ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−30


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 1/30)








「先日起きた、某国某所のテロ事件に関する速報です」


大通りに面する電気店のショーウィンドウ。
そこに飾り付けられたTVが緊急特番を垂れ流している。


「・・・・・・また、目撃証言などから犯人グループは既に割り出されており、GS協会とICPOは連名で今朝未明に国際指名手配の発表を行いました。発表によれば、指名手配犯は日本国籍を持つ美神美智恵、美神令子、横島忠夫、氷室キヌ・・・・・・」


横島は歯を食いしばる。
目の前のTVには、顔写真付きで美神達の指名手配が報道されている。
既に六道女学院や日本GS協会には報道陣が詰め掛けている。



曰く、

『この学園の霊能科の生徒が、テロ事件に参加していたらしいがどう思うか?』


曰く、

『協会員からテロ事件の犯人を出したご感想は?』



などなど。
彼らは迅速なGS協会の対応を全く疑ってはいない。
美神達のネームバリューの高さも影響した。
また、GSという一般人には理解の浅い職業の人間であることも悪印象を与える。
それで無くとも、世間ではアシュタロス戦の英雄。
それが令子達だ。
英雄の犯した犯罪。
実にワイドショー向けの話題を提供した形となったのだ。


「ですから、詐欺師の集まりで・・・・・・」


コメンテーターがしたり顔で解説している。
何と言ったか・・・・・・プラズマで全ての怪奇現象が説明つくと豪語する世間知らずの大学教授だ。


――――何も知らないくせに!!!!


横島はそう叫びたいのを堪える。
出来るものなら今すぐにでも殴り飛ばしに行きたい。
そしてTVの前で美神達の無実を訴え、GS協会の陰謀だと明らかにしたい。
しかし横島自身、指名手配を受けている身だ。
そんな目立つことをすれば、すぐにでも包囲網が敷かれるだろう。
横島は自分の不甲斐なさに死にたくなる一方だった・・・・・・。












横島が目を覚ましたのは、研究所が消滅してから丸2日経ったころだった。
気が付くと六道家の敷地内にいた。
朝方に倒れている横島を発見して、慌てたのは散歩をしていた六道女史である。
身体から霊気が失われ、魔力に満ちていることを一目で見抜いた彼女は、早速敷地内に魔力を完全に遮蔽する結界を張った。
少なくとも人間に感知される恐れはない。
横島をベッドに移して一息吐いたところで、ワイドショーが騒いでいるのに気付いた。
報道の内容は、さすがの彼女をすら唖然とさせた。
ヨーロッパ某国で大規模なテロが起きたというモノだった。
無論、六道女史は美神達が何をしに行ったのかは大体把握している。
そのテロが何を目的に起こされたモノかはすぐに直感した。
しかし、成功したなら何故に横島がここに一人で倒れていたのか。
研究所襲撃へは娘の冥子も参加している。
六道女史はさすがに焦れる思いを押し殺すのに、相当の忍耐を必要とすることになった。
幸い、彼女の忍耐が切れることはなかった。
横島が目を覚ましたのは発見の翌々日。
その頃には目を皿のようにして、ワイドショーや独自の情報網から情報を得ていた六道女史。
早速彼女は横島に真相を問いただした。





「そうだったの〜」

「美神さん達も無事なら良いんですが・・・・・・」

2人の表情は冴えない。
六道女史の中では1つ確定したことがある。


――――令子ちゃんたちはハメられたのだね〜。


「で、どうするつもり〜?」

「どうって・・・・・・美神さん達の無実を証明しに行きますよ。ここに生き証人がいるんですから」

横島はゾンビのような様子で応える。
生ける屍。
まさに今の横島の状態だ。


「言っておくけど〜、横島君自身も容疑者にされてるの〜。
 横島君自身の潔白も〜、証明しなきゃいけないのよ〜?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


事態の急変に頭が追いついていなかった横島は言葉に詰まる。
逆に六道女史は横島が目覚めるまでたっぷりと考える時間があった。


「GS協会をこのままのさばらせろって言うんですか?!」


協会のやり口に辟易していた横島の沸点は高い。


「そんなことは言ってないわ〜。
 でも、やるからには勝たなきゃいけないのよ〜。
 しばらくは六道家に任せて、傷を癒しておきなさい〜」


確実に目の前の六道女史は自分より冷静だ。
それと悟った横島は素直に従うことにした。












横島忠夫は現在、文珠を顔の周りに使っている。
『幻』を使うことによって、霊力の無い人間には別人に見えている。

六道家の中でぼんやりとしていることを良しとしなかった彼は、行くあてもなく彷徨っていた。


「腹減ったなぁ」


食欲が無いと朝食を取らなかったが、さすがに夕暮れ時まで歩き詰めだと腹が減る。
何となく、いつもの癖で美神除霊事務所の方へ足が向かう。
どうせ横島を探す協会の連中が待ち受けているだろうが、遠くから眺めるだけ。
そう決め込んで、横島は歩いた。


