ザ・グレート・展開予測ショー

帰ってきた横島 ―14―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 2/ 1)

男と女が恋をした。
それは、少しのきっかけから始まった恋。
その時2人を取り巻く状況は複雑だった。
およそ、結ばれる事など不可能と思えるほどに。
それでも2人は求め合う。

―― 求め合ってしまった ――

「ルシオラは・・・ベスパとパピリオの姉妹の、一番上の姉でな?あ〜・・・実は最初、3人はアシュタロスの陣営に居たんだわ。」
「敵だったの?」

横島の説明に、タマモが少し眉をひそめる。

「ま・・・・・・な。アシュタロスは上級魔族なんで、下っ端魔族を生み出す事が出来るんだそうな。で、前回の戦争の時に生み出されたのがルシオラ、ベスパ、パピリオの3人だった訳だ。」
「ふむ。だが、こうして今ここにおると言う事は・・・どこかでこちら側の陣営に寝返ったと言う事でござるか?」

自分たちの事に説明が及び、流石に顔色が優れないベスパとパピリオを見ながら、シロはそんな質問をした。

「おまえな〜、ちょっとは言葉を選べって。それにな、そんな単純じゃ無いんだよ。」



女の想いはささいな、一時的なモノのはずだった。
男の想いは同情と欲情だったはずである。
だがしかし、どこかで歯車は噛み合ってしまった。
男と女の想いは融けて混ざり合い、一つの想いに昇華する。
お互いがお互いを、求めて離さないほどの・・・

―― ただ唯一の想い ――



「詳しい経緯は省くけどさ、俺はスパイって事で3人に近づいたんだよ。そしたらな、まあ・・・・・・なんて言うか、思いがけずこいつらと、結構仲良くなっちゃってさ・・・ははは!俺らしいだろ?」

横島はおちゃらけて話しているのだが、対照的に他の者の表情は優れない。
彼がこの時に、どれほどの思いをしたのかを知っているから。その気持ちの全てを知る事は出来なくても、少なくとも彼に何が有ったのかを知っているから。
だから、彼がこんなに明るくいられる事を素直に凄いと思える。
そう、彼は・・・・・・・・・彼はまだ20歳にも満たない程度の年齢だと言うのに・・・

「特にさ、ルシオラとは・・・・・・なかなか良い感じの仲になってな、それで・・・」



それで横島は、彼女にある約束をした。
決して結ばれる事の無い、2人の運命を変ええるために。
直ぐに閉ざされる予定だった、彼女に未来を示してやる為に。
これから先、何度でも・・・・・・
共に夕日を見る為に。

―― 俺がアシュタロスを倒す ――



「口説いて、こっちの陣営に引き込んだんだよ。ついでにパピリオも。でも、結局ベスパだけは口説けなくてなぁ〜・・・・・・」
「口説くってアンタ・・・」
「せんせい・・・・・・・・・見境無いでござるな。」

緊張感の無い横島の説明に、とタマモとシロが少し呆れた。流石に、重い話をしているという事ぐらいは2人にだって分かると言うのに、横島のその態度は余りにそれとかけ離れている。
おそらく、意図してやっているのだろうとは思いつつも・・・・・・この説明は、それはそれで確かに横島らしい。

「ただ、・・・・・・・・・姉妹どうしで戦わせちまってな・・・ちょっと反省してる。」

そこでまた、横島の表情が少しだけ辛そうなものになった。

「アタシは・・・アタシとルシオラは全部納得してああしたんだから、別にポ・・・横島が気にする事でもないさ。ただ、な・・・」

そう言って、ベスパは隣に座っているパピリオに視線を向ける。
譲れないモノをかけて、お互いの惚れた男の未来の為に袂を別った2人と違い、パピリオはただそれに翻弄されたという感が否めない。
横島も、ベスパもそれを酷く気に病んでいた時期があった。今でこそパピリオとも腹を割って話もして、気まずさのようなモノは払拭されているが・・・
それでもたまに思い出すと、やはり・・・・・・それは哀しい。
そんな、ベスパの視線が語る事にパピリオは気づく。

「ま、それはしょうがなかったでしゅ。ベスパちゃんもルシオラちゃんも、どっちも一筋縄で行かない頑固者でしゅからね。確かに、大人気ない姉妹喧嘩に巻き込まれた私は可哀相な美少女でしゅけど、これも不出来な姉を持った妹の宿命だと思って諦めてるでしゅよ。パピリオは物分りの良い大人でしゅからね。」
「なっ?!パ、パピリッ!?おまーーっ!そゆ事ゆーかっ?!!」

だからこれはパピリオの優しさ。

「は・・・ははは。ま、とりあえずその辺にしといてくれ。続き有るからさ・・・」
「にょほほほ〜♪」
「むきぃーーっ!!」

沈みそうになる雰囲気もまた凪ぎ、横島は膝の上の赤ん坊を一撫でして話を続けていく。

「そんな中でさ、俺・・・・・・ちょっとヤバイくらいの大怪我したんだわ。霊基構造が半分くらい死滅しちまったらしくて、そのままだったら直ぐに死んでたらしい。」

その怪我を負わせたのかが誰か、と言う部分に横島は触れなかった。

―― ゴクッ ――

横島が死にそうになった、という所でシロとタマモが唾を飲み込む。それは、いつもの横島の態度からは想像しにくい物だったからだ。
2人の頭の中には、美神にいくらど突かれても酷い目にあわされても・・・・・・何だかんだと喚きつつも結局のところ、命と言う観点から見れば平然としていた横島の印象しかない。

