ザ・グレート・展開予測ショー

Bar Bourbon Street Lullaby 3rd story


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(03/ 2/ 3)

「今日は早めに客が来そうだ」
老バーテンが一言を聞いた新参者のアルバイトがいる。
「あの人の声を聞いたのは初めてだよ」
と、掃除の手を止めた程である。
それを見ていた若バーテンが、今日は急いで準備してくれよと言ったその瞬間。
「やってますか?」
一人の男が入ってくる。
顔を顰めるウエイトレスも可笑しくはない。
B級映画か、アニメにでも出てきそうな鉄の仮面を被った男なのだ。
だが、
「ちょうど一年ぶりですね。お客様」
若バーテンが席に誘導する。
「確か、去年は奥様が後からいらっしゃいましたが。今年は?」
差し出したお絞りが温いのは、老バーテンが早めに暖めていたからである。
「いや、今年は・・」
否定言を発した公彦、メニューに目をやろうとした瞬間。
「どうぞ」
老バーテンが琥珀色のアルコールを持ってくる。
カクテルでもなんでもない無骨なアルコール、ウイスキーロック。
「あぁ、昨年も先ずコレを飲まれましたな」
話し相手である若バーテンも気が付いた。
一年に一回しか来ない相手の嗜好を覚えている事に驚嘆する新参アルバイトではあるが、
「・・貴方様の様な方ですので。覚えております」
聞こえるかどうかの音量で話している。
一度公彦の目を見たが、何時ものように、何が気に入らないのか、ワイングラスを丹念に磨いている。
「・・・・。確かお口直しには、甘い物を好まれましたな」
そういいながら、砂糖を塗したクッキーを持ってくる若バーテンである。
様子を見ていた老バーテンも満更ではなさそうな表情であった。
「ありがたいですね、ふぅ」
一口、最初は苦味が鼻に通るが、あとは極上の水になる。
「もう一杯、如何ですか?と、申し上げたい所ですが」
若バーテンがお替りを躊躇し始める。
「あれっ?どうしたんだろ?」
続けて飲ませるのが巧みな若バーテンにしては珍しいと新参アルバイトは思う。
だが、老バーテンが答えを出す。
「もう、お連れ様が来ますな」
店内は当然の如くバーに似合ったモダンな曲が流れているが、耳を澄ませば、
曲のリズムに合わないテンポがあるというのだ。
「俺には聞こえないけどなぁ。ねぇ」
「そうよねぇ〜こんな早い時間に」
まだ十代はないかと身間違えられそうなウエイトレスも同様なのだが、
最も階段から遠くにいる二人には確実に聞こえるようで。
「ほら、もうすぐだから、扉を開けな」
若バーテンが支持をだしたのだが。
「残念だが、間に合わないようだな」
老バーテンが名残惜しそうに、ワイングラスを磨くのを止めた。
「お邪魔しますよ」
物腰低そうな人物が店内にやってくる。
このバーは場所柄様々な人間がやってくる。会社の同僚、不倫関係のような二人、
中には人生に見切りをつけるのではないかと、思われる人物。
だが、
「いらっしゃいまーっ??」
およそ、神父姿の男が入ってくる店ではない。
神父姿の男にウエイトレスは吃驚するのみである。
「?」
いくらなんでも彼女の態度は可笑しいな、と思う若バーテンであるが、
何か納得したのか、老バーテンは顎に手をあて、唐巣を全身見渡してから、
「お酒は有る程度飲まれると見受けられますが?神父」
「えぇ、ある程度は」
老バーテンのいきなりの発言ではあったが、唐巣神父すんなりと答えてしまう。
このような行為が無礼にあたらないのも、見事としかいいようが無い。
すかさず、若バーテン。
「では、此方がいいかと。『ミモザ』です」
ビールよりはやや高めのアルコールであるが、シャンパンベースのオレンジなので初心者にも呑みやすい。
自ら席に付いた瞬間、お絞りと共に出された。
「こ、これはどうも」
いささか、驚いた唐巣であるが。
「そっか、こういう店だからお前もやってくるのか。公彦」
「そうだな。言葉を言わずに欲しいのが出てくるからな」
とは言っても若バーテンに関してはここまで出来ていないのが去年であった。
「・・・こいつも、そこそこになりましてね。お客様方に揉まれて」
自らのこと、自らの息子が如く、若バーテンの成長をうれしく思いつい口に出したようだ。
