ザ・グレート・展開予測ショー


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 2/ 3)


 季節は流れ、日々は過ぎ、彼女が現れて初めての冬が訪れた。
 依頼を終え、事務所に戻る帰り道、思いのほか長引いた除霊作業の間に降り積もったのであろう雪が、雲の切れ目から僅かに見える太陽の光に、きらきらと輝いているのが視界に入った。
 物珍しげに、白く染まった町を見つめる彼女の顔に、不思議と笑みが浮かぶ。こうしていると、ただの子供のように思えて。

 「おまえ、雪見たことないのか?」

 殺生石となっていた彼女に、前世の記憶はないことは分かっていた。でも、何となく聞いてみたかった。

 「昔の私は見たことあるんでしょうけど・・・今の私はないわ。でも、何となく、懐かしい気がする」

 彼女は雪を掬うと、微笑んだ。

 「冷たい」

 俺は呆れたように言った。

 「・・・そりゃあ、雪だからな」

 彼女は、その雪を、そっと俺の手の上に置いた。

 「どうして、冷たいんだろうね?」

 そう聞きながら。

 「・・・雪だから」

 「そうじゃなくて・・・」

 苦笑して、俺の頬に触れる。ひんやりとした手触りに、少しだけ身がすくむ。

 「冷たい?」

 「ああ、冷たいよ」

 答えると、笑みを浮かべた。屈託のない、幼子の笑み。いつものクールな彼女とは違う、歳相応の、笑み。
 痺れを感じ始め、手に持った雪を静かに地面に下ろす。霙になった冷たい雪の塊は、周りの雪を僅かに湿らせる。彼女の目は、その溶けてゆく雪に釘付けになっていた。
 俺たちは足を止め、その雪を見つめつづけてた。通り過ぎる人たちは皆、俺たちが何を見ているのかを覗き込んで、その度に期待はずれだという顔をして去っていく。
 俺たちは、奇異の視線の中で、それでも、その雪を見つめつづけていた。まるで、その雪が今まで見たこともない程に美しいものであろうかのように。




 「綺麗なものには、刺がある、って言葉知ってる?」

 唐突に、タマモが聞いてきた。顔を上げ、彼女の顔を見る。笑っていた。

 「・・・お前、何でそんな言葉知ってんだ?」

 「勉強してるから。シロと一緒に、学校行くために」

 「そっか・・・、まぁ、知っててどうってこともない言葉だと思うけど」

 というより、どんな時に使う言葉なのか良く分からない。

 「雪は、誰にもその身に触れて欲しくないのよ」

 「・・・?」

 「だから、冷たく接するの」

 「・・・凄い解釈の仕方だな」

 「でも、触れて欲しい時もある。きっと」

 「自分を溶かして欲しいこともあるってか?」

 そ、彼女は頷くと、また微笑んだ。いつもの彼女らしくない。でも、これが本当の彼女のようにも思える。

 「心を、溶かして欲しいこともある、冷たくなっちゃった心を・・・ね」

 そう言った彼女の顔はどこか寂しげで、それでいて、魅力的だった。
 静かに時が流れてゆく。太陽は完全に隠れて、日の光を遮断した雲は、薄暗い世界を形作っていく。―――誰もいないこの場所と、静けさの中で、まるで世界の中に俺と彼女は二人ぼっちになったかのようだった。
 緩やかに、流れる時間の中、しんしんと、雪が舞い下り始める。
 幻惑の世界―――言いようのない切なさが心に染みる。
 雪は溶けてしまうものだ―――どんなに長くとも、明日には消えてしまうだろう。
 きっと、今は一瞬でしかない。今、この瞬間は、思い出にすらなりえないかもしれない。
 それでも、今この時をできることなら、心に留めたい。
 俺の心に、彼女の心に。
 できることなら―――




 「雪は、綺麗だから」

 「ん?」

 「触れるのに躊躇いを覚えてしまうけど」

 「・・・」

 「俺は、触れたい」

 「・・・うん」





 代わり映えのしない毎日の中で

 俺と彼女の関係もまた変わることはなく

 過ぎ去ってしまうのかもしれないけれど

 今、この場所で起こりえた軌跡を

 忘れる事無く生きていたい

 君の心に触れると決めたから今を

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