「その、死滅した霊基構造をさ・・・・・・ルシオラが自分のモノで代用してくれたんだよ。そのおかげで、俺は生き残る事が出来たんだ。」

その代償は大きい。

「その所為で・・・・・・・・・・・・ルシオラは消えちまった・・・」
「!!」
「!?」

シロもタマモも、その台詞に愕然とする。
初めて知る横島の過去。横島の想い人が、横島の為に自分の命を使ったという事実。
想い人を無くして後の、横島の生きてきた人生を思って。
それは一気に・・・

―― ホロッ ――

示し合わせたように同じタイミングで、シロとタマモの頬を涙が伝って落ちた。

「うあっ!?おっ、おいっ!?な、泣くなって・・・・・・すまん、この辺は話さない方が良かった?あ〜・・・俺も気がまわんらんから・・・」
「うっ!ち、違うでごっ!ひっ!違うでござるよ・・・・・・せんせいは、ううっ!せんっ、せんせい・・・うあぁぁ!」
「なによ、アンタっ?!ひっ・・・あんなに、あ・・・あんなに軽そうに見えて・・・ひっく、ひっ!そんな重い・・・ひっ・・・・・・」

涙を流しているのはこの2人だけだが、他の者にもこの話は堪える物のようだ。
おキヌとヒャクメは今にも貰い泣きしそうな表情をしている。
小竜姫とワルキューレは努めて無表情・・・それが逆に2人の感情を語っているように見えた。
美神母娘も、表情がさえない。この2人は特に、横島を追い詰めたという自責の念が強いのだ。自分、もしくは自分達母娘が横島の幸せを奪ってしまったと思っている。
そんな中で、以外にも一番平気そうなのがベスパとパピリオの姉妹だった。

「ほらほら、まだ続きが有るんでしゅから・・・ちびっこ共も一先ず無きやむでしゅよ。」
「こ〜ら〜!オマエの方がちびっこだろうが、パピリオ。」

軽い調子で話す2人は、今の話でもそんなに動揺した風には見えない。

「はは・・・ま、シロとタマモも続きを聞いてくれって。」

そんな2人の明るさに助けられ、横島は何とか続きに進む。

「ここからが、メインなんだからさ。」

その台詞で、全員の表情が引き締まった。今までのはシロとタマモへの説明で、ここからが全員への説明になる。それが分かったから。

「あの後、その辺に散らばってた霊体片を集めてみたんだけど、結局ルシオラの魂の欠片は1人の人間になるために必要な量にはギリギリ届かなくてな。本当ならルシオラの魂は、その時点で霊界に行ってる筈だったったんだけど、そうはいかなくなっちまったんだ。」
「何故でござるか?」

シロの問いには別の所から答えが出た。

「簡単に言うと、魂を間引きすぎちゃったからなのねー。1人の人間になる魂の量が不足しているって事は、そのまま霊界に行っても次の転生が出来ないって事なのよ。普通魂って言うのは、どんなに壊れても最低限必要な量があればきちんと霊界に帰ることが出来て、それで霊界に帰りさえすればちゃんと直してくれるのね。」

今まで大人しかったヒャクメがコレを機に説明をしだす。

「でもルシオラの場合は、横島さんにかなりの量の魂を上げちゃったでしょ?それでその魂が横島さんの魂と混ざり合っちゃって、もう取り出せなくなっちゃた・・・・・・だからルシオラの魂は、身動きが取れない状態なのよね。この世界に存在する事も出来ないし、霊界に帰る事も出来ない。無理に他の霊体で不足分を補ったら、転生は出来てもそれはルシオラの魂じゃ無くなってっしまう。例えは悪いけど、横島さんに括られているようなものなのねー。」
「ヒャクメ!それはっ!?」

ヒャクメの台詞に小竜姫が慌てる。言ってる事自体に間違いは無いのだが、今の言い方では横島が気に病むかもしれないと想ったからだ。

「いや、実際そんなもんですよ。だから、例えば俺が死んじゃったりすれば俺の魂と一緒に霊界に行く事が出来て、その後で普通の転生も出来たんですよね・・・・・・多分。」

―― !! ――

それは、絶対に横島に知られてはいけない事だった。横島がそれを知ったとしたら、果たしてどんな行動に出るか・・・・・・
最悪の事態が容易に想像できる為、この事実はヒャクメと小竜姫とワルキューレの3人が決して知られぬように握りつぶしてきたのだった。

「はは・・・大丈夫ですって。俺が選んだのはもうひとつの方法ですから。」

そこで横島は、視線を膝の上で眠る赤ん坊に向けた。

「じゃあ、やっぱり・・・・・・」

真剣な表情で横島を見つめる美神。

「はい。美神さんの考えてくれた案・・・・・・・・・・・・実行しました。」

美神は思い出す。あの時自分が横島に言った事を。

―― 転生先が、横島君の子供だったとしたら? ――

それは一つの可能性として・・・・・・
あのままだと潰れてしまいそうに見えた彼の為に、無理やりに見つけた・・・
おそらくはその場しのぎに過ぎない単なる慰めだった。

―― はずなのに ――

ただそれだけだった、はずなのに・・・・・・


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