ザ・グレート・展開予測ショー

FROM DUSK TILL DAWN(前編)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(03/ 2/ 7)


 宝石をちりばめたかのような夏の星座が、明け方近い夜空を彩る。見上げれば、どこまでも落ちていきそうなほどの星空だった。

 あと僅かばかりで朝日が昇り、この星空をかき消していくかと思えば、なおさらに美しく感じられた。

 しかし、今のピートにはその夜空を楽しむ余裕はない。何故なら彼は目の前に立つ人物により、追い詰められていたからだ。

 ピートと同じくらいの身長に、やや細身の肉付。着古されたジーパンに、よれの効いたTシャツ。ぼさぼさの髪をバンダナで抑えている

しまりのない顔。見た目は貧相な坊やだが、追い込まれ満身創痍のピートの姿がこの人物の実力の程を物語っている。

「くそっ!くそっ!!くそっ!!!・・・ここまでか・・・」

 己の絶体絶命の状況を完全に理解したピートの口から、彼にしては本当に珍しい冒涜の言葉がもれた。

 そして、ゆっくりとピートに近寄ってくるその者の顔は、勝利者の顔をしていた・・・



 その日、師である唐巣と共に除霊を終え帰宅の途についていたピートは、紙袋いっぱいに何やら大量の札らしきものを詰め込んだ横島と

偶然出会った。妙に疲れている印象の横島とその手に下げられている紙袋を見比べて、不審に思ったピートが問い掛ける。

「何です?横島さん、その大量のお札みたいなものは?」

 いわく有り気な紙袋を目の前に持ち上げつつ、横島は答えた。

「ああこれか?七夕の短冊だ。そうか、お前には馴染がないわな。要は、願い事を書いた札を竹に吊るすとそれが叶うんだ。」

 じゃあ急いでるからと挨拶もそこそこに、横島はそそくさとその場を後にした。

 その場に残されたのは紙袋いっぱいに詰め込んだ短冊に何が書いてあるか薄っすら分ったピートと唐巣。

 それと袋から一枚だけこぼれ落ちた短冊。

 ピートが落ちた短冊に気が付くが、横島はすでに遥か先の人であった。短冊を拾い上げた彼に唐巣が話しかける。

「むう、この短冊に込められた霊気というか念は・・・数十万クラスのお札並みですね・・・それをあんなに沢山・・・」

「・・・はは、それで疲労してたのかな?・・・いかにも彼らしいですが・・・どうします?コレ?」

 妙に感心する唐巣に、汚物でもつまむようにしてピートが短冊を差し出す。

「ゴミを道端に捨てるのは感心しませんが、かといって教会のゴミ箱にソレを捨てるのもちょっとね・・・」

 さらりとえぐいことを言う唐巣に、苦笑しつつもピートが提案する。

「それじゃあ、そこの竹にでも吊るしときましょうか?」

見ず知らずの、民家の玄関先の竹を指差すピート。吊るされる方はいい迷惑で気色悪いこと甚だしいが、唐巣は反論するでもなくただコ

クリと黙認の相槌を打った。

 夜の支配者たる吸血鬼の能力を最大限に発揮したピートは誰に気づかれる事も無く、短冊を全く何の関係もない家庭の竹に吊るす。
 

 その時、願いは叶った。


 大地を裂こうかという程の轟音と強力な霊気を纏い、二人の目の前に天からソレが降臨した。

 放電現象のような霊気の発光が収まると、そこには一人の人物が立っていた。

 それはまるで、鋼鉄を削りだして作り上げたような顔と体躯を有した彫像のような姿。

 タイトルは『狂戦士』

 地上のいかな存在とも異にする霊波と風貌に、臨戦態勢を本能的にとる二人。

 その二人に『狂戦士』が声をかける。

「わらわを呼ぶ強力な念波を送りしは、そなたらか?」

 その声はその風貌にとても似つかわしく無く、とても甘ったるいやさしい少女のような天使の囁き。声と風貌のミスマッチに、腸の底が

ねじ切れそうな苦悶にもんどりを打つ二人。やるせない気持ちを殺しつつ、唐巣が問う。

「な、何者ですか?あなたは!」

 至極まっとうな質問に、狂戦士は答えた。

「わらわの名は『織姫』!素敵な殿方と一夜のアバンチュールを過ごさんが為、降臨した。」

 至極まじめに答える織姫。どうやら横島の念が篭った短冊とピートの霊気が反応し、彼女の召還の呼び水になったようだ。

 へーそうなんですかと感心するピートと、手近な電柱に何か言いながらボディーブローを叩き込んでいる唐巣。

 織姫の選球眼は瞬時にピートを選択し、その優男の手首をいきなりぐいと握る。

