ザ・グレート・展開予測ショー

彼の大きさ(4)


投稿者名:ANDY
投稿日時:(03/ 1/27)

 ここはとあるアパートの一室。
 四畳間、風呂なし、築三十年のいまどきなかなかお目にかかれない物件だ。
 そこの一室に今本来の主でない人物がいた。
 この部屋の主のものなのだろう。
 壁には学ランが掛けてあり、机の上には集合写真が一枚置いてあった。
 卒業式なのだろう。それぞれが一輪の花と、卒業証書を持ち、涙を流しながらも、その顔にはこれからの未来に向けての希望の輝きが宿っていた。
 その写真の下に一冊のノートがあった。
 侵入者はそのノートを開き、読んでみた。
 日付はアノ日から始まっていた。

 ○月△日
 今日、あいつが死んでから一週間がたった。
 初七日って言うらしい。
 が、俺にはなにもない。
 あいつの写真一枚すら。
 ただ、今日はあいつと一緒に見た場所で夕日をずっと見てやるぐらいしかしてやれなかった。
 ちくしょう。

 最後のほうの文字はにじんでいた。

 ○月○日
 今日、俺は妙神山にいった。
 今GS業界はアノ事件の余波のためか、開店休業状態だからか、あの美神さんがあっさりと休暇をくれた。
 不吉だ。まさかアシュたロスが復活するのか?と思ったが、どうやら俺の気分転換にと思ってくれたらしい。
 道化の仮面を完璧に被っているつもりだったんだがなあ。
 で、小竜姫様に修行をつけてくれと頼んだら拒否された。
 何でも、今の俺の状態はアイツの霊体構造がまだ安定していないそうで、そんな状態で修行をしたらどうなるかわからないそうだ。
 それでも俺がしつこく頼んだら、安定してからなら良いとの許可を得た。
 そして、帰り際に「霊力養成ギブス」って言う名前の術を掛けてもらった。
 なんでもこれは、霊力を最大に出していないとくっついてしまうと言う厄介なもので、例え寝ているときでも最大でないと寝ることは出来ないそうだ。
 それを両手両足に掛けられた。
 正直言ってつらい。今この日記をつけるのもつらい。
 が、強くなれるならなんだってやってやる。
 もう二度とあんなことは味わいたくない。

 ○月×日
 ギブスをつけて一週間がたった。
 やっとこれにも慣れてきた。
 何とか寝ることが出来るようになった。
 この一週間ろくに寝れなかったからなあ。
 早く大の字で寝たい。

 △月◇日
 今日はあいつの四十九日。
 なけなしの金で買った花束を持って、アソコに行った。
 今日の夕焼けもきれいだった。
 本当に、沈む瞬間が一番きれいだよ。

 △月○日
 小竜姫様のところで修行を始めて一週間が経った。
 ギブスをつけているからとはいえ、アノ二体にてこずるようじゃ俺は弱いと再認識した。
 強くなってやる。
 あと、パピがやっと笑うようになった。
 パピにはやっぱり笑顔が似合ってるぞ。

 △月×日
 今日いきなり老師が俺の組み手の相手になってくれた。
 惨敗だった。
 強いって言うレベルじゃない。
 小竜姫様が子供のように感じてしまった。
 俺にその技を教えてくれと頼んだが、俺にはまだその資格はないといわれた。
 一体なにが俺に足りないんだ?

 ◇月○日
 今日、学校で居眠りが久しぶりに出来るようになった。
 やっとこのギブスにも体がなれたみたいだ。
 この調子で強くなれたら。

 ◇月×日
 今日、前とは比べ物にならないほどのギブスをつけられた。
 大の字で寝れるようになったと言ったら、術を解いてくれて、霊派を最大出力で出してみた。
 驚いた。今までとは比べ物にならないほどの力が出た。それに、文殊が一度に十個も生成できた。
 小竜姫様に頼んでもっときついのをつけてもらった。
 これでもっとあがるはずだ。

 ◇月◇日
 今日久しぶりにGSの仕事があった。
 久しぶりだからか、美神さんの顔が嬉しそうだった。
 俺は、今日も道化を演じた。

 
 ◇月△日
 今日学校の図書館で漢字辞書を読んでいたら、クラスの奴らが「この世の終わりだ」なんて騒ぎやがった。
 むかついた。
 「俺だって本ぐらい読むぞ」、と言ったら、「エロ本だろ」と言い返された。
 そういえば最近読んでないなあ。

