ザ・グレート・展開予測ショー

彼の大きさ(3)


投稿者名:ANDY
投稿日時:(03/ 1/26)

 飛行機墜落事件から36時間経過。
 ここ、オカルトGメン本部にある会議室には錚々たるメンバーがそろっていた。
 一年前に起こった「アシュタロス大戦」を終結させた英雄達がそろっていた。
 が、全員の顔には暗いものが浮かんでいた。
 雪之丞、ピート、タイガーの男三人は己の拳を握り締め何かに耐えているようだった。
 オキヌ、シロ、タマモ、冥子の四人は真っ青な顔をし俯いていた。
 エミ、美神の二人は真剣な表情でどこかを見ていた。
 唐巣神父は祈りを捧げており、カオスとマリアは静かに座っていた。
 小竜姫、ワルキューレ、ジークの三人は神妙な表情で立っていた。
 べスパは泣いているパピリオを宥めていた。
   ガチャ
 そんな会議室の扉を開けて入ってきた人影があった。
 全員の視線を受けたのは、美智恵であり、その後ろに西条とヒャクメを連れて入ってきた。
「ママ!横島君は?!」
「横島さんは無事なんですか?!」
「先生はどこでござる〜?!」
「横島は?!」
「ヨコチマはどこでちゅか?!」
「「「横島(さん)は無事(か)(ですか)(ですかいノー)?!」」」
 それぞれが自分の気持ちを言葉に表し尋ねた。
 美知恵はその言葉を耳に入れながら会議室の前に進んだ。
 その顔はやつれていた。
「結論から言うわね。横島君についてはまだ何もわかっていないわ。生きているのか、それとも・・・」
「私の眼でもだめだったノネ〜」
 二人とも、血を吐くような表情で事実を述べた。
「そ、そんな」
 誰かが漏らした呟きが会議室に響いた。
「だが、事件の原因はわかるんだ」
 そう言いながら西条は一本の8mmテープを掲げた。
「これは、飛行機に乗っていた乗客の一人が撮っていた物で、事件当時の映像が残っているらしい。しかもどうしたことか、偶然にも彼の近くの席の人が撮った物なんだ」
 全員の視線が8mmテープに集まった。
「まだ我々も目にしていないものです。どうします?見ますか?」
 美智恵の尋ねに全員が無言で答えた。「YES」と。
「西条君。用意して」
「はい。先生」
 そして、美知恵の後ろに巨大なスクリーンが現れた。
 そして、映像が始まった。

