ザ・グレート・展開予測ショー

二人の晩飯


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 2/ 1)

 
 鍋の中には、長ネギ、白菜、人参、糸こんにゃく、それに上等とはいえないが、大きな牛肉が下地とともににたっている。
 脂の焼ける香ばしいにおいが、狭い部屋にこもっている。
 「へっへっへ、美味そうなにおい!」
 横島は、おもわずツバを飲み込んだ。雪之丞は、台所の冷蔵庫からビールを数本持ってきた。横島に一本手渡し、自分の缶のフタをあけると、中身を鍋に注ぎ込んだ。
 「あ!てめ!やめろよ!」
 「この方がコクがでるんだよ」
 半分ほど注ぐと、今度はハシで鍋の中をかきまぜはじめた。
 「かきまぜるなよ。煮えたのと煮えてないのと、ゴチャ混ぜになるだろ」
 「食うとき、確認すりゃ問題ないだろ」
 雪之丞は、さっそく湯気の立った肉をハシでつかみだし、口に入れた。
 「うん、うめえ」
 「乾杯の前に食うなよなあ」
 横島は苦笑しながら、自分の缶を差し出した。雪之丞も笑い、乾杯を交わす。

 「今のうちに渡しとくぜ。お前の取り分だ」
 雪之丞は、懐から札束を取り出し、横島に手渡した。
 「きっちり24万円。あるだろ?」
 「ああ、確かに。・・・これで自動車学校に行けるよ」
 「免許か。俺もとっとかないとな」
 「あれ?お前、香港で・・・」
 「ありゃ偽造免許だ。これからは、そうもいかんだろ」
 横島は苦笑したが、胸の内は複雑だった。偽造免許の話ではない。
 (この仕事、美神さんには内緒なんだよな)
 高校を卒業し、もはや仕送りはない。しかし給料は上がらない。
 貯金どころか、家賃の支払いにも難渋するようになっていたとき、雪之丞が声をかけてきたのである。
 「今度の仕事なんだけどよ。手伝ってくんねえか?」
 雪之丞は、昨年、特例でGS資格試験を受験し、見事合格した。しかし、仕事はなかなか入ってこない。魔族の手先だった前歴も災いした。結局、危険な仕事に首を突っ込まざるを得ず、横島に助太刀を求めたのである。これで三度目である。
 横島にとっては、渡りに船だった。しかし、違法である。たとえ違法でなくとも、美神はけっして許さないだろう。だが、横島は断らなかった。
 充実感が違うのだ。事務所の仕事とは違う。
 対等な仲間と、敵を分析し、自分たちの責任で作戦を練り、命を賭けて仕事をする。経験値がまるで違ってくるのである。
 (やっぱり、俺も、いつかは独立したいなあ)

 すき焼きをほおばる横島を見つつ、雪之丞は、ある言葉を言おうとしていた。
 「お前さ、・・・俺と組まないか?」
 共に仕事をしてみて、雪之丞は改めて横島の能力の高さを実感した。敵に突っ込みがちな自分を、意外にも冷静にサポートしてくれる。それに、(女さえからまなければ)一緒に仕事をしていて気持ちがいいのである。
 だが、いざとなると、言い出せない。
 横島には横島の人生がある。事務所にも義理があるだろう。それに、「組む」という言葉も、どこか安っぽい気がして、どうにも言い出せないのである。

 「あらかた食っちまったなあ」
 「あとは雑炊にでもするか」
 「オッケー。冷飯あるぜ」
 肉エキスをたっぷり吸った下地と、少し野菜が残った鍋に飯をいれ、卵のとぎ汁をかけてフタをし、さらに煮込む。
 結局、二人はメシ粒残らず平らげてしまった。

 「今夜どうする。泊まっていくのか」
 「ああ、そうするよ」
 「布団は押入れの中。自分でしけよ」
 ふと、横島は窓をあけた。雲ひとつない空に、きれいな月が光っていた。


                  

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