ザ・グレート・展開予測ショー

ルシデジャ♪(一)


投稿者名:パープル遼
投稿日時:(03/ 2/ 6)

ある晴れた夏の日の午後。夏休み中のはずの学校のとある教室で、仲のいいらしい二人の少女が談笑している。
二人とも綺麗な黒髪で、一人は長髪に、もう一人は肩のあたりで短めに切られている。教室には当然だが他の生徒はいない。
少し、その会話を聞いてみよう。

「・・・でも、やっぱり一番は『遊園地でデート』よね!」
「そーゆうもんなの?」
「そうそう、そーゆうもんなの!恋人同士で遊園地でデート!!これぞまさに清く正しい男女交際!!
こーこーせーの青春ってやつなのよ!!分かる?ルシオラちゃん。」

長髪の少女が何事か力説しており、短髪の少女――ルシオラはいちいちうなずいて聞いている。

「・・・じゃ、それでいってみようかな・・・?」
「ふふ、参考になった?」
「ん、ありがと。・・・あ、できればどっか近場の遊園地教えてくれない?オススメの。」
「?・・・もしかして、『東京デジャヴーランド』知らないの?この国最大級って言われてる遊園地なのに。
・・・ここからも結構近いし、そこがいいんじゃないかしら。あ、よかったらガイドブック貸したげよっか?」

なぜか腰掛けていた机の中から『東京デジャヴーランドガイドブック』なる本を取り出しながら言う。
・・・普通は入っていない。というか、その机の中には、ぱっと見なにも入っていなかったように見えたのだが。

「あ、うん、貸してくれる?・・・と、そろそろ帰らなきゃ。仕事あるし。今日は色々ありがとね。」
「どーいたしまして。じゃ、頑張って青春してね〜♪」





数日後。ルシオラは横島の家の前にいた。・・・ちなみにまだ午前十一時頃で日は高い。念のため。
そして、服のポケットには『東京デジャヴーランド入場券』『一日パスポート』が各二枚ずつ入っている。
前日、少ない給料から買ったものだ。・・・少し前までの横島の給料よりはましかなー、ぐらいの額の給料からだ。
雇い主は「アンタは居候なんだから」と言っており――自分からここに住めと言ってきたにもかかわらずだ――ルシオラ自身、あまり金に執着はないし、それで十分生活できているため気にしてはいないが。
まあ、今は給料のことはむしろどーでもいい。問題なのは・・・

「・・・よく考えたら、予定とか聞いてからチケット買うものよね・・・」

明日――日曜日――に一緒に行くつもりだったのだが、横島の予定をまったく考慮していなかったのだ。
知能は十分高いはずなのに、なぜか、たまにこういう間の抜けたことをしてしまう。
なんとゆーか、アンバランスなのだ。彼女は。

「・・・それくらい注意してくれたっていいじゃない・・・」

はっきりと自分のミスなのだが、なぜか友人に文句を言っている。むろん、独り言だが。
そして一つ深呼吸。

「・・・どーか、明日の予定が空いてますように・・・!」

こんこん

「・・・ヨコシマ〜?・・・居る〜?」

ばっ・・・ごそごそ・・・どたどた・・・がちゃ・・・どがぶわあ!!

「ルシオラー!!ついに俺の部屋へ!?さあ、今ならこのアパートには他にだれもいないぞおうっ!!!」
「え・・ちょ・・・まって・・・・・あーもう、雰囲気読めっていつも言ってるでしょーがっ!!」

ごぎんっ

「ぶっ!!・・・なんでやー!!緊張した様子の女が自分の部屋を訪ねてくる・・・これ以上の雰囲気があるかー!!」

横島の叫びを聞き、はたり、と考える。そして言う。

「・・・そーいえばそうかもね。」
「そーだろ!!そーだよな!!とゆーわけで・・・」

めぎゃ

「・・・明日、予定空いてる?」
「・・・は、はひ・・・あひたはひまでふ・・・」(訳・はい、明日は暇です)

さっきまで、なにか予定があったらどうしよう、とか緊張してたのはなんだったのかしら。そんなことを考えながらのルシオラの問いかけに、顔面を歪ませられた横島が答える。・・・顔面は次の瞬間には治ったが。

「あのね、こんな物があるんだけど・・・一緒に行かない?」

そう言い、チケットを見せる。きっと驚くんだろうなあとか思いながら。

「こ、こ、これって、デジャヴーランドのチケットだよな・・・?」
「そうよ。」
「つ、つ、つまりは、一緒にデジャヴーランドへ行こう、と・・・?」
「そーよ。」
「・・・俺は今、ルシオラにデートに誘われているわけだな・・・?」
「・・・そうよ。」

普通聞き返すようなことではない横島の言葉に、最後の返事は少し顔を赤らめて、答えた。

「・・・明日、どっかで待ち合わせして、デジャヴーランド行って、帰りにどっかで食事してそのあと・・・ってヨコシマ、聞いてる?」

むろん、この男がこの状況で人の話を聞いているワケがない。

えへ、えへへ、とかいいながら、だいぶイっちゃてる目つきで、
うふふー、あははー、とか言いながら、コーヒーカップやメリーゴーラウンドに乗っている自分とルシオラの姿を妄想する。しかもスローモーションで動いており、さらには周りがピンク色でオマケにシャボン玉まで浮いている。アホである。・・・まあ、いつものことだが。

