姿

が消えた格好になる。横島(織姫)はしゃがんだ姿勢からその場で半回転しつつ、ピートの鳩尾に振り向きざまの掌底を喰らわす。
 
 完全に反応が遅れてしまい、ガードが間に合わずにその一撃をきれいにもらってしまう。
 
 先程とは逆に、今度はピートがビルに突っ込み盛大に瓦礫に埋まる。唯一つ違っていたのは、かなりのダメージを負ってしまった事だ。

「くそっ!くそっ!!くそっ!!!・・・ここまでか・・・」
 
 己の絶体絶命の状況を完全に理解したピートの口から、彼にしては本当に珍しい冒涜の言葉がもれた。
 
 ゆっくりとピートに近寄ってくるその顔は、勝利者の顔をしていた。
 
 思うように体が動かずに、その場に座り込んでいるピートの目の前を横島(織姫)が立ちふさぐ。
 
 観念しうずくまっているピートに、横島(織姫)が立ち上がるようにと手を差し出す。
 
 その行為に、彼と野次馬達はあっけにとられる。

「・・・口惜しいが、ここまでのようじゃ。もうすぐ夜が明ける・・・」
 
 今までの戦いが嘘のように、優しい笑顔を浮かべる横島(織姫)。
 
 見れば、東の空がうっすらと白み始めていた。

「横島さん・・・」
 
 激しい戦闘とダメージの為か、現実と虚構の区別がおかしくなりつつあるピートの台詞。
 
 好敵手との戦いで、お互い何かしら感じるところがあったらしい。
 
 互いに尊敬の念を込め、見詰め合う二人。
 
 夜が白々と明け始め、二人をやさしい光が包み込む。
 
 よく分らないが感動的なシチュエーションに、固唾を呑んで見守っていた野次馬達から拍手が出始める。
 
 やがてそれは大きな渦となり、二人を拍手の嵐が包み込む。
 
 その嵐の中でピートは、横島(織姫)から差し出された手を握り返して立ち上がった。
 

 そして、ようやく現場に駆けつけた対策チームの面々は、その光景を目撃する。


「せめてコレくらいは、よかろう?」
 
 横島(織姫)は握り返してきたピートの手をがっしりと掴むと、そのまま彼を地面から引き抜くように持ち上げ抱え込む。
 
 逃げる暇もあればこそ。
 
 最後の最後で致命的な油断をしたピートの唇に、横島(織姫)の唇が優しく重なる。
 
 どうやら織姫も、変身中であるのをすっかり忘れているらしい。
 
 あまりのことに、白目をむいて気絶するピート。
 
 美しく昇りゆく朝日と嵐のような拍手の中で、ピートと横島の姿をした織姫のラブシーン。
 
 朝日が昇りきる頃、まるで雪で創られた妖精のごとくに、織姫と涙に濡れる彦星は日の光の中に溶けていく。
 
 それは耽美と倒錯の入り混じった、異様な時間と空間であった。

 
 
 後には白目を剥いているピートと、何故織姫が横島に変身していたのかという謎と、その謎から生まれた巨大な疑惑が対策チームに残された。



                     終

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