ザ・グレート・展開予測ショー

KISS♪


投稿者名:人生前向き
投稿日時:(03/ 2/ 3)


「いい加減におきるでござる!!」

 頭の中心部にまで響いた声に、横島は寝ていた布団から飛び出した。 彼の住んでいるアパートの中にとどきそうな声だったが、とどいたとしてもたいした事はないだろう。すでに昼を過ぎていた。 入居当初はいつも片付けていた布団だが、それから数週間後には万年床とかしてしまい、ついにおキヌちゃんが家にこない限り、干しもしないものになってしまった。体は起きているが頭が寝ているためで、横島はふわぁ〜と欠伸ひとつして、着替えを始めた。 

 「ちょ、ちょっと先生、何を脱いでるんでござるか。」

 「ほぇ・・・・。」

 声の主を探そうと、きょろきょろ部屋の中を見渡したがしかし、声を発する要素をもつ物体が見当たらない。 否、あるといえば二つほどある。 一方は無視を決め込み、横島は今にも閉じそうな目を擦り、もう一方の電話を手にとった。 

 《週刊サOデーのコナOに挑戦、新たなる名探偵横島忠夫、怪事件に挑む!! やっと俺も主役をはれるのか。 GS世界では主役っていってたって、名前から言ってあの女だったんだもんな。 やっと俺の時代がきたか!!》

 なんてことはあるはずも無く、耳に受話器を当てても何も聞こえない。 空耳かと、横島は再び服を脱ぎ始めた。

 「先生!!ここでござる。」

 「シロだよな!? 声の主を探そうともすでに見つけている・・・・・あえて無視をしたかったのだが。 垂直に見下ろすとそこには以前に見たことがある、俺の牛丼を盗もうとした不届き者がいるのだ。はぁ〜」

 「あ、あの件は忘れてくだされ。」

 「で、なんでお前は子供バージョン・・・い、いやいい、なんとなくわかる気がする。それでなんで俺の部屋にいるんだ。」
 
 面倒事になると横島の獣的第六感が告げている。だから敢えて無視を決め込んでいたのだが。 この怪事件はどうせ厄珍関係だろう。横島は頭を抱えた。最近になって横島は厄珍の嘘を吐くときの癖を知り、被害から免れるようになったのだ。厄珍はいい実験体がいなくなったと嘆いたが束の間、今度はシロに被害がいくようになった。 厄珍曰く「消去法ある。」らしい。 美神はまず無理、おキヌにやろうとも罪悪感を人一倍感じる、タマモは論外、引っかかったとしても後の仕返しが怖い、ということで人をまず疑わないシロに白羽の矢が立った。

 「厄珍殿から頂いた薬を飲んだら、グググってこうなっていたでござるよ〜」

 「それはわかったから、何故お前がここにいる。」

 「あのバカ狐が、あのバカ狐が・・・うわぁ〜〜〜〜ん。」

 「おい、泣くな!」

 「だってあのバカ狐がぁ〜うわぁ〜〜ん。」

 横島はとりあえずシロを落ち着かせ、話を聞いた。要約するとこうらしい、厄珍堂にお使いに行ったシロは、厄珍からなんらかの薬というのをもらった、家に帰ってそれを飲むと背が縮んだ、その姿をみられタマモにバカにされた、怒ったシロはタマモにむかっていったが霊力も全て下がったらしくケチョンケッチョンにやられた、そして事務所を飛び出しここに来た。

 「で、休日寝ていた俺を起こしたのか、・・・・・あほらしい。」

 「きゅ〜〜ん。」

 「いつもいつも尻拭いされる身にもなってみろ。」

 「面目ないでござる。」

 横島はしょうがないと立ち上がり、アパートを出て厄珍堂にむかった。アパートから厄珍堂まで二駅というところだ。駅に着いた横島は電車を乗るのにシロの姿をみて子供料金の切符を買った。 それに気がついたシロはグイッと横島の袖をつかんだ。

 「先生、ちょっと待つでござる。」

 「なんだ?」

 「なんで子供料金なんでござるか。」

 「背ぇ見りゃ子供だろう。」

 「拙者は大人でござる!!」

 「わっバカ、大声出すな。」

 慌ててシロの口を塞ぐが時すでに遅く、横島の背中に回りの視線が突き刺さる。『こいつって、何でこんなに要領悪いんだ。』横島は子供料金の切符を駅員に渡すと、買い間違えましたと言い、大人用のものに交換してもらった。 電車は意外にもすいていて、座席に深く腰をかけた。隣を見やるとシロはどこか元気が無く、うつむいていた。彼女の場合、感情の起伏が激しく表にでるので読み取りやすいのだ。ある意味タマモと正反対である。

 「先生?」

 「あん、」

 声をかけようとしたときに、逆に声をかけられ戸惑ってしまった。

 「先生は拙者を子供だと思うでござるか?」

 「・・・・・・・・・・。」

 答えられなかった、答えてしまうと守っていた何かが壊れていきそうだった。シロの気持ちには気づいている、しかし・・・・。横島とシロはそのまま押し黙り、目的地に着くまでのあいだ、お互い口を開かなかった。
 

