ザ・グレート・展開予測ショー

ぬくい理想 前編


投稿者名:人生前向き
投稿日時:(03/ 2/ 1)





 何故ルシオラを選ばなかった、横島忠夫? 


   他にもたくさん大事な人がいたから。


 ほんとにそうか?


   ・・・他に何がある!


 ほんとにそうか?


   ・・・・・・・・。


 ほんとにそうか?


   ・・・・・・・・・いや、違うかもしれない。


 では、あらためて問う。何故シオオラを選ばなかった?


   怖かった


 何故シオオラを選ばなかった?

  
   怖かったんだよ、俺一人のためにみんなが
  犠牲になるのは!! それにルシオラが・・・


 ルシオラなら俺を選んだだろう。


   違う、それは俺の思い上がりだ!!

 
 ルシオラなら必ず俺を選んだだろう。


   ・・・・・・たぶん、俺の思い上がりだと思う。


 では俺はこれから何をする?


   俺は、俺は・・・・・・・・俺のできることって何だろう? 



 



 今日こそはと、勇み足で事務所に入ったはずだった。

どうやら除霊の依頼が急にはいったらしく、いつもはさほど動くこと

をしない美神さえも慌ただしく準備をしていた。その状況から大金が

かかっている仕事だということを瞬時に悟った横島は、どうも自分は

運というのに見放されている、と心の中でぼやいた。 その場で立ち

つくしている彼に美神は、「急な仕事がはいったの、早く用意して!」

と歯切れよく言い放った。 彼女の徴集の言葉に、切羽詰まった雰囲

気に、ついつい飲まれてしまったようだ。 そして流されるだけ流さ

れて、事務所に帰ってきたのは、時間でいうと夜の8時を過ぎていた。




 タマモとシロはまだまだ動ける元気があるのではないだろうか、先の

除霊での失敗をお互いに擦りつけ、いがみあっている。 おキヌは、ソ

ファーにグデッとだらしなく寝そべっている美神にお茶を淹れるためキ

ッチンへとむかった。 横島はいつ話を切り出そうかと、しきりに時計

を気にしていた。 危いところもあったが、横島は今年めでたく高校を

卒業した。 成績の関係か、彼はもとより大学を受ける気がなく、する

気さえないが独立するにも資金がなく、それならばと、美智恵は、オカ

ルトGメンに入隊しないかと、正式にスカウトにきたのだが、横島はそ

れをも断った。 そしてそのまま事務所に居座る形になった。 一度は

美神が正社員として雇うと言いだしたのだが、横島自身、思うところが

あり逆鱗に触れぬよう丁重に断り、それ以来、その話はでてこなくなった。

 