ここでほっとくと、いつまでもこのままのような気がするので――さすがに少々引き気味だが――声を掛ける。

「・・・あの、ヨコシマ・・・?
 ・・・・・・・・・・一緒に行ってくれるよね・・・・・?」

正気を取り戻した横島の答えは・・・・・言うまでもないだろう。





次の日。十時頃。ルシオラと横島はデジャヴーランドに来ていた。
ルシオラの服装は、白のワンピースの上に花柄(?)のシャツを羽織り黒のタイツをはいている。(三十三巻「甘い生活!!」参照)
横島は・・・まあこいつにお洒落を要求するのも酷というものだ。

「・・・うわあ、これが遊園地かあ・・・人がたくさん・・・!」
(・・・確かにカップルが多いわね・・・)

手をつないでいるもの。腕を絡ませているもの。二人でベンチに座っているもの。

「?・・・ああ、ルシオラはこーゆー場所初めてか。・・・って、え・・・!?」

ルシオラが横島の手をつかんだのだ。しかも少し赤い顔で。
こーゆーことに慣れていない横島は、らしくもなくどぎまぎしている。

「さ、行こ!」





(・・・頭ん中、まっしろだ・・・)
(・・・なにをすればいいんだろ・・・)

(・・・こーゆー状況に憧れてたはずなんだけどなー・・・)
(・・・ヨコシマもなんかいつもと違うし・・・)

初初しいというか、ほほえましいというか。なんだか、二人は見事なまでにギクシャクしていた。
この二人、出会いが異常だったせいか――種族保存本能がどーたらとかいうことは『ない』と断言できるが――あまりにも普通過ぎるこの状況に戸惑っているらしい。
初め積極的だったルシオラですら、うつむき加減で顔を赤くするだけ。
うまく話題を見つけられず。特になにかアトラクションに乗るでもなく。
ただ園内を――ぎこちなく手をつないで――散歩するだけだった。
二人とも、決定的に経験不足なのだ。・・・説明すら不要なほどに。
ただし、それはそれで楽しい・・・というか恋人といる幸せを満喫しているようであったが。

そんな幸せな時間は早く過ぎるもの。気が付けば結構な時間が経ってしまっていた。

「・・・ねえ、なんか飲まない?」

ふと、ルシオラが横島に――実に二時間ぶりの言葉だ――提案する。そういえば入園してから何も口にしていない。
しかもこの日、やたらと晴れていてどーしようもないほど暑い。
これまであまり気にしていなかった――というか気にする余裕がなかった――のだが、そう言われて気づいた。確かにのどが渇いている。

「あ、ああ。・・・ちょうど店があるし。少し休憩するか。」

店と言っても、小さなワゴンで数種類の飲み物や菓子を売っているような小さなものだが。
そこで横島は――金を払ったのは横島だ。多少はプライドとかそんなよーなモノを持っていたらしい――オレンジジュースとウーロン茶を買った。
オレンジジュースはルシオラに渡す。・・・さすがに砂糖水はなかったのだ。
そして二人並んでベンチに座り、ゆっくりとそれを飲む。
ぼーっと、意味があるようなないような時間が過ぎる。
飲み物が半分ぐらいに減った頃、ふとルシオラが何か思いついたらしく、横島に声を掛けた。

「・・・ねえ、それなに?」
「ウーロン茶だけど・・・」
「・・・甘いの?」
「いや、甘かないよ、ちょっと苦いかな?」
「・・・少しくれない?飲んでみたいんだけど・・・」

ぎしり、とか。そんな音をたてて空間が軋んだような気がした。

・・・少しくれない?飲んでみたいんだけど・・・
・・・少しくれない?飲んでみたいんだけど・・・
・・・少しくれない?・・・
・・・飲んでみたいんだけど・・・

リフレインリフレイン
横島の頭の中でその台詞が飛び回る。

(・・・落ち着け・・・落ち着くんだ俺・・・意味をよく考えろ・・・)

手元を見る。ウーロン茶の入った紙コップ。ストロー。・・・ストロー?
・・・先ほどのルシオラの台詞。そしてストロー。

(・・・かんせつ・・・になるじゃないか・・・)

ぶっちゃけた話、キスぐらいならしている。が、そういうことではないのだ。
この男、今までこんな状況は『あり得ない』と思って生きていた。・・・まあ普段の言動がアレだったから自業自得と言えるが。
その為か、未だにこの『恋人と遊園地に来ている♪』とはっきりとは理解していないのだ。
しかしそれでも、どうにか平静を装い――自分ではそう思っているらしい。十分に硬い動きだが――ルシオラに紙コップを渡す。

「ありがと♪」

ルシオラは礼を言い、それを飲む。若干の渋みとほろ苦さがノドを伝う。

「・・・こーゆーのも、悪くないわね。」

明らかに『いまいちだ』という顔をして、そんなことを言う。
それを見て横島は、ああ何か話題を見つけようとしてくれてるんだな、と漠然と気づく。
無言で一緒にいても楽しいが、やはり何かしら物足りなさを感じていたのだろう、と。

・・・再び歩き出してからはだいぶぎこちなさが減っていた。
いくつかアトラクションに乗ったところ、高速で空中を飛び回ることのできるルシオラが、意外と絶叫系に弱いコトが判明したり、
食事をしようとしたら、ルシオラが出された水に大量のスティックシュガーをぶちまけて変な目で見られたり、
と、割と普通に遊園地を楽しむコトができるくらいに。


・・・そして二人はその看板を見つけた。

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