ぼんやりと歩き続けて、横島はすぐには気付かなかった。

夕暮れ時のこの街。
会社帰りや学校帰り。
夕食の買い物帰り。

様々な人々の雑踏が無い。





横島は何時の間にか、擬似空間に迷い込んでいた。







―――― エピソード30:second stage ――――






「美神除霊事務所……か……」


今、横島は事務所の前にいる。
自分が妙な空間に迷い込んでいることは、さすがに気付いていた。
気付いていたからこそ、そのまま事務所へ進むことを選択した。

――――どうせ通常空間じゃ近づけないからな。

GS協会の罠という疑念は最初からない。
良くも悪くも世界トップクラスのGS達と共にいた横島には、人間の限界というものが分かっている。
空間に干渉するなんて、人間の能力を超えている。

そんなわけで、事務所の扉を開く。
人口幽霊1号の気配も無い。

静寂。

ただそれだけが事務所を支配していた。





「フーッ」

一息吐いて、横島は応接室を兼ねた所長室――令子の仕事部屋のソファーに身を沈める。

「美神さん達……無事だよな……?」

誰にともなく呟く。






「知りたい?」

唐突に女の声がする。
まるで最初からそこに居たかのように、その女は令子のデスクに腰掛けていた。
しかし横島が慌てることは無かった。
その女性は正しく美女だったが、欲情することも無かった。
感情が摩滅したかのように、無表情・無感動で女に応じる。

「ああ、知りたいね。他にも色々とね」

その返事と様子に満足した女――――リリスはにっこりと微笑んだ。











横島が淹れた紅茶を飲みつつ、リリスは観察する。


――――アシュタロスの力は定着してるみたいね。


「で、俺に何か用事があったんじゃないのか?」

「とりあえず、貴方の観察……カナ?」

コケティッシュな表情で横島の目を覗き込む。

「アシュタロスの知識によれば、それだけで済む女じゃないはずだけど?」

対して横島が反応することは無い。

「そう……知識・記憶の方も定着してるみたいね」

「頭の中に電子辞書があるようなもんさ。
 検索すると知りたいことが出てくる。
 ただし、検索しないと何の知識も出てこない」

「でしょうね。
 アシュタロスの人格が乗り移ったわけではないから、どうしてもそうなっちゃうわね」

そう言ってから、リリスは魔力を貯め始める。
それをぼんやりと眺める横島。

「知りたいんでしょ?美神令子達の様子。
 見せてあげるわ」

言いながら、リリスは空中にビジョンを浮かべる。
思わず横島が視線を向けると、令子の顔のアップが映し出されていた。







「令子ちゃんの様子はどうですか?」

西条が疲れきった表情で、隣の独房の美智恵に話し掛ける。

「駄目ね。未だ放心状態よ。
 というより、おキヌちゃんもね」

美智恵が壁一枚挟んで西条に応じる。

現在、美智恵達はどことも知れぬ場所で囚人よろしく囚われの身となっていた。
いや実際に囚人なのだろう。

「小竜姫さまの様子はどうです?」

「分からないわ。
 ヒャクメが付いてるはずだけど・・・・・・」

二人とも、気付いた時には既に独房の中だった。
色々調べた結果(といっても、声を掛け合う程度)、今いるフロアには人間だけのようだ。
小竜姫とヒャクメ、シロにタマモ、ワルキューレやジークはいない。
さらに、この牢獄には特殊な細工がしてあって、常に霊力を下げ続ける仕掛けのようだ。
いつぞや、令子がアトラクションに利用したような仕組みだろう。

「横島君も連れて来られてるのでしょうか?」

「分からない。
 情報が何も無い・・・・・・判断のしようがないわ」

そう言って娘を眺める。

少し、いや、かなり衝撃的な出来事だったのだろう。
横島君を魔族化させた原因が自分にあると責め続けているのだろうか?
残酷なようだが、事実そうなのだろう。
令子の行動だけが原因では無いが、大きな原因の一つに数え上げられることは間違いない。

――――それだけ慕われていたって証拠なのだけれどね。

令子がそのことを知って喜ぶのか、悲しむのか。
それは分からない。
全ては令子の心の中。






塞ぎこんでいるなら、そっとしておきましょう。

話を聞いて欲しいなら、きちんと聞いてあげましょう。

嗚呼、身も心も傷付いた大事な娘よ。

娘が好意を寄せる少年よ。

そして、娘の大事な仲間達よ。

貴女達に幸多からんことを。








今の美智恵は無力だった。










リリスの見せるビジョンに見入る横島。
その表情は酷く悲しげで、儚げで、怒りに満ちていた。
予想通りの反応に一人ほくそ笑み、話し掛ける。


「ねえ?彼女達を助けたくない?
 貴方を助けるために捕まった彼女達を助けたくない?」


リリスの誘惑が始まる。




――――第二段階スタート。


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