「横島くん。」


「あっ、はい!」


「もうあがっていいわよ。それ以上いても時給に換算しないから。」


「は・・・はぁ。」


 しきりに時計を見ていたのに気がついたのであろう美神の言葉

に、体がビクッと反応したが、的を射ぬ指摘のため横島は胸を

撫で下ろした。 早く言わないと、と横島は切り出すタイミン

グを見定めているのだが、心が一歩足を出さない。


「せんせい〜、どうしたでござるか?」


「そうよ、妙にソワソワしちゃって。」


「いや、その、ちょっと・・・」


「ちょっとヨコシマ、漏らさないでよ。」


「ちがうわい!!!」


 クスクスと笑いながら、おキヌは美神にお茶を差し出す。


「性悪狐、先生を馬鹿にすると許さないでござるよ!!」


「ヨコシマも大変よね、こんなバカ弟子拾っちゃって。」


「きょうときょうは許さないでござるよ!」



 右手に霊波刀をだし、シロはじりじりタマモのほうへ歩み寄ってい

く。タマモはというと、どうせ美神かおキヌが止めるだろうと、椅

子に座りファッション雑誌を手に取ると、あたかも無視したかのよ

うな挑戦的な態度を取った。ますます怒りが増したシロはタマモの

ほうへ飛び掛ろうとしたときだ。タマモのばかげたからかいのおか

げで、少しばかり心臓の鼓動が静まった横島は、今とばかり、気を

引き締め、口を開いたところだった。



「俺、バイトやめます。」


 突然の言葉に、一同あっけに取られ横島のほうを向いた。 流れる

沈黙、流れる時の音がチクタク聞こえる。 人間はこういうとき限

って時間の流れを感じるものだと思う。その時間の流れを惜しむか

のように横島は、足りなかった言葉を付け足しながら、もう一度口を開いた。
 


「俺、このバイト辞めようと思います。」



最初の言葉が聞き間違えだと思った美神は、二度目の言葉を聞き立ち

上がった。



「ちょ、ちょっとそれどういうことよ!?」



 美智恵から忠告があったのはだいぶ前からである。「彼、令子のとこ

辞めるかもしれないわよ。」そんな美智恵の言葉を、はいはいと、美

神は軽く流した。 唐巣神父も美神にさえ言わなかったが、薄々それ

を感じ取っていたため、最近よく事務所に顔を出しにきていた。 し

かし美神は、辞めることなんてあるわけない、そう信じこんでいた。

 おキヌにしても、シロにしても、彼女と同様、横島が辞めるなんて

たちの悪い冗談としか考えなかった。


 

「いやぁ〜、ちょっと他にバイト見っけちゃって、 駅前の来来亭っていうラーメン屋なんですけど、 なんでもバイトが倒れちゃって人手不足らしいんですよ。 それで頼むって頭下げられちゃって、どうにも断れなかったんすよ。」



「よ、横島さん、辞めちゃうんですか!?」



「せ、せんせぃ・・・・・・・・」




 おキヌは切羽詰まった声をあげた。 シロはシロで、彼のいきなり

の発言に混乱とし、言葉を紡ごうとしてもどこかでほつれてしまい、

上手く喋れない。


 
「ねぇ、そこのラーメンって美味しいの。」



 場違いの言葉に、皆が一斉に声の主のほうへ視線を移す。


「ちょ、ちょっとタマモ、アンタ何いってんのよ!?」


「そ、そうでござる。」


「た、タマモちゃん。」


彼女たちを無視して、タマモは目を澄ませ横島のほうをむいてい

る。 横島はというと、彼女の言葉にあっけにとられ、目を丸く

させた。 


「そこのラーメン美味しいの、美味しくないの?」



「あ、あぁ、うまいぞ。 俺が今まで食べた中であそこのラーメンが一番うまかったぞ。」


「そぅ、じゃぁ私寝るわ。おやすみ」


「この、バカ狐!待つでござる。」


「タ、タマモちゃん、どうして。」


「なに? たかがバイトが辞めるだけなんでしょ。」


 皆、言葉が出なかった。 そう彼は時給255円で雇われてい

るバイトなのだ。 正社員でもなく、ましてや家族などではない。

 美神はこのときになってやっと気づいた。彼が正社員とならなか

った理由が・・・・・・・・・・。
 

「でていって。」


「はい、いままでありがとうございました。」


「早く出て行け!!」


美神は俯いたまま、横島の顔を見ようともしなかった。 横島は一礼

するとタマモの脇を通り、部屋から出ていく。


「横島さん・・・」


「せんせい・・・」


 振り向けば気持ちが揺らいでしまう、そんな気がする。 
横島は振り向かなかった。 その後ろ姿を一瞥すると、タ
マモは横島に声をかけることなく屋根裏へと上っていった。 
 玄関のドアを開けると、生温い風が彼を待っていた。 虫
たちはすでに夜のコンサートを始めている。 いつもはうっ
とうしさを感じる音色も、今日はあらためて聞くと、音さえ
合っていないが、その一節一節が心に染みわたる。しかし見
上げる事務所だけはいつもと違い、妙に冷たさを感じる。  


《横島さん、どうかご無事で。》


「人工幽霊一号?」


《私はあなたが探し求めている答えがどこにあるのか知りません。 少しでも横島さんの力になりたいのですが、それもままならず、 自分の無力さが悔しいです・・・・・。 しかし私ができることがひとつあります。 あなたが再びここに帰ってこられたとき、お帰りなさいませと、言うことです。》


「・・・・・・・ありがとう。」


 見抜かれていた。 体さえないが温もりのある人工幽霊一号。
横島は頭を垂れた 。彼の目には自然と涙が湧き出ていた。 歪
むアスファルトには、ポツリポツリと、黒い斑点ができる。 


「ありがとう。」


精一杯、声を振り絞って、もう一度言った。 













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