ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−31


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 2/ 5)




『ねえ?彼女達を助けたくない?
 貴方を助けるために捕まった彼女達を助けたくない?』


リリスの誘惑。


「・・・・・・俺を魔族化させた上に、何をさせようってんだ?」


横島は動じない。
受け継いだアシュタロスの記憶が、経験が、警鐘を鳴らす。

『この女を信用するな』

と。


「あら?気付いてたの?」

ちっとも驚いた顔をせずにリリスが言う。

「朧気に覚えてるよ。
 あの時、メドーサがいたな」

「彼女は貴方に恨みがあって、あそこに居たのよ?」

ちょっとした言葉遊び。
馬鹿は魔神に相応しくない。

「メドーサが魔界に回収されたことはジークから聞いてるよ。
 記憶のリセットをするとか言ってたな。
 いくらアイツが強くても、一度捕まった状態で逃げ出せるとは思えないしな。
 それとも、お前らはそんなに無能なのか?」

「さぁ?どうかしら?
 それで?」

中々に面白い。
自分を、他人を、客観視出来てるみたいね。

「逃げ出した・・・・・・というよりは、敢えてあのままにしておいたってところだろ?
 何かの任務、例えば俺の魔族化のためとかな」

「アシュタロスの記憶を受け継いだのは知ってるけど、思考方法まで受け継いじゃったのかしら?」

「それは肯定と受け取るぞ?」

「お好きなように?」

――――少しも動揺しない・・・・・・か。向こうの方が役者は上だな。

「まぁ、良いさ。
 で、アンタはどうやって美神さん達を助け出そうってんだ?」

生半可な騙しは利かない。
そういう意味を込めての前口上。
それを済ませて、本題に入る。

「簡単なことよ。
 貴方、魔界へいらっしゃい」








―――― エピソード31:fire ――――






「お〜、怖いねぇ。
 アイツは本当に横島かい?」

メドーサが茶化すように、隣の男女に話し掛ける。

「・・・・・・・・」

二人は応えない。
ただひたすらに、横島とリリスの会談を映すビジョン(映像付き通信鬼)に注視している。

メドーサはその様子に肩を竦めて、反対側に座るデミアンに目を向ける。

「この会談、上手く行くと思うか?」

視線に気付いたデミアンが問い掛ける。

「横島の自由意志を尊重しているようで、選択肢は一つしかないのさ」

性質が悪い会談だよ。そう呟いて別のビジョンに視線を移す。

「おーおー?
 GS協会は徹底的にやるつもりかい。
 人間ってのは、魔族以上に性悪だねぇ」

そのビジョンの中では、GS協会直属の特殊部隊が作戦行動中だった。











魔界へ来い?
それがどうして美神達の救出へ繋がるんだ?って顔ね。

「もう一度言うわ。
 魔界へいらっしゃい?」

横島の困惑顔を眺めつつ、今度は微笑を添えて言い直す。

「魔界の軍勢が救い出してくれるってのか?
 今の俺なら、一人で強襲して救い出せるぞ?」

「でしょうね。
 そうしたいなら、彼女達の居場所を教えてあげる。
 でもその代わりとして、先に私の話を最後まで聞いてくれないかしら?」

少し考え込んでから無言で頷き、話を促す横島。

「もし仮に、貴方が彼女達をそうやって助け出したとしましょう。
 その後どうするの?」

「どうするって・・・・・・」

「彼女達が今まで通りに暮らせると?」

助け出すことしか考えていなかった横島にとっては埒外の想像。

「仮にも世界中で指名手配されちゃったテロリスト。
 しかもアシュタロス戦役の英雄達。
 顔が売れすぎて、どこかでひっそりと隠れ住むなんてことも不可能ね」

「だったら!「GS協会の悪事を暴く?」

横島の言うことなど、予測の範囲内。

「個人が世界的な組織に、どこまで対抗出来るっていうの?
 証拠は全部吹き飛んでるわ。
 ただの虚言、妄想としか思われないわよ」

言われて、美神達の信用について考える。

・・・・・・・・駄目だ。某守銭奴がいる限り、信用度は少ない。てゆーか、これ幸いにと陥れられそう。

「それが俺の魔界行きとどう繋がるんだ?」

「例え、テロリスト扱いだろうと何だろうと、彼女達が魔神アシュタロスを退けた英雄であることは間違い無い。
 つまり、人界最高クラスのGS達ね」

「・・・・・・」

横島には話が見えない。

リリスが悪戯っ子のような表情で囁いた。







「さて問題です。
 もし、もう一度アシュタロス戦役が起きたら、人間は、GS協会はどうするのでしょうか?」













「そう・・・・・・」

「残念だけど、霊気構造が目に見えて書き換わってるのねー」

「魔族・・・・・・?」

「ちょっと違うのねー。
 半神半魔なのねー」

「横島さんと似たようなモノですね」

クスッと寂しげに笑う小竜姫。

「横島君・・・・・・無事だと良いのねー」

「大丈夫ですよ。
 横島さんですから」

小竜姫はショックが大きすぎるのだろうか?
自分の身に起きた変化を実感していないように見える。
何となく元気は無いが、それだけである。
疲れてるだけとも考えられる。
少なくとも、取り乱す様子が無い。
しかしその静かさがむしろ怖い。








六道女史は私室で熟考中だった。
娘の冥子はもちろん、美智絵、令子、唐巣などなど。
個人的な友誼の上からも、また、人界・神界・魔界のパワーバランスを考えても、絶対に失われざる人物達。
さらに、魔神級の力を手に入れてしまった横島忠夫を、人界側の陣営に引き込むためにも、失ってはいけない。
にも関わらず、GS協会は何を考えているのか?
奥の手を隠しているのか?

