また あえるさ
投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 2/ 6)
二人が会ったのは偶然である。
その日、タマモは町内を散策する途中で、駅前のデパートに入り込んだ。そこの地下食品店街で、いなりずしを売る屋台を見つけた。金脈を見つけた気分で、いなりずしをたらふく食べた後、腹ごなしにデパート内を歩き回った。そこで横島に会ったのである。
「よう。お前も来てたのか」
「まあね。あんた買い物?」
横島は、右手に箱がはいった買い物袋をさげていた。
「ああ、クツをな。お前は・・・」
横島はニヤリと笑い、ポケットからティッシュを取り出し、タマモに差し出した。
「口ふけよ。アブラまみれだぞ」
タマモはティッシュを受け取ると、あわてて口元をぬぐった。夢中になって食べていたので、口元のことは完全に失念していたのである。
横島は腕時計に目をやると、タマモを置き去りにして歩きはじめた。
「ちょっと、どこ行くのよ」
タマモが声をかけても、横島は振り向かない。あわててタマモは後を追った。
デパートの屋上にでた。時刻は五時をまわっている。
夕日の赤い光が、タマモを真正面から射た。
横島はフェンスに寄りかかって、夕日を眺めている。光が横島の輪郭をふちどって、その姿を周囲の光景から浮き上がらせているように見えた。
(前にも、こんなことがあったな)
タマモが、事務所での生活に馴染んできた頃である。
「横島、晩御飯だって」
タマモが横島を呼びにきたとき、横島は事務所の屋上で、今と同じように夕日を眺めていた。
呼びかけたのに、振り向こうとしない。タマモはむっとして、もう一度声をかけた。
横島は、ゆっくりと顔を向けて、タマモを見た。
(あれは、間違いなく邪魔者を見る目だった。・・・)
あのときと同じように、横島は夕日を眺めている。
タマモは、横島と夕日の関係については、あまり知らなかった。
自分が事務所に居候するより前、横島と美神たちがアシュタロスという強力な魔族と戦ったこと。その配下の女魔族と横島が恋に落ちたこと。最後の戦いの際、その女性が命を落としたこと。それ以来、横島が夕日を眺めるともなく眺めるようになったこと。
タマモが知っていることといえば、その程度である。
夕方になると、横島は事務所から姿を消してしまう。美神やおキヌも、あえて横島を引き止めようとしない。そのとき、事務所の雰囲気が暗くなってしまうのが、タマモの気に入らないことなのだが、横島本人に理由を問いただすことはできなかった。あの目を思い出してしまうのである。
タマモは、しばらく横島の姿を見つめていたが、やがて歩き出した。
(ジュースでも買ってきてやるか)
近くの自動販売機で、コーンポタージュを二本買った。横島のそばに戻ったとき、すでに夕日は、その体を半分ほど沈めてしまっていた。
「横島」
タマモが呼びかけると、横島は振り向いた。その眼差しの柔らかさに、タマモは、自分でもおどろく程とまどいつつ缶を差し出した。
「ああ、サンキュ」
横島は礼を言って缶を受け取ると、フタを開け、一口すすった。そして、視線を再び夕日に戻した。
(やっぱり、邪魔しちゃいけなかったかな。でも・・・)
タマモも缶のフタを開け、ポタージュを飲んだ。夕日を見つめるともなく見つめる。
「きれいな夕日だな」
「えっ」
横島の突然の言葉に、タマモは文字通り飛び上がった。
「あ、ああ、そうね・・・」
おもわずどもったタマモに、横島は苦笑した。そして、静かな口調で言った。
「また、あえるさ」
「・・・誰に?」
横島は、訥々と語りだした。ルシオラやべスパ、パピリオたちとの出会い。逆天号の甲板から見た夕日。南極から帰った後のルシオラ、パピリオたちとの短い生活。ルシオラと二人、東京タワーで話したこと、そのときの様子。そして彼女が最後に残した言葉。
「信じることにしたんだ。悲しんだり、嘆いたりするのはやめて。可能性はある。・・・もし、何か足りないものがあるなら、自分で探せばいい。俺だってGSなんだから」
横島の目と、言葉の力強さに圧倒されそうになりながらも、タマモはだまって聞いていた。
「美神さんに、またあえた。おキヌちゃんに、またあえた。だから・・・な」
ここまで言って、横島は急に照れた顔をして、声をひそめた。
「けっこう前から考えてたんだけど、なかなか言い出せなくてさ」
すでに日が沈み、辺りは急速に暗くなっていった。横島は、タマモを事務所まで送っていった。
「ありがとう、送ってくれて」
「いや、いいよ。じゃあな」
タマモは、何かを言おうとした。しかし、うまく言葉にはならなかった。
「よこしまー!またあしたねー!」
横島から、短い返事が返ってきた。タマモは帰っていく横島の後姿をみつめていたが、やがて彼の姿は闇に飲まれ、消えた。
今までの
コメント:
- 皆さん、こんにちは。
僕の第二作なのですが、いきなり路線変更ですいません。やっぱ調子に乗って大口たたくべきじゃありませんね。猛烈に反省しとります。
よく使われる題材ですが、皆さんに対抗しようとか、そういうことではありません。僕なりの区切りをつけたかったんです。読んでいただければ幸いです。 (Kita.Q)
- こーゆー静かな雰囲気の中にも、意外な「深み」のある作品は大好きだったりします。夕日を毎日のように眺める横島クンを傍から見るキャラとしてタマモを登用されたことが興味深いです。逆に彼女のように先の大戦とは直接関係ない人だからこそ、横島クンも気兼ねなく自分の胸中を話せたのかもしれませんね。「またあえる」と信じて明日に目を向ける横島クンの意志の強さが彼「らしい」と思いました。そんな横島クンに「またあしたねー!」と声をかけるタマモが可愛らしかったです(爆)。投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- はじめまして、Kita.Qさん
横島君が何げにかっこいいと思ったのは私だけでしょうか?
食べるのに夢中になって口元を油まみれにしていたタマモが可愛らしかったと思います。
しみじみと拝見させていただきました。 (影者)
- ううむ。考えてみれば美神やおキヌとも別れの危機はあったんですよね。
このお話の横島はルシオラの転生を受け入れているのかは判りませんが、少なくとも前向きでいるようですね。
「また会う」希望を信じる横島、その言葉を多少の動揺はしながらも落ち着いて聞くタマモの組み合わせも良かったです。
夕焼けの描写も雰囲気を作り出してくれてて綺麗だなぁと思いました。 (志狗)
- 前回の反省をふまえ、さっそくコメント返しいたします。一応、前回も付け足しで書いておいたんですが。
kitchensinkさん、こんばんは。コメントありがとうございます。前回は失礼しました。・・・いろいろ考えると、タマモしかいなかったんですよ。
影者さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
僕の書いてきた横島、カッコよすぎです。
まあ、そのうち馬脚を現すでしょうが(笑)
志狗さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
読んでいただけて、とてもうれしいです。
先に雪之丞偏を書いて、しっくりこなかったので書き直したのですが、
やっぱりこれでよかったんでしょうね。 (Kita.Q)
- タマモはやっぱり油揚げですよね!口元の油を気付かないタマモに賛成っす。 (えび団子)
- ルシオラのことを忘れる、過去のことにして乗り越えるというわけでもなく、かと言って、囚われすぎるわけでもない。凄い前向きな考え方をする横島がカッコ良いです。
そんな横島を見直すタマモ。
変に萌え萌えな横×タマよりも、ずっとリアリティがあると思いました。 (NAVA)
- むぅ・・・コーンポタージュですか・・・(論点違う)どうして、自動販売機で売ってんだろ・・・?あれ。
邪険にされることに怯えて、ちょっと弱気なタマモ様。前向き思考になった横島君がよかったっす。
また、会えたね、と誰かが言うのを期待して。(私的にテイルズを思い出しました。分からなかったらごめんなさい) (veld)
- えび団子さん、こんばんは。コメントありがとうございます。
いなりずしは小ネタなのですが、賛成してもらえてよかったです。
NAVAさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
願望なんですよね。横島にはこうあってほしい、という。
リアリティといっても、僕ラブコメは書けないんですよ(笑)
veldさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
コーンポタージュは、僕の家の近所では売っているので、使ってみました。
フランス鉄人シェフのやつです。 (Kita.Q)
- いいですね、タマモがタマモらしいです。
大抵の方が書かれるタマモはだれ?これ?といった感じでしたので好感が持てました。 (ヴぁる)
- うい。大変よろしゅうございました。
哀しみを背負う横島と、それを感じるタマモ。切のうございました。
それでも俺たちは生きている・・・
そんな感じがしました。
ジーンと来ますね。 (KAZ23)
- ヴぁるさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
女性キャラを書いたのは初めてでしたが、好感を持ってもらえて良かったです。
KAZ23さん、こんばんは。コメントありがとうございます。
なんとか形にはなったのですが、やっぱり僕はまだまだです。 (Kita.Q)
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