あまり表情の変えない老バーテンもこの時ばかりは顔が少し赤らんだ。
それ以上に赤らんでいるのが、唐巣である。
「アルコールや、走ってきた所為ではないのですが・・」
「そうだろうね。貴方からそんな相談があったなんて」
お互いのグラスが空にる。
アルコールの余韻を楽しんでから、公彦が切り出す。
「酔わないと、話せないか?唐巣」
「・・いいや、大丈夫だよ。私にとっては一大決心だからね」
とは言うが、口が重く、なかなか上手く喋れない。
「わからんでも無いがな。確かに」
一度、両バーテンに目配せすると、既にお替りが出来上がっている。
同じ物をもう一度出そう、という魂胆なのか、両手にはウイスキーにミモザ。
だが、
「こういたしましょう」
両手を交差させて、公彦に軽いもの、唐巣に強い物を渡す。
「私はこれを頂こう」
有無を言わさずオレンジ色のアルコールを飲み干す。
したがって唐巣はウイスキー。
「一気に飲まれないよう、お気付けを」
ワイングラスを再度手に取りながら老バーテンが言葉を発した。
それにしたがって、ちびちび飲み始めて。
「そりゃ、私も驚いたよ。若い美智恵君が再び現れたんだからね」
「悪かったよ。誰にも言わないで、ってアイツが言ったからさ」
だからでもなかろうが、唐巣にとって、若干心が若返ったらしく、
「だから、って訳でもないのですが、な。今回の事は」
「そうだろうよ。たとえ、アイツがいなくてもこうなったろうさ」
最も俺に、公彦に相談に乗ってもらうことにはならなかったではあろうが。
「で、問題は何なんだ?誰か反対してるのか?」
若し、反対する輩がいるとすれば、同居人のピート君かと、思うが、
「あぁ、実は令子君なんだよ。猛反発してね」
それを耳に入るや、少し影をみせる公彦である。
「そうかもな。判らんでもない。令子にとってお前は・・」
少し涙ぐんだか。
「父親みたいな存在だからな」
「公彦」
「・・・いや、いいんだ。しょうがないことだし、感謝してるよ」
「厄介な体だよな」
一度咽が詰った時。
「お口直しです。カクテル『エンジェル・アイ』」
洒落た名前にしてはややアルコールのきつい部類に入るカクテルである。
特に女性でアルコール耐性がある人、例えば美神令子にしては嗜好の一品である。
「・・・。しょうがないよ」
ぽつりと。
少し飲んでから、
「それはいい。俺から娘に言い聞かすよ。お前もいい年なんだから、な」
軽くウインクする。
「公彦。君は喜んでくれるのかい?」
なんでそんな質問をするのかと、いう表情になったが。
「当たり前じゃないか。驚いたけどな。お前が・・」
グラスに残ったアルコールを飲み干してから。
「結婚するなんてな」
その言葉に触発されたかの如く、赤くなる唐巣である。
照れ隠しか、ウイスキーを煽った唐巣神父である。
「で、何処の誰なんだい?相手は」
どういう女性か、酔わせて聞き出そうとした矢先である。
老バーテンが、
「仕事中ですが、問題ないですな」
と、ホールに目をやってから、手招きをする。
「はっ、はいっ!」
静かな雰囲気に合わない声を出した、ウエイトレスである。
「えっ?まさか」
新参アルバイトは呆然としており、若バーテンも漸く気が付いたみたいである。
「・・・・。紹介するよ、公彦。彼女が僕の・・連れ合いになってくれる人さ」
どういう出会いがあったのかは判らない。
「やるなー。唐巣こんな美人と」
「あぁ、出会いはそんな珍しいことじゃないんだ」
彼女も交え、説明が始まる。
「・・・俺はそこまでは気が付きませんでしたよ、マスター」
「俺も神父様が来たときは驚いたがね」
そして一度手を止め、唐巣神父を再度凝視してから、
「あいつを幸せにしてやってください。聞けば少々不幸を多く体験しておりますので」
頭を深々と下げた。
「えぇ、約束しますよ」
既に腹の据わった唐巣には迷いはないらしい。
なかなかに可愛いウエイトレスに気のあった新参アルバイトは落胆しているが、
「若いうちの失恋は未来の肥やしさ」
老バーテンがねぎらいの言葉が本日最後の言葉である。
「今日は喋りすぎましたか?マスター」
と、若バーテンが何時間かたった後、二人が席を立ったあと切り出したとき、
こくりとうなずいたのが返事であった。

FIN



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