色々な疑問が錯綜し、一向に思考が纏まらない。

フーッ

溜息一つ吐いて、彼女はお茶を啜る。
数日前から続けている工作も一向に成果が上がらない。
時間稼ぎのつもりなのか。
GS協会は驚くほどに頑なになっている。

――――そんなに自分たちの地位と名誉が惜しいのか?!

激しい憤りを抱えつつ、彼女の思考は続く。

使用人が緊急事態を伝えてくるまで。








リリスと横島の会談は佳境を迎えていた。

「アシュタロス戦役の再来。
 GS協会が考えることは、神界への援軍要請でしょうね」

「だろうな。
 人間がまともな手段で、魔神相手に勝てるわけがない」

横島は投げやりに応える。
相手のペースになっているのが気に食わない。
だからといって、会話を打ち切ることも出来ない。

「でも、アシュタロスは先に神界とのチャンネルを封鎖したわ。
 アシュタロス戦役の再来なら、そのくらいの工作も再現しないとね。
 そうなった場合、次の手として人界は、持ちうる最大の戦力を結集することになるでしょう」

「それが美神さん達か・・・・・・」

アシュタロス戦役の再現。
それを聞いた瞬間にリリスの考えは分かった。
分かったが・・・・・・。

「そういうこと。
 魔神を倒すために、人界トップクラスのGS達が集められるでしょうね。
 彼女達を犯罪者扱いした連中がこう言うの。

 『英雄のみなさま!どうか力なき私達をお救いください!』

 ってね。」

「晴れて美神さん達は解放。
 さらに再び英雄へ・・・・・・か」

「まぁ・・・・・・別に本当に攻め込む必要はないの。
 新たな魔神の戴冠!!
 その魔神は人界――――GS協会を恨んでいる!!
 その魔神の最初の仕事は人界攻めだ!!
 そういう噂を流すだけで解決しちゃうこともありえるわ」

「その魔神ってのが俺か。
 結局、俺一人が悪者かよ・・・・・・」

「貴方一人が悪者になるだけよ。
 何の犠牲も払わずに全てを手に入れるつもり?」

「・・・・・・」

熟考・・・・・・というよりは、決断を躊躇っている横島。

リリスは敢えて告げなかった。
例えテロリスト扱いされようが、英雄は英雄であること。
つまり本来は、GS協会とて遠慮すべき人物達であること。
それ故、美神達の発言にはそれなりの信が内外で置かれていること。
さらに一部では彼女達(令子を除く)のことを信じ、真相を探り始める動きがあること。
また、「証拠は無くなった」と言ったが、横島自身が人体実験の犠牲者になったことは紛れも無い事実であること。
協会の資金の流れを調べれば、確実に秘密研究所の存在が明らかになること。

事態は、横島が考えるよりもずっとマシであった。
では、横島がその点に気付かなかったのは何故か。
それはひとえに自分に対する評価の低さである。

自分は英雄ではない。
自分が使える程度だから、便利ではあるが、文珠も大した物ではない。
・・・・・・。
・・・・・・。
女にもてない。

などなど。
例を挙げたらキリが無いほどの低い自己評価が、彼にネガティブな思考を真実とさせた。
ついでに言えば、一連の異常事態。
それが横島本人の正常な思考を妨げる要因になったことは確かである。

余談ではあるが、後年。
先に列挙した項目は令子達を利することとなり、GS協会は解散。
令子達の手によって、新たなGS機関が創設されることとなる。
もっとも、責任を取るべきだった当時のGS協会幹部は全員既に故人となっていたが。



「少し・・・・・・考えさせてくれ」

横島は長い沈黙の末にそう告げる。

「別にかまわないわよ。
 でも一つだけ覚えておいて。
 貴方の決断が遅くなれば遅くなるほど、犠牲が増えることを」

「犠牲?これ以上の犠牲なんてあるかよ・・・・・・」

「そのうち分かるわ」



そう言って、リリスは現れた時と同じように、唐突に姿を消した・・・・・・。












「「お疲れ様でした」」

メドーサとデミアンが、帰って来たリリスに声をかける。

「ただいま。
 ・・・・・・貴女達は労いの言葉は無し?」

リリスの視線の先には二人の男女――――ジークとワルキューレ。

「「・・・・・・・・・」」

「そんな怖い目で見ても駄目よ?
 これは私達――魔界上層部の決定。
 神魔最高指導者の『あの方々』すら黙認している任務なんですからね。
 魔界軍の軍人として、どうするべきかは分かってるでしょ?」

二人の目が更に険しくなる。
そんな二人の様子を遠くから眺めつつ、デミアンが声を上げた。

「GS協会の奴ら、ついに始めやがったぞ」

一斉に視線が設置されていたビジョンに移る。











そのビジョンの中では、六道邸が炎上していた。









今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa