ザ・グレート・展開予測ショー

帰ってきた横島 ―10―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 1/26)

・・・・・・お・・・キヌちゃん?・・・・・・

最初、横島には何が起こったのか理解できなかった。

・・・・・・い、今・・・え?・・・・・・

おキヌの行動が見えなかった訳ではない。むしろ見えすぎていたくらいだ。
まったく感情のを現さない顔で見ていた・・・・・・瞬きすらしていなかった・・・・・・・・・そしてゆっくりと振り上げられた右手が・・・

・・・・・・俺・・・今おキヌちゃんに・・・・・・

―― パンッ ――

「!?」

そこには、振り上げられたおキヌの左手が見える。
ようやく先程の状況を理解出来そうになった時、横島は右の頬に熱い衝撃を感じた。

・・・・・・俺、おキヌちゃんにぶたれた?・・・・・・

ジンジンと、ようやく痛み出す両の頬。
相変わらず表情の無いおキヌの顔。
そして再度振り上げられるおキヌの右手・・・・・・
ここで横島は、ようやく今の状況を理解するに至る。

・・・・・・そうか、俺・・・・・・


( Side 横島 )

―― おキヌちゃんにぶたれたんだ ――

俺は、今更ながらな事を思う。先程ぶたれた左の・・・そして今ぶたれた右の頬が熱い。
何て言うか・・・・・・

―― 相変わらず俺って鈍いなぁ ――

俺は心の中で苦笑する。
おキヌちゃんが怒っているのは当然の事だ。俺がした事を考えれば分かりきった事だ。
ただ、表情が見えなくてちょっとよく分からなかったけど・・・・・・・・・だけど、そんなの簡単な事じゃ無いか。
それってつまり・・・

―― それだけ怒ってるって事だろ? ――

いや、もちろんおキヌちゃんの事だから・・・心配だってしてくれただろうさ。無論それは、タマモもシロも同じなんだろうけど・・・・・・
おキヌちゃんはもっと・・・・・・・・・・・・2人とは違うって言うか・・・
結構不吉な想像とかするんだよな、おキヌちゃんて。
ずっと幽霊やってたからか、死ってものに対してかなり・・・ドライって言うか・・・・・・いや、ちょっと違うか?何て言うかな・・・・・・人が死ぬって事が「以外に簡単で、どうしようもない事だ」ってのを本当に理解してるんだよな。
1年間も音沙汰無しだったんだ。俺がもう、死んでしまったんじゃないかって思ったろうな・・・・・・しかも・・・

・・・・・・俺が、自分で自分を・・・・・・・・・って・・・・・・

だって・・・俺自身がそれを考えた事が有るくらいだもの。ま、勿論即座に却下したけどな。
俺の命は俺だけの命じゃないんだ。アイツに相談無く捨てられるわけ無いだろ?

―― 勿論、アイツに相談なんて出来ないしな ――

だから俺にその選択肢は有り得ないんだ。
でも、それって俺だから分かる事なんだよな。ここまで断言できるのは俺だからであって、他のヤツじゃあ多分・・・・・・・・・
しかもおキヌちゃんは、

―― 「アノ瞬間」を目の前で見ちゃったしな ――

あ、3発目が来た・・・・・・

( Side End )


この横島の考えは、彼にしてはかなり的を得た思考だろう。
そう、おキヌは横島が死んでしまったのではないかという疑念を・・・・・・しかも自分自身でそれを行ったのではないかという邪推をずっと捨てきれていなかった。
何と言っても彼女は・・・

・・・・・・アノ瞬間を見ているのだから。

―― ペシ ――

「・・・え?」

3発目の平手は、横島の頬に当たる直前にその速度を緩め・・・・・・叩くというよりは、殆どただ触れるだけになってしまう。
横島は軽い驚きと共におキヌの顔を見やるが・・・・・・
その表情は相変わらず色を映さない。
だがしかし今、おキヌの右の手の平は横島の左の頬に添えられた形で・・・・・・


( Side おキヌ )

3発目の平手打ちは失敗してしまいました。これじゃあ全然痛くないですね。

―― 横島さん ――

私は怒っています。分かっていますか?私は横島さんに怒っているんですよ!?
私は横島さんに語りかけるように・・・

―― 自分に語りかけるように ――

あの日からの事を思い出す。
横島さんが私の前から姿を消してしまったときの事を・・・・・・

あの日の事、覚えていますか?
横島さんがなんの前触れも無く居なくなってしまった日の事ですよ。

『あれ?横島さん来てないんですか?』
『また例によって遅刻よ・・・・・・ったくあのバカ!!』

美神さんが「給料減らすわよっ!?」っていつも通りの台詞を言って、私もシロちゃんもタマモちゃんも「しょうがないなー」って苦笑いを浮かべてた。

―― なのに ――

横島さんはそれっきり事務所に来なかったですね。
しかも、アパートも引き払って、学校も辞めて・・・・・・
色々と話を聞いてみたら、少なくても半月前には私たちの前から姿を消すつもりだったって言うのが分かったんです。

