ザ・グレート・展開予測ショー

罪と罰


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/27)



 この話は多分、少しダークで、シリアスです。


 雨上がりの空がとても綺麗で、眺めていた。いつかどこかで見た覚えのある情景、そんな気がするのだけれど、思い出せなかった。
 火照った体に、そよぐ冷たい風が心地良い。妙に、心が騒ぐ。まるで、何か悪いことでも起ころうとしているかのように。
 雨は止んだのだ。



 白く濁ったため息は宙に霧散し、また、同じような光景に目を細める。何も変わることはない、たとえ、自分が死んだとしても、この光景が変わることはないだろう―――そんな、ことさえも考える。
 弱気だった。いつになく。


 振り向くと見える古い洋館に何かしらの感慨を覚える、ここで過ごす日々は、決して悪い気はしなかった、それどころか、幸せであったようにすら感じられる。自分の『仲間』だと言う人々にとっては、恐らくは望ましくはない感情なのだろう。
 ―――そんなことは分かってる、だけど。
 一生涯で、忘れることの出来ない絆というものはある。それが誰とのものにしろ、失いたくないと言う気持ちはある。裏切りたくはないという気持ちはある。それでも、一度裏切られた絆を手繰り寄せてまで、自分は過去との決別を恐れるのはあまりにも愚かな気がした。
 彼女らが憎いわけではない。いや、むしろ、いとおしい。だからこそ、裏切られたのは悲しかった。辛かった。
 そして、そんな俺を優しく慰めてくれたのむしろ、この時間も殆ど共有していない彼女らだったのだ―――人は愚かと笑うかもしれないが、嬉しかった。自分の持つ全てを彼女らの為に尽くそうと思うほどに。
 彼女らの主のことは知らない。知りたいとも思わない。ただ、彼女らの為に自分はここにいる―――自分で選んだことだった。後悔しないと言えば嘘になるが、それでも、振り返らないと決めた。渡されていた通信鬼は、破壊した。もう、彼女らの元には帰れない―――帰らない。



 買出しの車の中で話された。彼は人間を裏切って私達の側につくと言った。目の前で、通信鬼を壊して見せ、笑顔で笑った。

 「これで帰れない、だろ?」

 私はどう言っていいのか分からなかった。ただ、彼の心に迷いがないと分かった。思う―――彼はもう、幸せと言うものには無縁になるだろう。少なくとも、人としての幸せとは。
 今まで彼が生きていた日々を、自分たちは否定してきたのだ。そして、彼はその否定を受け入れてしまった。それは、私達にとって望ましいことであるかは分からない。
 ただ、自分たちが死んでしまった後に、彼はどうなるのだろう?そんなことを考える。

 「ヨコシマ・・・」

 私達は、たった一年しか生きられないの・・・。



 昼と夜の間の一瞬の情景。つかの間の夢、恐ろしく美しく、はかない。いつまでも、このままで、と望んでも、沈みゆく太陽をとめる術などありはしない。日々、繰り返される流れの中で起こりうる奇跡を、必然としてみているに過ぎなくとも、変わることはきっとない。
 それでも、祈った。いつまでも、この瞬間が消えないでいてくれることを、願った。




 南極の塔で相対した時に見た、美神さんたちの顔は結構きつかった。笑顔から、悲しげな顔、そして、怒った顔。裏切られたものの見せる、絶望感と悲壮感を含んだ、怒り。
 仕方がないことだと思う。説明しても変わりはしないだろう。少なくとも、俺が彼女らを裏切ったのは事実だから。

 「・・・美神さん、スイマセン」

 「・・・どういうことかは知らないけど、つまりは、裏切ったってことよね」

 その問いには答えない。答える必要もない。栄光の手を纏わせ、向ける。
 俺の持った答え。それは、彼女らの為に生きること。
 人に裏切られた、俺を慰めてくれた、彼女らに報いること。
 馬鹿げた話だとは思う。けれど。
 愛したものの為に死ねるのは、悪くない。いつもなら、何が何でも生き抜こうと思うのに、妙に、心は穏やかだった。