 ×月○日
 昨日、妙神山からの帰りに突然襲われた。
 魔族だか神族だかわからなかったが、とにかく強い奴だった。
 俺はとにかく逃げた。
 が、相手は執拗に俺を追いかけてきてそのため戦った。
 でも、いくら最近強くなってきてるとはいえ、人間が魔族神族に単体で立ち向かっても歯が立たなかった。
 東京タワーの展望台の上で殺されそうになったとき、あいつの声が聞こえた。
 あいつは「生きて」と叫んでいた。
 あいつは俺にこう言った。「私が死んでもいいの!」って。
 その言葉を聞いた瞬間俺はわかった。
 あいつは死んでなんかいないって。
 俺の中で生きているんだって。
 そして、死にたくない、と思った瞬間、俺の手にアノ文殊が出た。
 『二文字文殊』が。
 それに『消滅』と言う文字を入れてそいつを倒すことが出来た。
 やっとわかった。
 どうしてあの時使えたコノ文殊が今まで使えなかったか。
 お前を俺が感じることが出来てなかったからなんだな。
 お前はいつも俺と一緒にいたって言うのに。力を貸してくれようとしていたのに。
 でも、今日はっきりと感じたよ。お前の存在を。
 頼りない男だけど、力を貸してくれな。
 さっきまで寝ていて、今西日が俺の部屋に差し込んでる。
 この夕日に掛けて誓うよ。
 「もう二度と、目の前で命の光を消させはしない」傲慢かもしれない。でも、二度とあんな思いはしたくないし、させたくもないからな。
 そして、「どんなにみっともなくても生き抜く」。お前に言われたとおり、そう簡単には死にはしないさ。どんなに無様になろうとも、絶対生き抜いてやるさ。
 お前のおかげで、俺はどうやら一歩前進できるみたいだぞ。
 なあ、ルシオラ。 

 ×月△日
 今日久しぶりに妙神山に行った。
 そしたら、小竜姫様とパピに、「なにかあったのか?」と聞かれた。
 この間のことかと思ったら、どうも違うらしく、表情が変わったらしい。
 それを聞いて、いかに俺がバカだったのかを知った。
 そのことについて謝罪の意味を込めて笑顔で答えたら、二人とも顔が赤くなった。
 神族魔族でも風邪を引くのか?と不思議に思った。
 そして、老師に会って、ジーっと顔を見つめられたと思ったら、明日から修行をつけてくれると言ってくれた。
 伊達に年はとってないか。どうやら老師には俺の心境の変化がわかったようだ。
 それと同時に、どうして老師があの時修行をつけてくれなかったのかがわかった。
 俺はガキだったんだ。
 でも、今は違う。
 ルシオラ、見といてくれよ。

 ×月×日
 今日もまた襲われた。
 が、老師の修行のおかげで無事撃退できた。
 お前達にやるほど安くないんだよ。俺の命は。

 ×月◇日
 今日文殊を出してみたら、どうも俺は意識するだけで、文字が一つか二つかの区別をつけることが出来るようだ。
 そうとわかったら、生成時間を一瞬で出来るようにしないと。
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 ○×月○日
 今日やっと老師に一撃入れることができた。
 修行の成果が現れて嬉しかった。
 が、その喜びに浸ってるところをフルスイングで叩かなくても良いだろうに。

 ○×月◇日
 今日、超加速もどきが出来ることに気付いた。
 が、それをやったら体力がいっぺんになくなった。
 う〜む。体力を大幅にアップしなくてわ。
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 ◇○月○日
 今日、無事に卒業できた。
 う〜む。あの出席率で卒業が出来るとは。不思議だ。
 中退も考えていただけに驚きもでかい。
 タイガーが式の間中泣いていてうるさかった。
 ピートは式が終わったら女子に囲まれていて、大変そうだった。
 で、俺が一人ボーっとしていると愛子が声をかけてきた。
 俺の第二ボタンが欲しいとのこと。
 なぜ俺かと思ったが、こいつが青春物に憧れてたのを思い出して、快くやった。
 渡す相手はいないんだしな。
 でも、ボタン一つであんなに喜ぶもんか?

 ◇○月△日
 今日、お袋からエアメールが来ていて、中に航空チケットが入っていた。
 電話して聞いてみると、卒業祝いをしてくれるとのこと。
 その言葉に驚いたが、久しぶりに顔を見せるのも良いだろうと思い、了解した。
 が、電話を切った後あせった。
 美神さんに何て言って休暇をもらおうか?
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 ◇○月◇日
 明日の今頃は飛行機の中だろう。
 それにしても、美神さんが休みをくれるなんていまだに信じられない。
 明日から一週間の休暇を有意義に使わせてもらおう。
 で、この日記も一週間ばかしお休みだ。
 向こうに持っていったら、絶対二人に読まれそうだからな。
 さて、次に書く内容はあっちでの愚痴だろうか?
 ルシオラはどう思う?

 日記はここで終わっていた。
 この後のページは全て白紙だった。
 今日は、最後の日記の日から二週間が経っていた。
 なのに、新たな日記はつけられていない。
 これが意味するのは・・・・

 主のいない部屋に嗚咽がただ響いていた。

 

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