 「あいやぁー悪かたあるよシロちゃん。今、解毒剤持てくるあるから、ちょっと待ってるあるよ。」
 
 厄珍堂の厄珍、今考えると言葉遣いまで胡散臭いもんだな、何でこんな奴に俺はいつも引っかかっていたんだ!横島は奥へと下がっていく厄珍の後姿に溜め息をひとつ洩らした。 

 「そういえばシロ?」

 「・・・・何でござるか。」

 「お前、厄珍から何の薬貰ったんだ。」

 「ッ、先生には関係ないでござるよ!!」

 いまだ機嫌が直ってないらしい、横島はわざとらしく肩を落とした。 少し待っていると厄珍が戻って、これあるよと、シロに怪しげな小瓶を手渡した。横島はシロの手からそれを奪い去ると厄珍の眼前に持っていった。

 「厄珍、これ飲んでみろ。」

 「え、あ、あいや〜・・・ちょっと間違えたみたいあるよ。この頃ボケちゃってきたあるよ。」


 そういうと再び奥へ下がっていき、今度はちゃんとした解毒剤を持ってきた。横島は持ってきた服をシロに渡すと、シロは何も言わずにそれを受け取りと奥へと着替えにいった。シロの体も元に戻った後、横島はバイトがあるため、シロと二人で事務所に向かう。電車に乗ろうにも、一人分の電車賃が10円だけ足らなかった。さっきの大人料金でかぁと、少しばかり悔やんだ。しかし厄珍に借りるのも怖いため、事務所までの距離を歩くこ
とにした。
 シロはまだ機嫌が直ってないらしく、横島の数メートル後ろから彼の後をついてきてくる。 横島は足を止め振り向くと、それに合わせたようにシロの歩みが止まった。泣いていたらしい、目にほんのり赤みがさしている。

 「・・・・・・・・・・シロ。」

 「・・・・何でござるか。」

 「もう少しだけ待ってくれ。」

 「・・・・・・・・。」

 「俺は・・・・。いやなんでもない、さっさと行くぞ!」

 横島は零れてきた涙を見せぬように、シロに背を向け再び歩き始めた。俺は何を言ってるんだ。横島は指で目頭をおさえた。そして先程より少し早足で事務所に向かった。一刻も早くこの場を立ち去りたかった。自分が軽率であったと。
 
 事務所まで後数百メートルのところ、いつもの弟子の声が横島の耳に入る。

 「先生ぃ!」

 シロはそういうと、横島の首に手を回した。背中から弟子の温かみを感じる。

 「ルシオラさんは美人でござったか。」

 「・・・・あぁ。」

 「ルシオラさんは先生を愛していたでござるか。」

 「あぁ。」

 「せ、先生ぃはルシオラさんを愛して、ルシオラさんを、愛していたでござるかぁ。」

 嗚咽の混じった最後の質問。横島は数秒間をおくと、口を開いた

 「愛していた。」

 「先生ぃ〜拙者は、拙者は!」

 「ルシオラは輝いていた。いや、俺の中で今もまだ輝いてる。・・・・・だから俺のそこらへんの・・・・。」

 「だったら、だったら拙者も輝くでござる、先生の中で、先生のために、先生が好きだから!!」

 無茶苦茶な言葉であった、しかしそれは横島の心を溶かしていくような熱い言葉だった。

 「ルシオラは美人だぞ。」

 「拙者も美人になるでござる!」

 「ルシオラは朝っぱらから散歩しよういわないぞ。」

 「せ、拙者もいわないようになるでござる。」

 「ルシオラはキスしても嫌がらなかったぞ。」

 「拙者も・・・・えっ!?」

 横島は首に絡められたシロの手を優しく振りほどき、後ろを向くと、言葉を失ったシロの体を抱き寄せ、そして唇を重ねた。シロは横島の突然の行動に、目を見開いた。そして、ゆっくりと目を閉じそのまま横島に体を預けた。




 「あぁ〜〜あんた達なにやってんのよ!?」

 いきなりかけられた声に、お互い慌てて体を離し、声のほうを見るとタマモが仁王立ちで彼らを睨んでいた。

 「せっかく私が心配してみに来たら、お楽しみのところ申し訳ありませんね!!」

 「心配してきてくれたのでござるか。」

 「は、はぁ〜、な、何いってんのよこのバカ犬!」

 「お、狼でござる!」

 いつもと変わらない二人に横島は笑みをこぼした。そして事務所のほうへと小走りした。

 「さって、バイト!バイト!」

 「先生、置いていかないで下され〜!」

 「ちょっとヨコシマ!!」

 《やきもち焼くなよルシオラ。》

 後ろから追いかけてくる二人を見やり、胸に手をやり小声で呟いた。







 「そうそう、そういえばシロのやつに何の薬を上げたんだ。」

 「『大人になるる君』あるよ」

 「何じゃそりゃ?」

 「飲んだらその人の成長速度を上げる薬あるよ。まぁ失敗だたあるがな」 

 「そっかぁー・・・・・」

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