 「先に裏切ったのは、そっちっすから」

 呟きは、心中の中でだけ。




 西条の銃弾が、俺の右腕を撃ち抜いた、が、無視する。ゆっくりとでもいい。ただ、間合いを詰めることができれば。悲鳴の中に見える、罵倒や、警告は、すり抜けていくかのように、頭の中に認識される前にすり抜けてゆく。
 次は右足。少し、歩くのに不便になったが、引きずってゆくのには、問題はない。
 次は左腕。
 一歩踏み出すごとに、いや、踏み出さなくとも激痛の走る身体は、最後の生を実感させる。なんとも複雑な気分だが、これが俺に与えられた罪に対する罰なのだと勝手に考えると、それ程悪い気分じゃなかった。彼女らにとってはいい迷惑だろうが、本当に、悪くはない。
 心に負った痛みを、やわらげてくれるから。
 西条の腕をおキヌちゃんが抱きつくようにして掴んでいる。そのせいで、西条は撃つことが出来ない。雪之丞達は躊躇っているのか、動く素振りも見せない。マリアや、カオスでさえも。
 間合いは僅かに三メートル。神通棍を振られれば、俺はそのまま倒れて死ぬ。
 美神さんは、身動き一つしなかった。いや、震えていた。死を目前にした恐怖か? それとも、自分を殺すことへの恐怖だろうか?
 躊躇わずに、振り下ろして欲しい―――身勝手で、自虐的な考えが心の中で芽生える。感じる、矛盾。敵味方別れても、結局はこう言う思いに駆られる自分が馬鹿馬鹿しいやら、面白いやら―――悲しいやら。


 「美神さん、俺と一緒に来てください」

 ポケットに入れた『転』の文珠が輝き、美神さんと俺を包む。その時、西条の銃弾が、俺の脇腹を貫いた。そして、『移』の文珠のある、主の間に転移する。

 「横島君!?」

 駆け寄ろうとする美神さんをまだ、かろうじて動く右腕を振って、制す。それでも、近寄り、自分の服に、返り血がつくのも躊躇わずに抱き寄せる。
 どうして―――泣いているんだろう?少しくらいは思ってくれていたんだろうか?自然、笑みがこぼれる。でも、違うんです。美神さん、違うんです。

 「・・・ヨコシマっ!!」

 駆け寄るルシオラ、パピリオ、ぺスパ。主人の傍にいた時の冷徹な顔ではなく、優しい、仲間を見る顔、それを泣き顔でくしゃくしゃにしていた。

 「・・・あんたたちが・・・横島君をそそのかしたのねっ!!」

 美神さんが戦闘態勢をとる、が、彼女達は俺の傍から離れようとはしなかった。

 「どうして・・・どうして・・・」

 事前に説明していた通りにやれば、きっと、こんなに酷い怪我を負わずにすんだんだろう。でも、それでは、彼らの顔が見れなかった。
 あまりにも身勝手な自分を罵る彼らの顔、それが見たかった。そうすれば、心は何処までも冷たくなれる―――勘違いも甚だしかった。彼らは俺を罵ることはしなかった。ただ、悲しい怒りを身に纏っていた。

 「罪には罰が・・・与えられなければならないんだ・・・。敵―――ルシオラを愛した時点で、きっと、こうならねばならない・・・そう、思ったんだと思う」

 身体から力が抜けてゆく。もう、動けない。


 遠くで誰かの声が聞こえた気がした。それが誰の声なのか、俺には分からないけど。
 恐らく、終末はもうすぐそこに来ているに違いない、手を伸ばせばすぐ、届きそうなほどに。




 ごめんな、ルシオラ




















 夕日、もう、一緒には見れないよ・・・

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