―― ショックでした ――

だって、前の日までそんな素振りは全く見せていなかったじゃないですか?
私たちに黙って消えるなんて・・・・・・ううん、違いますね。
本当は、

―― なんで気付かなかったんだろう!? ――

私はいったい、横島さんの何を見てきたんだろうって・・・・・・それがショックだったんです。
だって、私はいつでも横島さんを見てきたんですよ。
私、横島さんの事を分かっているつもりだったんです。
横島さんの嘘なら直ぐに見破れるって、そう思っていました。
でも、

―― 自惚れだったんですね ――

何も分かっていなかった。あの時それを思い知らされました。

『横島さんが居ないってどういう事ですかっ?!』
『分からないわっ!?分からないのよっ!!ヒャクメの心眼でも追いきれないなんて・・・・・・』

妙神山から戻ってきた美神さんが口にした台詞は、私の望みを容赦なく砕いていく。
あの時です・・・・・・
私が初めてあの考えをリアルに想像してしまたのは。

―― まさか、アノ人の後を追ったんじゃ?! ――

直ぐに否定しました。当然でしょう?!だって、横島さんは前向きに生きていくって言ったじゃ無いですか!
実際・・・前と変わらない横島さんでしたよね?吹っ切れてはいなくたって、ほんの少し寂しそうな表情を見せたって、強く生きてたじゃ無いですか!!?
だからそんな事は有り得ないって思いました。

―― でも ――

またすぐ、同じ事を思うようになったんです。横島さんとアノ人の絆の深さを考えると、本当にそんなこと無いって言えるのか?って思いました。
だって私・・・

―― 横島さんの事分かってなかったじゃないですか?! ――

計画的に失踪したって事は、その前に何かを考えていたはずなのに!?私はそんな事に気がつかなかった!
いつもの横島さんである事を疑いもしなかったんです!!
そんな私が・・・・・・「横島さんがそんな事尾をするはずが無い」って思ったって、

―― どうして間違いないって言えるんですか?!! ――

だからあの時から、私はずっとそんな思いと戦ってきたんですよ。「死んでるかもしれない」って思いと「死んでるはずがない」って思い・・・・・・

―― 辛かったです ――

横島さんに分かりますか?!
どっちの思いが勝つことも無い戦い。それが終わるのは結果が出たときだけ。
生きてるにしろ・・・・・・もしくは死んでいたのだとしても・・・・・・・・・・・・横島さんが帰ってきてくれなきゃあずっとそれを続けなければいけなかったんですよ?!!

―― その辺、分かってたんですか!? ――

・・・・・・・・・そして、

なんで私が、こんなに横島さんの事を心配していたのか・・・

―― 分かってますか? ――

横島さん!貴方だから!!貴方だからなんですよっ!!?
居なくなったのが他の人のだっったって、そりゃあ勿論心配はします。

―― でも!! ――

私の心がこんなに乱れているのは・・・・・・

―― 横島さんだから ――

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんですよ。

私は、そこまで考えて初めて・・・・・・ようやく横島さんの顔を見たような気がした。
さっきまでだって眼の中には入っていたはずなのに、それは実は横島さんを見ていたのではなかったように思う。

―― ああ、横島さんだ ――

目の前に横島さんが居る。この1年、何度この時を夢見ただろう・・・・・・
起きてる時も寝ているときも、何度も何度も、何度も何度も夢見てた。

―― 本当に横島さんなんだ ――

そう思ったら、

―― ホロッ ――

ああ、私泣いちゃった。
そういえば、横島さんが見つかったらどうしようと思ってたんだっけ?
たしか、

―― 抱きついて泣き出して文句を言って困らせて ――

ハハ・・・・・・もう段取り違っちゃってますね。

―― 心配したんですよ・・・お帰りなさいって ――

「・・・ヒッ・・・」

おかしいなぁ・・・・・・多分私ならそうすると思っていたんだけどなぁ・・・・・・

―― ポロッ、ポロッ ――

ああ・・・・・・・・・もうなんか・・・

―― 何も考えられなくなって ――

「ウッ・・・ヒッ・・・・・ヒック・・・」

とりあえず抱きついていいですか?両腕取られちゃってるんで、私は首にしますね。

―― それで暫く泣かせて下さい ――

「ヒッ・・・ヒック・・・・・・ヨ・・・ヨゴジマざん・・・」

聞きたいことや言いたい事はその後にしましょう。

「・・・・・・ヨゴジマざあぁん・・・」

( Side End )


おキヌも又、結局は横島に抱きついて泣き出してしまった。
横島は今、3人の少女にしがみ付かれている。3人が3人とも、それぞれの思いを抱きながら横島の帰りを待ち続けていた少女たちだ。
その思いの丈は、まだ正確に横島に伝わっている訳ではない・・・

・・・・・・だが・・・・・・

それでも伝わる物もある。全てではなくても、確かに伝わった思いもあるのだ。

・・・・・・だから横島は・・・・・・

ただじっと、そんな3人を優しく見つめ続ける。

・・・・・・あと1人・・・・・・

先程何も言わずに行った、彼女が戻ってくるまでは・・・・・・


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