―事件当日の飛行機内の映像―
『ママ〜!見て見て!きれいな夕焼けだよ〜』
『そうねえ』
 五、六歳の女の子がカメラに―母親―に向かって満面の笑みを浮べて話している。
『あの〜』
『はい?』
『すいません。俺にも見せてもらえますか?』
 母親の隣から声をかけられて、そっちのほうを向けばバンダナを頭に巻いた十八・九の青年がいた。
『うん!いいよ』
 その青年に向かって女の子は手招きをした。
 窓側に身を乗り出しながら青年は母親に頭を下げていた。
『きれいだねえ』
『そうだね』
 そういう会話をし、しばらく黙っていると突如少女から声をかけてきた。
『ホタル』
『え?』
『ホタルはね、如月ホタルっていう名前なんだ。お兄ちゃんは?』
『ああ。お兄ちゃんは横島忠夫って言うんだよ。よろしくね、ホタルちゃん』
『うん!よろしくね。タダオお兄ちゃん』
 その後、数分少女と青年の他愛のない会話が続いた。
 その光景は特別なものではなく、どこにでもある普通のものだった。
 だが、それに終わりのときが訪れた。
『ん!』
 突如、横島が鋭い顔つきになって何もない空間を睨みつけた。
『?どうしたの?タダオお兄ちゃん』
 ホタルの疑問に答えたのは別の声の主だった。
『さすがは「英雄」横島忠夫ですね。まさか気付くとは』
 そんな声と同時に現れたのは、能面のような仮面をつけた醜悪な存在―悪魔―だった。
『俺は、んなご大層なもんじゃないさ』
『ですが、あなたは神界、魔界、人界の三つにとっては「英雄」てき存在なのですよ』
『んなもんにしてくれなんて誰も頼んじゃいないんだけどな』
 軽口をたたきながら、横島は『栄光の手』を出した。
『周りが認めるからこそ「英雄」なのですよ』
『で、一体何のようだ?』
『もうおわかりになっておられると思うのですが』
『俺にケンカを売りに来たんだろ?押し売りはごめんだね』
『いえいえ。ぜひとも買っていただきますよ』
『・・・勝てると思ってるのか?』
『ふ。誰も文殊使いに真正面からやりあおうとは思いませんよ。ですから―』
 そういうと同時に悪魔は消え、横島は隣の親子に覆いかぶさった。
『グハ!!!』
『―あなたの弱点を突かせてもらいます』
 横島の背中には悪魔の鉤爪が深々と刺さっていた。
『では、さような―』
『なめんなああ!!!!』
 悪魔の最後通告の声を食い破るように、横島は叫び、それと同時に暖かくも透明な光が発生した。
 その光が収まると、そこにいたのは、背中から血を流している横島と、無傷の母親とホタルだった。
 横島はあの一瞬で文殊を生成したのだ。しかも、『二文字文殊』を作り出したのだ。
 『浄化』の文殊で悪魔は消えてしまった。
 非現実的な存在が消えた、と言うことを頭が理解すると同時に、周りから叫び声があがった。
『お兄ちゃん!痛い?痛い?』
『全然!大丈夫だよ、ホタルちゃん』
 泣きながら尋ねてくるホタルに横島は笑顔で答えていた。
 そして、治療をしようとしたときに驚愕の声が響いた。
『まだ翼の上に!!!!!』
 その言葉を聞くと同時に横島が翼の方を向くと、さっきのと同じ悪魔が二体翼の上にいた。
『なにを?ま、まさか!』
 横島の声が聞こえたのか、その内の一体が能面のような仮面の口を吊り上げ、笑った。
 そして、エンジンに向けて魔力球を放った。
『くそ!全員ベルトを締めるんだああ!!!』
 横島が叫ぶと同時に、強い揺れが飛行機を襲った。
 周囲の人間が叫ぶのをよそに、横島はすばやく行動を起こしていた。
 まず、ありったけの『二文字文殊』を生成し、その内『絶対』『無傷』『安全』『着陸』の文字を浮べたものを機内の前後に投げ放ち、『吸盤』と言う文殊を自分に使った。これで、飛行機が水面着陸をしても大丈夫になり、激しく揺れる中を走ることが出来るようになった。
 そして、すぐに搭乗口に向かい『開門』と言う文殊を投げつけると同時に、後ろに『防壁』という文殊を投げつけた。これで外に出ても機内に影響は出なくなった。
『誰も死なせるもんか!』
 そう口にし横島は走った。
『うおおおおおおお!!!!!』
 走りながら『栄光の手』を一体に目掛けて伸ばし、突き刺した。
『!』
 一言も発することなく一体は滅びた。
『いや〜。お見事!さすがは「英雄」様だ。お強いお強い』
『残るはテメエだけだぞ』
『そのようだねえ〜』
 横島の殺気のこもった声に対してもその悪魔はどこかおどけた言葉で答えた。
 その言葉を聞きながら横島は焦っていた。
(ちくしょう、血が止まらねえ)
 先ほど受けた場所から出血が止まっておらず、体力をゆっくりとだが確実に奪われていた。
(速攻で決めないともたねえな)
 そう考えているのを知っているのか、悪魔はゆったりと話した。
『いやはや噂以上の強さだねえ。わたしなんか歯に立ちそうにないねえ』
『ならとっとと帰れ。俺はこれからきれいな姉ちゃんといいことをするんだからな』
『そうもいかないんだよねえ。それに、秘密道具もあることだし』
 そう言い、悪魔は手のひらに小さな壷を出した。
『何だそりゃあ』
『見た目はただの壷だけどねえ、甘く見ないほうがいいよう。とっても強力だからねえ。これは「流転壷」っていってねえ、相手をこの世から消してしまうっていう素敵なものさ』
 そう言いながら『流転壷』を横島の方へと向けた。
 向けられて、横島はその壷から禍々しい気を感じた。
『どんなもんだろうがかわせばいいだろうが』
『かわしたら君の後ろにいる人間達が消えちゃうねえ』
『な?!』
『くくく。いいよ、よけても。でもねえ、後ろにいる、何の罪もないいたいけな一般人達はし・ん・じゃ・う・よ♪さあ、どうする?「英雄」様』
『てめえ!!!!』
 横島は頭に血が上るのを感じていた。
 それが外から見てもわかるのだろう。悪魔はよりいっそう可笑しそうに顔を歪めた。
『巻き込みたくなかったら大人しくしなあ』
 そう言い、壷を横島へと向けた。
   グウウオオオオオオオ!!!!
 そんな音を発しながら壷は向けられた先にある全てのものを吸い込もうとした。
向けられた先には、睨みつけている横島と、鉄の箱に乗った多くの命。
『な?!狙うなら俺だけにしろ!!』
『う〜ん?いつ君だけにするって言ったあ?人間の言葉でこんなのがあるんだろう。
「旅は道連れ」ってねえ。団体で逝ければ寂しくないでしょう?それに、人間が何匹死のうが俺は全然かまわないしねえ』
 その言葉を聞き、横島の中でなにかが切れた。
『うおおおおおお!!!』
『な?!』 
 横島は自ら壷へと向かって走った。
 自らが立てた誓いを守るために。
 アノ戦いの後、夕日へと誓った二つの思いを守るために。
「もう二度と、目の前で命の光を消させはしない」と。
『グハアアア!!!』
 人間では決して出せない速度、超加速の二歩手前ぐらいの速さで相手の懐に潜り込み、『栄光の手』を突き刺した。
『くたばれええ!!!』
『グハア!た、ただでは死なんゾーーー!!!!』
 悪魔は最後の足掻きにと壷を飛行機の方へと投げようとした。
 が。
『無駄だあ!!!』
 横島がその壷を奪い取り、そして悪魔と共に地上へと向けて落ちた。
『な?!あなた、死ぬ気ですか!!』
 悪魔は何とか逃れようとしたが、逃れることは出来ない。
 横島は、凄みのある笑みを浮べていた。が、そこには「死」を迎えるものの笑みではなく、「生」をまっとうしようとする笑みだった。
『バ〜カ!誰が死ぬか。死ぬのはテメエだけさ。俺は誓ったんだからな。「どんなにみっともなくても生き抜く」ってなあ!!』
 その言葉を残し、横島と悪魔は雲の中へと消え、その後爆音と衝撃波が飛行機を襲った。
 その後の映像は、着水の衝撃に備えていたのに何の衝撃もなく、誰も傷を負うことなく無事な映像が続いた。

―Gメン会議室―
 映像が終わり、部屋に光が戻ってきた。
 だが、誰も言葉を発しようとはしなかった。
 あまりにも重過ぎた。
 彼の生き方が。
 彼の思いが。
 なにより、そんな誓いがあることにすら気付かせなかった彼の心の強さに。
「バカよ。あんた」
 誰かの力ない呟きだけが部屋に響いた。

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