「なっ、なんです?いきなり!」

 たじろぐピート、事ここに至っても自分の未来像が見えていないらしい。

「さあ、そちの期待に応え、朝まで愛に満ちた時間をすごそうぞ!ダーリン!」

 ようやっと、かなりの確率で実現するであろう己の未来像に気が付き、青ざめるピート。貧血寸前のような顔色だ。

 出来れば目を閉じて今の台詞だけ堪能したい唐巣だったが、そういう訳にもいかずに血の巡りの悪い弟子に叫ぶ。

「ピート君!朝まで逃げ切れ!そうじゃなければ、君は…君はお終いだ!!」

 それはそれは格好良く、映画のワンシーンのように叫ぶ唐巣。その声に反応し、霧状に変化したピートが織姫の手からするりと抜け出し

ていく。霧状で表情は分らないが、ピートの近年まれに見る必死さを唐巣は感じることが出来た。

 一瞬の油断で獲物から逃げられた狂戦士・・・もとい、織姫は今までピートをつかんでいた手のひらをじっと見つめ、その手をゆっくりと握

り込む。その顔に笑みが浮かび、愛らしい声質の台詞が漏れる。

「ふふ、わらわから逃げられるとお思いか?・・・今夜は楽しい一夜になりましょうに。」

 言い捨てると、唐巣の方は見向きもせずに逃走したピートを追いかけていく織姫。

 ピートにとって決して負けられない、長くつらい孤独な戦いの始まりであった。
 


「なるほど、理由は概ね分りました。しかし・・・」

 美神美智恵はGメン本部の大会議室で事情説明を一通り済ませると、盛大にため息をついた。彼女の目の前には、唐巣、彦星、西条、美

神事務所の面子。

 ピートと織姫を見送った直後、彼女を追いかけてきた彦星がその場に居合わせた唐巣にアレに心から惚れているとほざいて泣き付き、し

ょう事無しに織姫捜索を手伝っていた。

 その後、A氏のご乱心以来充実した首都の対霊設備で先程からの織姫、彦星の降臨を捉えていたGメンと合流し、Gメンから招集をかけ

られた美神チーム、正確には事の発端である横島と、おもしろ半分でついてきた美神たち女性陣が加わった。

「まあとにかく、どこかの誰かと違いピート君に限っては、間違いが起きることはないと思うんだがなあ。」

 ある人物に聞こえるように言う、西条。

「くっそー!ピートの奴、俺の努力の成果を掠め取りやがって!」

 その台詞を無視して、心底悔しそうな横島。それを呆れて眺めつつ、美神令子が誰にともなく言う。

「でも、伝承の織姫が浮気の虫とはね・・・」

 うんうんと、その台詞に唐巣と彦星意外が頷く。

「その上に、思う女性の姿に変身とはねぇ・・・」

 美智恵が呆れたように呟く。

 差し迫って大規模な霊障といった類ではないので、皆一様に興味本位の雑談に花が咲く。

「でも、何しろ伝説の織姫でしょう?いくらピートでも、もしかして、もしかするかもよ?」

 美神令子の何やらほのめかした言い方に、おキヌとシロが顔を赤らめていやーんなんて仕草をし、横島は悔しがり、西条、美智恵、タマ

モは呆れ、彦星は冗談言わないでくださいなんて必死になっている。

 唐巣は皆のそのリアクションに、猛烈に胸が痛んだ。ああ、ちゃんと最初に織姫の外見を説明しておくべきであったと。

 彼は今回の経緯はちゃんと説明したが、織姫の外見はちゃんと説明してはいなかった。

 第一、何と説明すればいい?


『ぶっさいくで頑丈そうです』


 などとは、仮にも神に心を寄せる身で口になど出来ないが、他に適切な言葉も無い。ああ、どうしたもんかと悩む唐巣をよそに、周囲の

者達のピートを肴にした雑談はいよいよ佳境に入りつつあった。

 これ以上の誤解はさすがにまずいと判断した唐巣が意を決して口を開きかけたが、それをさえぎるように緊急通信が会議室に流れる。

「×××区において、二人組みによる霊能を使用した戦闘を確認。警戒中の人物等による可能性が高い。至急対策チームは急行されたし。

繰り返す……」

 その通信に、おお!というどよめきが起き、唐巣と彦星以外がやる気まんまんの野次馬モードで飛び出していく。

 結局、タイミングを完璧に逃した唐巣はみなの誤解を解けぬまま、一同と共に現場へ向かう。

 唐巣は神に誓う。もしピート救出が間に合わなかったら、彼には何も聞かずやさしく迎え入れてあげようと。
 


                               続く





 

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